計画61
晴れ渡る空の下、馬車一行は順調に快適に進んでいる。
馬車の中からしか景色が見えないことに多少の不満はあるが、それでも見たことないものばかりで目をキラキラさせながら眺めてしまう。
「ふふ。」
その様子を見て、マリネはつい笑ってしまう。
「どうしましたか?お姉ちゃん?」
「ううん。ルーも私たちと同じだな~って思ったのよ。」
「同じ?」
「ええ。私もルクス兄さんも初めて町の外に出た時は、今のルーみたいに目を輝かせていたわ。」
「そうなんですね。ちなみに真っすぐアーティクトに向かうんですか?」
「ふふ。それは無理よ。アーティクトには30日かかるもの。まずは“クニシダ”っていう町に向かうのよ。」
「クニシダ、ですか?」
「ええ。クニシダも私たちの町オーウェンと同じで港町よ。」
「そうなんですね。クニシダでもマグロが不漁何ですかね?」
「う~んそれはどうかな~。クニシダは元々マグロをそんなに捕ってないからね。不漁かどうかはわからないかな?」
「ではクニシダでは何が有名なんですか?」
「クニシダでは貝殻を材料にしたアクセサリーが有名かな。私のスクール友達の間でも流行っていたわ。」
(へ~アクセサリーか。そういえば・・・。)
「お姉ちゃんはアクセサリーを身に付けないのですか?」
「私?私はアクセサリーに興味が無かったからな~。」
「お嬢様は着飾らなすぎです。リリス様に似て、お美しいのに。」
今まで口を閉ざしていたラムザが不満気味に言う。
「で、でも、私にはまだ早いと思うわ。」
マリネの弱腰に、ここぞとばかりにラムザは畳みかける。
「そんなことはありません。5人の姫君を見ましたよね?皆さん、綺麗なアクセサリーを身に付けていましたよ?まだ5歳ですのに。お嬢様はすでに12歳。十分にアクセサリーを身に付けていいのです。そもそも服装そのものにお嬢様は無頓着なのです。姫君の前にお姿を見せるというのに、着飾らず普段着でいいなど、身の毛がよだつ思いでしたよ。いいですか!お嬢様は・・・。」
「も、もういいでしょ!?今日は言われた通りオシャレしてるんだから。」
(そう言われれば・・・。)
マリネの服装を見ると、いつもよりオシャレである。
麦わら帽子、水色のTシャツ、袖口は小さなフリルになっている。
下は黒っぽいデニムレギンス、黄色のヒールを履いている。
「それだって私が選んだ物ではないですか!お嬢様自らオシャレに興味を持っていただきたいのです!いいえ、贅沢は言いません。興味を持っていただかなくても構いません。ですが、お嬢様には相応しい恰好を・・・。」
「る、ルー!お姉ちゃんに何か聞きたいことはないかな~?お姉ちゃんは物知りだから何でも答えられるわよ?」
(逃げたな。)
ラムザが頬を膨らましながら睨んでいるのが可愛いらしいが、逃げる手伝いをすることにする。
(正直僕もミリアが用意した服を着てるから何も言えないしね。)
聞きたいことが山積みの中、最優先に聞きたいことを頭に浮かべながら聞いていく。
「アーティクトに着くまでにどのくらいの町を通るんですか?」
「えっと、ちょっと待ってね。」
指を折っていく。
その様子から結構な町を経由することが分かる。
「7つかな。野営を多くすれば4つに減らせるけど、お父様はそうしないと思うわ。何よりも危険を避けて行くと思うの。」
「その中に亜人種の町はありますか?」
これが最も聞きたかったことである。
転生する前、女神アーネムが見せてくれた映像の中に亜人種を見ることは出来た。
しかし、映像で見るのと自分の目で見るのとでは大きく違う。
(オーウェンでは見れなかったからね。この旅の中で見てみたかったんだよなぁ。)
少しだけ期待に胸が膨らむ。
「う~んどうだろ?」
「どういうことですか?」
「7つ町を通るってさっき言ったのはね、お父様は亜人種の町を避けるんじゃないかなって思ったからなの。」
「どうして避けるんですか?」
(見てみたいのに。)
「う、う~ん。」
マリネは言いにくそうに目を伏せる。
察したラムザが何か耳打ちをしたが、マリネは首を振り、声を潜める。
「いいルー、決してお父様が亜人種を嫌っているわけではないことを覚えておいてね。」
「は、はい。」
つられてルーティンも声が小さくなる。
「亜人種の方々は私たち人間と比べて人口が少ないのよ。だから人間の中には亜人種の方々を見た目が違うって理由で嫌っている人たちもいるの。逆もそうよ。だからお父様は関わらなくていい問題は避けると思うわ。今は観光が目的じゃなくてルーの問題を解決することだから、ね?」
「は~い。」
(確かにそうだよな。これは観光じゃなくて僕のための旅だもんな。残念だけど、亜人種の町には自分の力で向かうか。・・・この旅の間はおとなしく過ごそう。)
心を改めたルーティンは窓の外を見る。
外は穏やかな空気が流れている。
ふと、森の方に目をやると、煙が立ち上っているのが見える。
(あんな所に煙?)
護衛している騎士たちも気づいたのか、ざわめき始める。
「何かあったのかしら?」
マリネが眉をひそめた瞬間、馬車一行は進みを止める。
「お嬢様、様子を窺ってきます。少々お待ちください。」
「お願いねラムザ。」
頷き、出て行く。
先程の煙を思い出し、ルーティンは嫌な予感がしていることを振り払うように首を振った。




