友人という名の出歯亀
私の友人だと言い張る男女は、私が私達の友人の結婚のお祝いを言うべきだと言い張った。
「仲良かったじゃない! なずなの結婚式の時はユッカが祝いの言葉を述べる約束をしていたんでしょう。披露宴は終わっちゃったけど、ほら、これから二次会があるの。これっくらいは出てあげなよ!」
高校からずっと仲良くしてきた綾乃は、誰にでも優しくて思いやりがあると思っていたが、単なる考え無しの八方美人なだけだったらしい。
「行きましょうよ! 優香さんと達郎はあなたに謝らないと先に進めない。お願いしますよ」
友人想いの田端はその達郎から私が婚約者だと紹介され、私と達郎の式では祝辞を述べる予定だったはずだ。
そんな予定だった男は、爽やかで今風な外見通り薄っぺらかった。
私はこの厚顔な他人を追い払おうと、だが、声が出なかった。
彼らは私など一顧だにもしておらず、最初から踏みつける気でここにいるのだから。
私が断ればもっと私の悪口を広められると喜び、地元という隣町で散々に騒ぐのだろう。
――かわいそうにね。
――ユッカ、あたしらが付いているよ。
私は身を引けと彼女達に諭され、優香は最初から同情されていた。
私は最初から彼女達の友達でもなかったのかな。
「え、ねえ! なんですか、その二次会! 今日は俺となずなさんのお話し合いの大事な日なんですよ! 兄と俺、どっちと付き合ってくれますか? って。押しかけて答えが出るまで待っているのですよ」
わあ! 私の部屋には私一人じゃ無かった。
王子様が、いた。
ナオキ君はニコニコと、それはもう金粉があなたの周りだけ待っていますという風に笑い、ただし、田端から私の姿を完全に隠すような立ち方をした。
いや、綾乃から、も?
彼らの表情どころか顔までも見えなくなり、私の視界に映るのはナオキ君の背中だけだ。
「いえ、あの、友人の披露宴を欠席するなら二次会ぐらい出るようにと」
ナオキ君パワーなのか、仕事は営業らしい田端の言葉は先細りしていた。
「そうです! 優香はこれから赤ちゃんも生むし、なずなに許されるってことが必要だと思うのですよ。なずなは大事な交友関係をお金で解決したんですよ」
「ガタガタ騒ぐなって、ユッカのお父さんと達郎のお父さんがそれぞれ
五十万づつ、百万円をうちの玄関口に投げていったんだけどね」
ナオキ君に守られながら言うべきことではないが、お金は元々私が欲しいと言った訳でもない。
でも、このお金が引越し資金になったのだし、うん、まだ少し残っているお金があるから、茶々を我が子にとすぐに決断できたのだから結果としては良いのかな。
「で、でもさ。あの子たちはお金が無いから、なずなの予約していた会場をキャンセルできないからそのままそこで式を挙げたんだよ。可哀想だと思わないの。一生に一度のことなんだよ! あたしらはさ、友達だったじゃない! 友達は許し合うものでしょう!」
綾乃は誰かを想うのではなく、自分の言いなりの世界を作りたいだけの人だったのだと、ヒステリックに声をあげた内容で気が付いてしまった。
優しい姉御、じゃなくて、姉御という立場でいたかっただけなんだね。
最初から下に見ていたんだね。
「もう友達じゃないよ」
「なずな!」
どうしてだろう。
茶々に出会う前、いいえ、ナオキ君とマサオ君に出会う前の、友人を失ってしまったという喪失感は消えていたのだ。
高校時代からの思い出は楽しかったけれど、もういいかも、と思えたのだ。
「あんたのその冷たい所が達郎君を傷つけたんでしょう。優香は達郎君を慰めているうちにってやつじゃないの! 全部、なずなが悪いんだよ! それなのに一人被害者面して、あの子たちの幸せに影を差すなんてさ!」
「いい加減にしろよ」
ナオキ君の声は私をびくりとさせるぐらいに低くて怖いものだった。
そして私は男の腕にグイっと後ろに引っ張られ、私を後ろに追いやった男は私のいた場所どころかナオキ君の隣に並んでしまった。
「なんとなーく横から聞いていたら、なんだ、だらしない男の話か。ああ、良かった。大事ななずなちゃんがそんな男と結婚しなくて。でもね、その二次会に出なきゃなずなちゃんに煩くするなら、出ようか? 良いよ。何時?」
マサオ君?
気軽そうなセリフだけど、そのバリトン、めっちゃ怖いんですけど?
いい声って、めっちゃ怖いものにできるんですね。
「行くんだったら、俺とナオキ君の二人がなずなちゃんをエスコートするけどね。その条件じゃないとなずなちゃんはどこにも行かせません。いいかな」
店長!
あなたは今日のお店とお店の生き物は大丈夫なんですか?
しかし、私には全く見えなくなった玄関口は静かになり、綾乃と田端が帰っていったのかと思ったら、綾乃の声が上がった。
「いいですよ! ナオキ君とええと」
「俺様」
「……あの、お二人の追加参加はオッケーです。参加費は一人五千円です」
「ええ! 無理矢理誘って、なずなちゃんから取るの? マジですか?」
ナオキ君でもそんな小馬鹿にしたような喋り方が出来るのね。
ただし、ナオキ君の言う通り、私は行きたくも無いし払いたくもない。
「わ、わかりました、なずなの分はいいです。六時に春咲町レインソングに必ずなずなと一緒にいらしゃってください」
え?
え?
え?
私の事情が私抜きで動いている!




