どうしてそんなに我が家に来たがるの?
私がナオキ君と呼ばないからと、ぷくっと頬を膨らませた彼は、カウンターに置かれていたボールペンを取り上げた。
それからこれまたレジ横にあったショップカードを一枚引き出すと、そこにぐりぐりとなにやらを書き込み始めたのである。
そして、はい、と私にカードを手渡して来た。
書き込まれた文字列は、さらっとした字体できれいな文字だった。
内容は馬鹿っぽかったけれど、王子様属性だからいいのかな。
『比嘉江那緒 ひかえ なおきくん です!
23さいの大学院生だよ!
たん生日が5月5日の有望株!
090-××23-〇〇45 』
「まあ!」
「ナオキ君と呼んでください! 俺はこの店の店番を押し付けられただけの人ですから、さあさあ、お荷物持ちますよ。さっさと帰りましょう! 鳥海さん!」
あれ、ナオキ君たら私を名前呼びじゃないの?
「ちょっと待てよ。俺が送るよ。こんなに買わせたのか、この馬鹿が」
あ、比賀江(兄)さんは支払い明細を読んでいたのか。
で、こんなにって、無駄な買い物もあった、のかな?
「すいませんね、売り子もまともにできない愚弟で。これからのお客さんにサービスぐらいすればいいのに。お詫びにマット用チップをあと二つ追加します」
うわ、それは既に置き場所に困るからって断ったサービスですよ、と私が言い返す前に比賀江(兄)さんは早かった。
「店のバンでしたら一時に運べますからご心配なく」
いや、運ばれても置く場所が無いんですって。
でも、また彼に私が言い返す暇もなかった。
弟も弟だが、兄もコミュニケーションに難があるぞ!
「さあ行きましょうか」
うわあ、この人もぐいぐいくるなあ。
「いえ、あとで荷物だけ運んで下されば結構ですから! そ、それに、マット用チップは追加の二つはいりません。部屋に置けないもの!」
比賀江(兄)さんはぱちんと自分の頭を右手で叩いた。
「あ、でしたら店にマットは置いておきます。必要な時に言って下されば、あなたは二個分、マットはタダとなります」
「まあ! お優しいのね!」
「兄さん。不要になった配送料分の二つもあるから、四つでお願い」
「バカお前。そっちは返金だ。で、いくらだって?」
「いえいえ。考えたけど、配送料分もチップ代でいいです。この子にはずっと長生きして欲しいもの。だったらチップは沢山必要でしょう」
そう、考えたらまじ必要。
床材チップは木くずをチップ状にしたものでしかないのに1680円もする代物で、二個分ならば3360円だ。配送料1280円分でチップ二袋ならば、メチャクチャ得しているって言える。そうよ、ナオキ君はサービスって言っていたもの。
私は、5440円分得したって事になる。
カフェランチなら1500円。四回分は節約できるのよ。カフェご飯を四回も楽しめるということは、一人暮らしの私にはとっても魅力的だ。
そして弟と同じようなサービスを弟の上乗せでとなる形で提案してきた店主は、やっぱり弟と同じような行動を弟よりもちゃんとしたものだった。
彼は自分の名刺を私に手渡して来たのである。
うん、名刺持っているなんて大人だね、社会人だね。
弟は可愛いメモ書き手渡しだったのにねって、さすが大人、名刺の裏に個人的な携帯番号を自筆してる。彼という男性を体現したみたいな素敵な字で。
「私は比嘉江真緒と申します。本日は本当にありがとうございます。さあ、ご自宅までお送りしますよ。行きましょう、なずなさん」
えええ! 名前を勝手に呼んで来た!
これは弟と行動丸被りだ! 職業倫理どうした、店長!!
「兄さん、失礼でしょう。飼養承諾確認書でお名前を知ったからって気安く呼ぶのは」
いや、お前もな。
「すいませんでした。なずなさん、いえ、鳥海さん。では、参りましょうか」
「兄さん! 俺が行くって言っているでしょう。ここは兄さんの店なんだからさ、ちゃんと店にいなさいよ」
「俺はお前に今日は店番を頼んだんだろう。お前こそ店にいなさいよ!」
彼らはどうしてこんなにも私の家に荷物を運び入れたいのだろうか。
ど、独身女性、だから?
え、そんな下心を持っているの?
私が混乱する目の前で兄弟達は喧々囂々と言い合い、どっちを店に残しても店をクローズにする相手の思惑が一致したからか、彼等は和解をした。
だからって、どうして仲良く二人一緒に私の家に突撃する気なのだ。
ちょっと待て。
独身女性の部屋に押しかけるのは問題じゃないの?




