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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第四章 過去が襲来!!

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約束ごと

 俺達は帰りそびれた、どころか、居座った。


 玄関出たらそこで終わり、それは確実だと思ったのだ。


 そこで、兄にモルモットを飼う時の注意をして頂けるようにお願いした。

 兄は俺の願いに賛同どころか、お前は賢い奴だと褒めてくれた。


「あ、鳥海さん。せっかくだから、モルモットの飼育についてのアルバイトをしてもよろしいですか?」


「兄さん。アドバイス、です。」


 ぷっ。


 兄は本ボケなのか本仕込みなのか知らないが、とりあえずボケてなずなさんを笑わせる事には成功した。

 しかし兄はとっても真面目な表情で、これから長ゼリ始めるぞ、という気負いのオーラさえも出している。


 もしかして、本気でモルモットのデメリットを語る気持ちか!


 モルモットは鳴けるからか自己主張が激しく、それはもう飼い主が胃炎を患うぐらいに、ぷーいぷーいぷーいぷぷーいと欲しい餌が手に入れるまで鳴き続けてくるのだ。

 四つん這いの足にびしっと力を込め、瞳は一直線に飼い主を見据え、そして、甲高い声で、ぷーいぷーいぷーいぷぷーい、だ。


 大学に受かった春休み、何も知らない俺は兄にモルモットの飼育担当にされ、モルモットの単なる奴隷となった日々を思い出した。


 ああ、わかる。

 アンデスの人達が食べてしまった訳が分かる。

 モルモットは凶悪な程に可愛いが凶悪なのだ。


「では、鳥海さん。モルモットを飼うにあたっての一番の注意ですが――」


 兄が糞真面目に口を開いて説明しようとしたそこで、なずなさんのスマートフォンが大きく震えた。

 なずなさんはスマートフォンの振動に一瞬で表情を硬くした。

 硬くしただけでなく、店に飛び込んで泣きそうだった時と同じ表情をしたのである。


 俺が見守る中、なずなさんはスマートフォンをさっと手に取ると、少々乱暴ともいえる仕草でスマートフォンの電源を切った。


「いいのですか? あの、俺達が邪魔なら帰ります」


 わかってんなら最初から帰れよ、そんな感じでもあるが、なずなさんは優しい人だからかフルフルと首を横に振った。


「良いの。私は今日は誰のメールも読みたくも返信したくも無いし、誰の電話にも出たくないの。ええと、やっぱりコーヒーを淹れますね」


 俺達にコーヒーを淹れるという事は、もう少し俺達はここにいて良いという事なのだと嬉しくなったが、なずなさんの背中はなんだかしょんぼりとしていて俺の胸をぎゅうっと絞めつけて来た。


 あれは、いじめられっ子の俺の学校帰りの姿勢だ!


 いじめを受ける自分こそが恥ずかしいと、背中を丸めてのそのそと泣きながら家路を歩いていた過去の自分の姿だ。


「ああ、なずなさん!」

「後ろから抱き締めて慰めたい」


 俺は兄を睨み、兄は俺に両眉を動かして揶揄って見せた。


 ヤカンを手に取ったなずなさんは、俺達のこそこそ声は聞こえなか……聞こえていたよね、俺達にそっと振り向いた。


 心細そうな脅えた表情をなずなさんはしていた。


 これは、愛という名の生野菜を手に入れられないと悟った時の、モルモットがやる表情によく似ている。

 この表情で俺は何度不用意に生野菜を与え、販売用モルモットを下痢させてしまったか!


 ああ、それよりもなずなさんだ!

 俺達はなずなさんに変態と見なされて脅えられている!

 なずなさんとそんな俺達が微妙な緊張感で動けなくなったその時、ピンポーンと能天気なベルが鳴った。


「あれ、何だろ?」

 なずなさんはインターコムを押した。

「宅配便です」

「あら」


 会社名を言わない奴にオートロックを開けてはいけない!

 俺はなずなさんを制しようとして、でも、遅かった。

 彼女は解除ボタンを押していた。


「まあ、俺達がいるし」


 兄さんはぼそりと言った。

 いやいや、俺は戦える人じゃないし、いや、なずなさんの為なら頑張るよ、だけど、俺の懸念はあなたの方だって。


「でも兄さん、黒帯のあなたが何かしたら、兄さんこそ警察に引っ張られない?」


「大丈夫だ。俺が警察の厄介になった事は無いだろう?」


 兄がニヤリと微笑んだ顔に、町のどんなやばそうなやつも兄に絡んでこない理由が分かった気がした。いや、今更何わかってんのって話だよね。

 俺達の死んだ祖父は、暴対法ができるまでは強面連中に親父って呼ばれる人でもあったし。

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