ドアが開けばもう一人が
「嫌じゃ無ければ、ええとやっぱり、俺が荷物もってお送りします! ケージの設置もさせてもらいますけど、ええと、いいですか?」
ちょっと!
このハンサム君が我が家に来る?
玄関で荷物を渡すだけでなく、ケージを設置って私の家の中に?
「え?」
ええええ?
確かにこの町に来てもう三か月だ。
生活が落ち着いて、そして、落ち着いたからこそ寂しさというものに負けそうになっている今日この頃だ。
だから、ええと、……部屋は汚くない。
「今すぐあなたの家にケージを運んじゃいましょう。あなたの可愛い茶々に少しでも早く安寧の地を与えてあげたい」
私は親切な比賀江さんに、お願いしますと、答えた。
彼は目を輝かすと店のエプロンを自分から剥ぎ取った。
でもそこで気が付く。
ケージその他を運ぶための配送料として、白猫さんの規定料金の金額を私は払ったはずよね?
「あの、配送料は?」
「そんなのはサービスです」
え?
それって私がお店にサービスしろって事? え? え?
「おいナオキ! 長谷川さんが店が閉まっているぞって、何をしてるんだ!」
怒ったような声が店中に響き、その怒声を上げたのはカウンター後ろにあったドアから顔を出した男性であった。
「まあ!」
カラスのような濡れ羽色のはずの黒髪は、手入れをしていないように伸びかけのぼさぼさで、印象的な彫りの深い二重の瞳は怒っているからか眇められている。
この突然現れた年上男性は、魅力的なのに残念仕様。
でも、私が高鳴った胸を抑えるぐらいに、イケ、だった。
モデルな王子の外見の比賀江さんと同じくらい、ドアから顔を出した男性は俳優みたいに素敵。声だってバリトンに近い滑らか低い声。そしてこんなにも顔を歪めているせいで、さらに渋くて素敵と思ってしまう。
で、兄弟?
うっそだあ。
でも、どちらも最高に素敵な(外見が)男性ってところは共通している。
「……ああ、兄さん」
比賀江さんは、悪戯を見つかった子供のような、とっても残念そうな声を絞り出した。
あ、いや、残念な声を出したのは弟の方で、比賀江さんの兄のほうは、というと、ああ、比賀江さんと比賀江さんで混乱するわ。
比賀江(兄)と比賀江(弟)とするべき?
いいえ、ここは比賀江(弟)の方をナオキ君とお呼びするべきかもしれない。
良いよね、私の心の中だけなんだから。
飼養承諾確認書で名前を知ったからって、勝手に私を「なずなさん」と気安く呼ぶ男なのだし。
「こ、ここここここ、こんにちは! ああ、すいません。お客様がいらっしゃるところにこのように! 驚かれたでしょう!!」
「え?」
ナオキ君に対して歪められた顔は、なんと私という存在を認めた途端に、ぱあああああという風に光り輝いた。なぜ? そうか、私は客だ。私はさすが店を守る店長なのだとこの変わり身に納得し、比賀江(兄)さんを尊敬した。
彼は責任感が強い人なんだわ。
その責任感の強い人は営業スマイルに悪代官に貢物をする越後屋みたいな表情もプラスして、お客である私に恭しく頭を下げた。
「いらっしゃいませ。お買い上げありがとうございます」
うむ、私は三千八百円の生体に対し、言われるがまま飼育グッズに二万円近くを支払ったカモネギ客だ。
ふふんと胸を張った所で、カウンター横に置いてある水槽に書いてあるベタの金額が目に入った。
クラウンテールという名のいぶし銀のような色合いのこの魚が、一万四千八百円、だと!
私は謙虚な気持ちになって、越後屋みたいな店主に頭を下げた。
「いえいえ。ご親切な店員さんで、いや、あの」
「えー、ナオキ君って呼ぼうよ!」
君は私の心を読んでいたの!




