でも本当に好きなんだ
二次会会場を出てすぐ、なずなさんは俺達に頭を下げた。
頭を下げてから、俺達を見上げてくれた。
最高の笑顔で。
見上げられて、にこって笑うだけで、俺の胸をどきんと大きく鳴らせるなんて、なずなさんはなんて凶悪なんだ。
今日はありがとう。
物凄くお世話になりました。
私には親友も残っていたし、元の婚約者が真心に値しないべっちょりキス野郎だとわかったし、みーんなナオキ君のおかげね。
ああ、いや、これは俺の補足だ。
優しいなずなさんがそんな汚い言葉を言うわけがない。
彼女は元婚約者に関してはこう言ったのだ。
「裏切られた時は傷ついたけどそれだけだったのは、私の本心が達郎とのその先を望んでいなかったからなのね」
俺と兄は哀れな元婚約者を笑い飛ばした。
そして、なずなさんを連れて俺達の街に戻ってきて、親父が経営しているホテルのレストランに突撃したのだ!
少し遅い時間である事と田舎のホテルというだけあり、経営者の親族である関係などなしに簡単に席が取れた。
今日だけは経営難万歳と言うべきか。
田舎の夜景を見てもどうなのかと思うが、ホテル周りの繁華街の灯り以外は畑や林がひろがり、所々に家の灯りがあるという風景は俺には落ち着けた。
いや、見るべきものが無いからか、俺達は会話に集中できたのだ。
好きな映画、好きな音楽。
何を勉強したの?
わぉ! なずなさんは学芸員の資格を持っていたの? ええと、僕の専門は遺伝子工学だよ! でね、兄さんもなんだよ!
食事に舌鼓を打ち、普通に親友のようにして語り合い、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎた。そういうものだ。そしてお別れの時間だと、俺達はなずなさんのアパートの前にいる。
彼女はまたそこで俺達に深々と頭を下げた。
お礼を言ってくれたなずなさんはとても可愛らしく、でも、俺にはとっても辛い存在となっていた。
今日は人生が交差したけれど、明日からは単なる他人なんだよね。
兄となずなさんポイントを語り合うなんて、俺はもうできない、と思った。
今日みたいに一緒に笑っておしゃべりがしたい。
今日みたいに一緒に笑っておしゃべりが出来なくなったら辛すぎる。
「あの、ねえ、えと。今日は本当にありがとう。それで、ええと」
「いつでもお店に来てください! 町で俺を見かけたらマサオ君と呼びかけて下さい! 俺こそあなたを見かけたら声をかけますからね。いいですか?」
「え、ええ、もちろんです!」
真緒様! 俺こそあんたに一生ついていくよ!
「ああ、良かった。俺はなずなちゃんを見かけてからお喋りしたいってずっと思っていましたからね、今日は本当にラッキーでした。明日は今日仕上げられなかった書類を仕上げないといけませんけど、まあ、那緒が助けてくれるだろうし。なあ」
俺は、そうだ、と答えてなずなさんに微笑んだ。
俺も、いつだって俺に会って欲しいとなずなさんに伝えるのだ!
「モルモットはね、世界の終りのように泣きわめきます。子育てに疲れたら何時でもいらしてください。それで、いつでも俺に電話ください」
なずなさんは目を丸くして俺達をぐるりと見回し、そして、小鳥のように可愛らしい声を出して笑った。
「もう! 全く、営業熱心ですね! 今日は本当にお疲れさまでした!」
あれ?
なずなさんはパシッと再び俺達に頭を下げると、ピシッとした雰囲気でオートロックのエントランスに消えてしまった。
俺は兄に肩で突き飛ばされていた。




