計画Ⅱ 12
目の前に出された紅茶を訝し気に見ながら、ブランはそっと口に運ぶ。
口の中に広がるほのかな苦みを覆いつくすような甘みに、驚くが思いのほか美味しかったので、そのまま一気に飲む。
飲み終わったカップを置くと、すぐさまメイドが新しいものを淹れる。
「・・・なるほど。つまりブランさんはわざと合格しないように試験を受けて、結果合格してしまった。そして自分よりも努力をしていたフーカっていう人が落ちてしまったことに納得ができないと。そういうことでいいのかな?」
「そ、そうだ!です。」
「ふむふむ。ブランさんはフーカさんが落ちた理由がわからないんだね?」
「あ、当たり前だ!あんなに努力をしていたフーカが!何の努力もしていない俺より優れていない訳がない!」
(優れている優れていないで判断していないから当然と言えば当然の声か。)
「だ、だから・・・。」
「女性差別を考えた?だとしたら誤解だよ。僕は騎士の性別までは考慮していないよ。もちろん、実力だけでも見ていない。」
「じ、じゃあ!?」
「う~ん・・・よし!じゃあこうしよう!そのフーカっていう人を呼んできてよ。」
「へ?」
「もう一度、その人の面接を行ってあげる。そこで何故君が選ばれたのかも説明しよう。」
ブランの想像していた事とは全く別のことが起き、理解が追い付かないままに事態は進んでしまった。
「フーカ・バンです。」
「どうぞこちらに。楽な気持ちで臨んでください。」
フーカは真ん中に用意された椅子に綺麗な姿勢で座る。
部屋にはルーティンとヴェルグ、ミリアそしてブランだけで面接が行われる。
「まずは状況の理解できないままにこちらへお呼びした非礼をお詫びします。ごめんなさい。」
「い、いえ!ヴェルグ殿から大まかなお話は聞きました。自分のような非才にもう一度機会を恵んで頂けただけで光栄で・・・。」
「うん。じゃあ始めようか。」
「は、はい!」
ルーティンとの一対一の面接。
急なことにも関わらず、フーカはしっかりとした受け答えを披露する。
ブランから見てもフーカは完璧だと思われる。
二人の面接は終始にこやかなまま終わりを迎えた。
「それでは以上で面接を終わりにします。」
「ありがとうございました。」
フーカは礼儀として立ち上がって一礼する。
そしてルーティンに勧められるがままに座る。
少しの間の沈黙、最初に口を開いたのはルーティンである。
「やっぱり合格者はブランさんだね。」
「・・・そうですか。」
わかりきっていた答えとは言え、面と向かって言われると心にダメージが来る。
泣きそうになるが、泣いて困らせたくないという強い思いで拳を握る。
「な、なんでだよ!?フーカは完璧だったじゃないか!なのにどうして!!」
「やめろブラン。これが結果だ。」
「いいや!やっぱり納得できない!」
怒りに任せてブランはルーティンに近寄る。
ミリアが守ろうと動くのをヴェルグが阻止する。
「なんでだ!何がダメなんだ!フーカは何も間違っていないじゃないか!!」
「そうだね。フーカさんの受け答えは誰が見ても素晴らしいの一言だろうね。」
「だ、だろ?だったら!」
「けどね、僕の望んでいる騎士とはやっぱり違うよ。」
「何が違うって言うんだよぉぉぉぉぉッ!!」
ブランはルーティンに掴みかかり、持ち上げる。
けれど、ルーティンの恐れていない目にブランは一瞬怯む。
「止めろブラン!!もういいんだ!」
フーカの叫びにブランはそれ以上何も言えず、手を離す。
「ブランさん、貴方が納得できるかどうかわかりませんがご説明はします。」
服装を正し、ルーティンは椅子に座りなおしてから説明を始める。
「まず、実力の話し。ブランさんはヴェルグから見てもかなりの実力だと判断されました。フーカさんの実力もそれほど悪くはない。」
「だから!」
「そう!だからこそ他で僕は採点した。それがこの面接の受け答えと筆記試験。」
ルーティンの勢いにブランは再び口を閉ざす。
「筆記試験は互いにそれほどの差はありません。僕が決定的な違いがあると思ったのは面接です。フーカさんの受け答えは綺麗なもので、傍から見ればとても素晴らしく映るでしょう。ですが、逆に言えばそれは誰もが当たり前に考える定型文の領域からは抜け出せていない。」
「て、定型文?領域?な、何の話しだ?」
「フーカさんの受け答えってお手本みたいなんですよね。それって他の人も同じように答えているんです。それも数多く。それってつまり多くの人が同じような受け答えをしているってことなんです。ハッキリと言えば、個性がない。」
「個性が・・・ない。」
「うん。逆にブランさんは型破りな受け答えをしました。そこにどんな意図があったかは知りませんでしたが、僕の目には止まりました。もちろん他の人の目にもです。つまり、印象が強かった。逆にフーカさんはお手本のような受け答えだったために、僕の印象にはあまり残りませんでした。それが決め手です。」
その後もルーティンの説明は続いた。
ブランはまだ納得できないような顔だったが、フーカはスッキリした顔をしていた。




