世界の終わり
過去との決別から一週間。
両親は、特に母は、綾乃の来襲が無くなり心が落ち着いたのか、明るい口調の元気にしている系の電話ばかりとなった。
いや、毎日二回は掛けてくるので、ちょっと以前の方が良かったくらいだ。
以前は二日に一回だった。
また、千絵との親交が復活すれば、自然と他の面々は私への風当たりを収めて静かになってくれた。
ごめん、と、謝ってくれた人もいる。
綾乃は私の誤解が解けて親交が復活できたのは自分の働きであると自慢しているらしいが、もう私にはどうでもよい人だ。
メールももう来ない設定にしてあるし、親には友人ではなくなったと伝えたので、私も親も綾乃に煩わされる事はもうないと信じたい。
さて、私の人生はとっても上向きになっているようだが、私の気持ちは下向き人生の時ぐらいに落ち込んでいた。
営業目的の人にしか優しくされない魅力のない私だ。
いや、あんなに素晴らしい外見で、あんなにも優しい男性たちが、こんなどこにでもいる私に最初から恋心など抱くわけもないのはわかっている。
けれど、そんな素振りで揶揄われた私は、彼等に恋をして、彼等に会えない日々を辛く思っているのだ。
「でもさあ、二人って言う所がミソよね。確かに、二人ともとっても素敵な外見だったけど、二人とも兄弟とも思えないぐらい似ていないじゃない。似ていたのは、外見が素晴がらしい。そこだけじゃない。ううん。優しいばかりも、彼ら二人の共通項ね」
ナオキ君のママはナオキ君だけのママだった。
「マサオのママはマサオが二歳ぐらいで亡くなったのよ。私はホテルで歌を歌っていた歌姫だったからね、昼間は暇じゃない? 昼間は私がマサオを育てていたの。だから、そう、マサオも私の可愛い子供ね」
そして、彼女は私の涙腺が崩壊するようなことも言った。
「ナオキはいじめられっ子だったから、マサオがあの子を見守ってくれたのよ」
なんて素晴らしいお兄さんなの!
そこまで思い出して、続けてホテルの食事の時の会話も思い出した。
専門は何かと訊ねた時、ナオキ君はぱああと笑顔を満開にさせたのだ。
「遺伝子工学! 兄さんもね、同じなんだ。同じ大学の先輩後輩なんだよ」
私は気が付いたが、いや、誰しも気が付くだろうが、ナオキ君はマサオ君の話題になるととってもキラキラする。
こっちの気持ちがほんわかするぐらい、ああ、お兄さんが大好きなんだな、という事が解るキラキラぶりなのだ。
反対にマサオ君は表情など変えない。
しかし、ナオキ君のことを愚弟と言いながらも褒める褒める。
ほんっっっっっとに仲良し兄弟なのだ。
「二人で一人っていう感じだから、二人に一時に恋をしちゃったのかしらね。ねえ、茶々ちゃん」
私はケージの中の茶々を覗き込み、換えたばかりの床材に真っ赤な液体が付いている事に気が付いた。
ほんの一滴位の真っ赤な液体だ。
「きゃああ。茶々ちゃん。怪我をしたの!」
ケージ掃除をするときには部屋を好きに歩かせているけれど、その時にこの子は怪我でもしたのかしら!
私はケージの出入り口を開け、がしっと茶々を掴んでケージから引き出した。
プギーと抗議の声をあげたが、あなたはそれどころじゃないでしょう。
前足右は良し、左も良し、後ろ脚も両方大丈夫。
じゃあ、この血は私のささくれか何かだったのかしら。
茶々をケージに入れかけて、茶々のお尻に赤いものが半適ついていた事に気が付いた。
これは! お尻からの血だ!
この子は病気なの?
「いやだああ、茶々ちゃん!」
ああ、茶々はなんだかうぐうぐってしている。
心配で心が張り裂けそうだと私は茶々を膝に乗せ上げたが、茶々はあの日のように私の膝の上で体をキュウっと丸め、小鳥のような囁き声で泣き出した。




