当たりを引く男
また母が何かを送ってきたのだろうか。
私が元婚約者と元友人に対して慰謝料を請求した事が恥ずかしいと母は言うくせに、私の生活が心配だからと様々な日用品を送ってくるのだ。
お歳暮かお中元セットのようなものばかりなので、以前に貰っていたものが実家には必要無いからあげる、程度なのかもしれないが。
今度は玄関ドアの呼び鈴が鳴り、私は玄関へと向かったが、あれ、なぜかナオキ君が立って私の横にいる。
荷物持ち、な気持ちなのかな。
実は私は先ほどからドキドキしている。
この目もくらむ比賀江兄弟が、私の名前を感嘆詞付きでため息ついて見せたり、抱きしめたいなんて不埒な事を呟いたのだ。
冗談が過ぎるよ!
自分に自信がない私には冗談を笑って流せる余裕なんて無いのに!
でも、私に好意を寄せてくれているのだとしたら?
いやいやいやいや、そんなわけない。
そう、私は単なるカモネギ客で、これからのお得意さんにしようと企んでいるだけに違いない。
マサオ君が我が家までの道中で聞いて来たじゃないの。
君はベタが好きなの? と。
私が一万四千八百円のメタルカラーな魚から目が外せずに、まじまじと見ていたことに気が付いていたらしい。
ベタは知っているが、あんな酸化した銀のような色合いで、そして、ヒレがひらひらではなくアザミの花みたいな美しいものは見たことが無かったのだもの。
私は気が付けば、とてもきれいな魚だったわ、とマサオ君に答えていた。するとマサオ君は、あれは弟が作出した子なんだよ、と言って笑った。
この人は本当に弟が大好きなんだな、とわかるぐらいに誇らしそうな笑顔だったな。
すごい、と私はマサオ君の笑顔にドキドキしながら答えていた。
すると、マサオ君は弾んだ声でさらにナオキ君を褒めだした。
「そう、凄い。あいつは当たりがとにかくいい。初めての繁殖であんな綺麗なベタを生ませることが出来たんだよ。ただね、あいつはハネなかったの。まあ、成長過程で死んじゃう子もいたけどね、あいつは同じ外見のものを大量に育てきってしまった。で、希少価値を失ってのあんな金額だ」
「私にハムスター王国なんて聞かせて来たくせに! 間引く事がハムスター王国の存続に必要な必要悪だとも言いましたよ。」
彼は口先だけで、本当に生き物の事を考えているのだなと、私はナオキ君に対してほわっとした温かいものを感じていた。
「ハハハ。全くあいつは! あなたを引き留めるためにどれだけ馬鹿話をしていたのだか。すいませんでしたね、鳥海さん」
うわあ、比賀江(兄)の笑顔はぴかぴかだ。
私はマサオ君の笑顔に頬がとっても熱くなっていた。
ピンポーン!
あ、そうだった、そうだった。
私の素敵な物思いを破ってきたインターホンに、私は少々イラつきながらドアを開けた。すぐに閉じたくなった。ドアの向こうには振り払って来た過去からの使者が立っていたのである。
披露宴会場から直接来たらしき、新婦と私の共通の友人だった新庄綾乃と元婚約者の親友の田端燿である。
ピンク色の華やかなドレス姿の女性と、ピンストライプの明るい青系のスーツを着た男性は、私を見つけたと嬉しそうな笑顔を見せた。




