計画60
晴れ渡る空の下、初めての場所を前にルーティンの心は踊る。
というか、この世界に来て初めての間近で見る馬に興奮する。
この世界の馬は前世の馬と似ているようで少し違う。
まずこの世界の馬は“コテロ・トン・ホース”という品種らしい。
最もそのことを知っているのは乗ることの多い騎士ぐらいなものらしい。
(僕もヴェルグに教わるまでは“馬!”て叫んでしまった。)
ルーティンはコテロ・トン・ホースの鼻を優しく撫でる。
このコテロ・トン・ホースは鼻を撫でれることが信頼関係の証だそうで、騎士の試験にもこの馬の鼻を撫でるというものがあるらしい。
“騎士と馬は一体となってこそ”とセバスが言っていた。
このぐらいだったらそう変わりはないのかもしれない。
しかし、全く違う部分もある。
それが耳である。
耳は象の様に大きいのである。
これにはとても賢く、悲しい理由がある。
このコテロ・トン・ホースはとても弱い生き物なのである。
普通に飼う分には病気にもなりにくく、寿命も結構長いので強い生き物ともいえるが、一度外敵に襲われれば最後、簡単に外敵に食べられてしまうのだ。
なんで?という疑問もあるだろう。
実はコテロ・トン・ホースはとても臆病な馬なのである。
外敵が目の前に飛び出して来ようものなら簡単に失神してそのまま命を奪われるのだ。
その為、いち早く外敵の存在に気づくために耳が大きくなったらしい。
付け加えると、人に飼われているコテロ・トン・ホースは失神しないような訓練を受ける。
そのおかげで失神はしないが、動かなくなってしまう。
だから基本的にはコテロ・トン・ホースは騎士しか乗らない。
もしくは護衛付きの貴族しか乗らないのである。
「では、行ってくるぞ。」
「父上!やっぱり俺も!」
「馬鹿なことを言うなルクス。お前には国王陛下を護衛し、王国に無事に送り届ける責務があるだろ。」
「だけど!ルーの危機なんだろ!」
「そうだ。」
「だったら!」
「だがそれは国王陛下を、婚約者を蔑ろにしていい理由にはならない。」
「ぐっ!?」
「それに私はお前をそんな息子に育てた覚えはない!」
「うぐっ!?」
ルクスは口をパクパクさせるだけでそれ以上何も言わない。
その様子を見かねたマリネが2人の間に割って入る。
「ルクス兄さん。」
「マリネ。」
「ルーのことは姉である私が責任をもって守ります。ルクス兄さんは妹である私を信じてください。」
真剣な目にルクスは言いたいことを飲み込む。
我慢しているのか腕が震えている。
その腕をそっとアーリアが触る。
「ルクス様、信じてあげましょう。私も皆さんを信じています。」
「アーリア、様。」
「それに・・・。」
「それに?」
「あの、非常に言いにくいのですが、今回は肉体というよりかは頭脳が要求されますので、ルクス様よりマリネさんの方が適していると思います。」
「ほぶっ!?」
急所を突かれたように膝から崩れ落ちる。
「る、ルクス様!?」
「俺は・・・無力だ・・・。」
(うわ~ガチ泣きだ。)
少し引いてしまったことは心の中で謝っておくことにする。
「ルクス様!貴方様の涙を全て飲ませてくださいまし!」
(ルクス様、貴方には貴方のできることがあります。貴方のできることで、マリネさんを、ルーティン様を守ってあげればいいのです。その為に、貴方様は立派な騎士になられるのでしょう?)
澄ました顔での爆弾発言。
(ぜっっっっったいに心の中の声と発言が逆だ!!絶対に!!!)
引きつりそうになる頬を顔を背けて隠す。
そのことを察したのか、コテロ・トン・ホースが頷いたような気がする。
「わかったよマリネ。」
涙を拭き、立ち上がる。
「ルーのことはお前に任せる。だけど、俺の力が必要な時は絶対に呼ぶんだ。必ず助けるから!」
「はい!ルクス兄さん!」
2人が熱い握手を交わす。
(僕の為に真剣になってくれる家族に感謝を!)
その後、国王陛下をお見送りし、ルーティンたちは出立した。
国民から声援を送られる中、馬車は町の外に出る。
(今日から始めてづくしだ!)
ルーティンの心は不安など一切ないワクワクな状態であった。
「行ってしまったね。」
「そうですね。それでは私たちも国に戻りますか?」
「そうするしかないよ。ルーティン様がいないこの町に用は無いし。」
「左様ですか。」
頭を下げたヒムロが手を叩くと、騎士たちが部屋に入り、荷物を運び出す。
「それで?他の姫たちはどうかな?」
「ネフェル様は既にご帰国。キリエ様も今日中には出立する模様。カレン様はパニーニ国王陛下と共に今朝早く出立した模様。しかし、エンラ様については不明です。」
「不明?どういうことだい?」
「はい、出立したという報告は無いのですが、滞在している場所に人の気配を感じないそうです。」
「なら、既に出立したんだよ。彼女は最も賢いからね。僕の見張りに気づいたんじゃないかな?」
「なら退きますか?」
「そうしよう。無駄なことはさせたくないしね。」
「畏まりました姫様。」
一礼し、部屋から出て行く。
「ふふ。今世こそ必ず幸せになるからね。」
瞳が今まで見たことない妖艶な輝きを見せた。




