計画Ⅱ 4
「ふむ。マカベルグ家の騎士選抜試験ですか。」
「ああ。そうだよ。」
部屋に戻されたブランは不貞腐れたようにソファーに寝転がる。
命令書は適当にぶん投げたのを爺やが拾い、読んでいる。
「マカベルグ家、しかもルーティン様と言えば王族とのご婚約が噂されておりますな。」
「いわゆる勝ち組って奴だな。」
ブランの態度をチラリと確認してから言葉を続ける。
「よろしいではありませんか坊ちゃん。王族とのご婚約のある方の騎士ともなれば確実に王族とのコネクションができますよ。もしかしたら坊ちゃんだって王族の仲間入りの可能性も・・・。」
「そうだな。」
爺やは手紙を置き、ブランの前に立つ。
「・・・その割にはあまり乗り気では無さそうですな。何か嫌なことでも?」
「俺はさ、この町が好きなんだよ。この町に生まれ、この町で育ち、この町で死ぬ。そんな平凡な人生が俺の望みなんだよ。それなのにさ・・・。それなのに、これはいわゆる家からの追い出しだろ?素直に喜べるかよ。」
顔を見られたくないのか、ブランは顔を背ける。
「ホホホ。」
「笑いたけりゃ笑えよ爺や。俺はどうせ笑いもんだよ。」
「いいえ。爺やが笑っているのは嬉しくて、ですぞ。坊ちゃんは良くも悪くもご自分を語りませんから。こうやってご自分のお望みを語ってくれて、それが爺やには嬉しいのです。」
「ふんっ。俺だって語りたくて語ってるわけじゃない。ただ、ここにいられるのもあと少しと思うとな。なんか、言いたかったんだよ。」
「ホホホ。理由はどうであれ爺やは嬉しいですぞ。」
ブランは座りなおし、爺やから命令書を奪い取る。
もう一度読み直し、中に入っていたルーティンの写真を見る。
「はぁ~。可愛い顔してんのに男なんだよなぁ。せめて女の子だったら乗り気だったのに。」
「ブレませんね坊ちゃんは。」
「親父殿には今日中に旅立てって言われたが、俺にだって別れを惜しむ時間があってもいいよな?」
「試験までに間に合えば良いのでは?」
「ハハハ。だな。」
ブランは命令書を金庫に入れた。
一通り挨拶回りを済んだのは、三日後だった。
最後の夜を、ブランは兄と共に過ごした。
「まさかお前が騎士選抜試験を受けるとはな。」
ブランとは打って変わって兄であるゴードルは野性味あふれる顔立ちだった。
「ハハ。一番驚いているのは俺だよ兄上。」
互いにワインを飲みながら語り合う。
「お前は昔からそうだった。兄である俺を憧れる訳でも、羨む訳でも、憎む訳でもない。父に対しても同じようにだ。そうだな・・・お前は何事においても興味が無いように感じた。」
「そんなこと・・・あるのかなぁ。」
「あるだろ。お前が俺の許嫁を口説いていた時期もあっただろ。覚えてるか?俺はよく覚えている。あの頃はまだ俺の許嫁じゃなかったからな。だが、俺の許嫁になってからはお前は一切の接触を絶った。罪悪感を感じていた俺が馬鹿みたいにな。」
「そんな昔のことは忘れたよ。たぶん、興味を無くしたんじゃない?」
「俺に聞くな。聞くなら昔のお前だろ。」
「それもそうだな。」
ワインを一口飲み、ブランは長年の疑問を聞くことにした。
「・・・なぁ、兄上。」
「何だ?む?ワインが切れそうだな。新しいのを・・・。」
「兄上は、どうして領主になる?」
質問の意図が読めず、ゴードルは素直な気持ちを答えることにする。
「なりたいからだ。俺は、あの偉大なる父のような領主になるのが夢だった。」
「その為に努力を?」
「ああ。俺は何が何でもこの町、バイエルンの領主になりたい。その為の努力は努力なんかじゃない。俺の道だ。そう心がけてこれまで生きてきた。」
「ハハハ。兄上には敵わないなぁ。」
笑うブランを見て、ゴードルはあることを言うことを決意する。
「本音を言うとな。俺はお前が怖かった。同じ父と母から生まれた者同士、いつかはお前に俺は抜かされ、置いてかれるのではないかと、本気で怖かった。父が俺ではなくお前を領主にするんじゃないかってな。」
「兄上・・・。」
「お前との最後の夜だ。俺の本音を言っておこうと思ってな。」
「・・・帰れたら帰ってきますよ、バイエルンに。」
「出来れば俺が領主になってから帰って来いよ?お前に領主の座を取られたら俺は何をするかわからんぞ?」
「ハハハ!なら俺は何が何でも騎士選抜試験に受からないと。」
グラスに継いだワインを互いに軽くぶつけて鳴らし、一気に飲み干す。
「ではなブラン。生憎見送りは出来んが、お前の幸運を願うぞ。」
「兄上もお元気で。今度帰ってきた時には甥っ子を見せてくださいよ。」
「ガハハハハ!」
兄との絆を再確認したブランは何の迷いも無くなった。
翌日の早朝、ブランは旅立った。
「せめて旦那様と奥様にぐらいご挨拶をしては良かったのでは?坊ちゃん。」
「いいんだよ。誰にも見送られない方が心地いいんだ。」
「ですが・・・。」
「受からなかった時の保険だよ、爺や。」
「坊ちゃんなら受かりますよ。」
「どうだか。ま、やるだけやるさ。」
馬車の窓から見上げた蒼空がブランを祝福するように広がった。




