医者は言う、モルモットは一番診たくない患畜なんだよね
俺はなずなさんから連絡を貰うや、彼女が向かった病院へと急いだ。
小動物を診てくれる動物病院は購入時に伝えてある。
最近は小動物が専門外だと診てくれる獣医が少ないのだ。
ちょっと血が出ただけで死んでしまうから怖いのだろう。
そして、モルモットは獣医が一番嫌がる患畜だ。
診察台でぴぎーぴぎーと殺されると必死な悲鳴を上げまくり、医師が診察するどころじゃ無くなるのだ。あの小さな体からよく出るなと思うぐらいの、物凄く大きな悲鳴を上げるのだ。まるでマンドラゴラが叫ぶ伝説みたいに。
そんなモルモットを抱えて動物病院へ飛び込んだなずなさんは、どれだけ心細いことだろうか。
俺は慌て急いで向かい、良く知っている獣医の待合室に飛び込んだ。
ああ、薄グレーのトレーナーワンピにスニーカーという姿という、日常着のなずなさんが待合室のベンチに座っていた。
ただし、なずなさんこそ殺される予定と信じ切ったモルモットのような風情だった。
ペットキャリーを胸に抱きしめて、死刑囚のように頭を垂れていたのだ。
「大丈夫?」
俺は声をかけながらなずなさんの横に座った。
なずなさんは鼻を大きく啜ると、え、泣いていたのか! ああ、泣いていたんだな! 俺がもっと早く来ていれば! 茶々は死んでしまったのか?
俺が死にそうもなかったはずの茶々の死因に思いを馳せていると、泣いていて可哀想ななずなさんは茶々の状態を語りはじめた。
「ち、ちゃ、茶々のお尻から血が出ている」
「ど、どんなふうに。まだ出ているのかな。血便?」
「い、一滴位の血が落ちてたの。ぐす。お尻にもちょっとだけ。か、鞄みる?血の付いたパインチップと、お尻を拭いた時のティッシュは持ってきたから」
「さすが」
俺はなずなさんの鞄を引き寄せると、中を開けてジップ式の密閉袋を取り出した。そこには彼女が言った通りの証拠物が入っていた。
鮮血の証拠品。
彼女の膝の上のキャリーを覗けば、一心不乱に牧草を齧りながら時々うぐうぐと嘔吐のような素振りを見せる茶々がいる。
俺は散々にモルモットを飼育させられた経験から、茶々の病状とこれからをきっと正確に理解してしまったといえよう。
証拠物をなずなさんの鞄に再び片すと、俺は彼女の慰めになればと彼女の肩に腕を回した。
絶対に診察後にはもっと慰めないといけないと思いながら。
これはモルモット飼育初心者の初めに通る道なのだ。
病院代は俺が払おう。




