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元婚約者が浮気相手と結婚式を挙げた日に私は王子様と出会った  作者: 蔵前
第三章 なんかぽろぽろと

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兄と想い人と僕

 なずなさんはアパートだと言い張ったが、彼女の住む集合住宅はオートロックな上に建物中心に内階段があるという造りの新築だった。

 ユニットみたいに、フロアごとがどんどんどんと組み立てられる最新の工法なので、見た目はマンションにも見えるという良い物件だ。


 よし、これならば俺の想い人は安全な筈だ。


 俺がなずなさんの安全を確信しているその目の前で、なずなさんはカードを通してオートロックドアを開けた。


「どうぞ」


 俺は兄に押しのけられ、兄は一足先に入り込んだ。

 あ、畜生!

 ドアを開ける係をなずなさんから奪った。

 俺だってなずなさんにどうぞと言われながら入り込みたかったのに!

 恋愛は早い者勝ち、弱肉強食なんだな。


「早く入れ。なずなさんがいつまでたっても上に行けないだろ! すいませんね。どんくさい弟で」

「い、いえ」


 ああ、兄よ!

 そんなことを言ったせいで心優しいなずなさんが困っているではないか!


 彼女は見たことも聞いたことも無かった生き物を助けるために、あんたのペットショップに飛び込んできた優しい人だぞ!


 俺は鬱屈した気持ちを抱きながら、さも恋人のようにしてなずなさんの横に並んで歩く兄の背中に呪いをかけていた。


 兄には恩もあるが、……恩しか無かった。


 俺はハーフだという事で、子供の頃はいじめの対象だったのだ。

 黒い髪に黒い瞳の中で薄茶色の髪に薄茶色の瞳は目立つのか、それに、小学校の時の俺は、やりかえすどころか泣くしかできない弱虫だった。うん、今でもやり返すどころか、危険だったら走って逃げる、けどね。


 それで俺は自分が弱虫だって、自分を変える事なんかできないって子供心にわかっていたから、何もできない自分が情けなくて、毎日毎日死にたかった。

 毎日毎日泣きながら家路をトボトボと歩いていたのだ。

 とある日、俺が泣きながら帰って来た時、兄に見られた。

 尊敬している兄、喧嘩で負けたことの無いという噂の兄。

 そして俺は兄にいじめられっ子の自分を知られたって身構えたけど、兄は俺を情けないと言うどころか、策士だと笑った。いいぞお前、って。


「さ、策士? な、泣くばっかりで、僕は何もできないのに!」


「泣いたほうがいいんだよ。あいつらはお前を泣かしたいんだ。だから泣け。泣かないと行為がもっとひどくなる。それでな、時々学校を休め。お前が学校を休んだことで、マンネリ化したいじめは一回クリアになる。また最初からのいじめ内容に戻るからな。どうせやられるなら、軽い内容の方がいいだろ」


 大学生になったばかりの兄は勝手に月間スケジュールを作り、俺をそのスケジュールに合わせて学校を休ませた。もちろん俺を休ませる日は兄も大学を自主休講にしている。

 なぜならば、兄は学校を休んだ俺を見守って、学校の時間割通りに勉強も教えて俺に勉強させねばならないからだ。


「いいか。いじめを受けた奴が勉強が出来なくなるのは、勉強というものにいじめの記憶が重なるからなんだよ。教科書を見りゃ嫌な奴の顔が浮かぶ。そしてな、いじめが自分が悪いせいだと思うな。チンピラに絡まれるのは理由なんてないんだよ」


「虐められる方は悪くないの?」


「チンピラのリンチは目が合ったからって奴が多いぞ。チンピラに絡まれた奴は悪い奴か?」


「ううん。兄さんの喧嘩も目が合ったから?」


「くっそむかついたからだな。嫌いなんだよ、ヤンキー」


「え?」


「いいから教科書出せ。お前は教科書開くたびに、俺の優しい顔が浮かべばいいんだよ。ほら、まずはこの新出漢字を十回漢字練習帳に書いて覚えろ。体育の時間は庭でラジオ体操するぞ」


 俺はいじめられっ子だったが、子供の頃を思い出そうとすると、兄が遊んでくれた幸せな記憶ばっかりが思い浮かぶ。

 ああ、絶対になずなさんは兄さんの方を選ぶんだろうな。

 いや、選ばない方がおかしいよ。

 はあ。


「あ、あの、どうしたのナオキ君? へ、部屋に入っていいよ」


 なずなさんは俺を心配そうに見上げていて、さらに、俺の為に部屋のドアを開けてくれていた!

 俺はなずなさんに微笑んでいた。

 失恋してもこれはきっといい記憶になる!

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