計画Ⅱ 3
自然に囲まれ、民が賑わう町。
まるでお祭り騒ぎのように皆の笑い声が聞こえてくる町の外れ。
喫茶店の二階で、男はコーヒーを一口一口味わって飲む。
「今日も町は賑やか。平和な世の中っていいな。な、爺や。」
「おっしゃる通り、と言いたいですが坊ちゃん、旦那様がお呼びですのによろしいのですか?このような場所で時間を使っても。」
「いいんだよ。どうせ親父の奴は結婚しろだ、兄を支えろだと小言を貰うだけだ。興味ないね。」
「ですがいつまでもこのままとはいかないでしょう。お兄様のご結婚も日を数えるほどまで迫っていますし、坊ちゃんだってそろそろ嫁を貰ってもよいお年、爺やはこのままでは引退できませんぞ。」
「引退する気なんて無いくせに。だいたい、兄は俺の支えを必要としていないだろ。俺と比べて秀でた部分しかないのに。それに結婚なんてまだしたくないね。理想の女性象も出来上がってないし、何よりまだまだ俺は女遊びをしたいねぇ。」
持ち前のイケメンフェイスで新しいコーヒーを持ってきた女性に微笑むと、女性は頬を赤らめてそそくさと立ち去って行く。
「うん。今晩はあの子と過ごそうかなぁ。」
「またそうやって新しい子に手を出すなど・・・そのうち多くの赤子が坊ちゃんの下に集いますぞ。」
「ハハハ!そりゃあいい!では赤子を持ってきた女性から結婚相手を決めようか。」
「何とも・・・。」
男がコーヒーを飲もうと左手を伸ばした時、この場所に似つかわしくない鎧に身を包んだ2、3の男が喫茶店に入ってくるのが見える。
「・・・。」
「いかがなさいましたかな?」
「どうやら親父殿は今回は本気らしい。」
「はい?」
「失礼しますぞ。」
爺やと呼ばれた老人が呆気に取られていると、鎧に身を包んだ男たちがズカズカと音を立てて近づいてくる。
「これはこれは騎士長殿。御身自らがこちらへ何用ですかな?」
「ダーッハッハ!そう堅苦しい言葉は嫌いだと申しているではないですか叔父上殿。」
「ホホホ。念のためじゃよ。それでヘイゼルよ、ここへは何用じゃ?」
「はい叔父上殿、旦那様がブラン坊ちゃんをお呼びですぜ。」
「俺をか騎士長?」
「へい。急ぎの用件だとしか聞いてませんけどね。」
「お呼びがかかりましたぞ坊ちゃん。これではもう逃げ隠れは難しいですな。」
「どっちの味方だ爺や?」
「どちらともの味方ですぞ。」
「ダーッハッハ!相も変わらずブラン坊ちゃんは女遊びですかい?いい加減俺っちのように嫁を作って子供を持った方がいいですよ。」
「すまないが騎士長。俺はまだまだ遊びたいんだよ。その為のこの顔と鍛えた体だ。」
「ダーッハッハ!言いますねぇ坊ちゃん。」
「話はそれぐらいに坊ちゃん。それで、この呼び出しはどう対応なされますかな?騎士長程度の相手ならば逃げることは可能ですぞ。」
「おいおい叔父上殿と一戦交える気はねぇぞ?」
ブランと呼ばれた男はコーヒーを飲み干し、騎士長に金貨を握らせる。
「その必要はない。親父殿に会うさ。騎士長はここにそれでお金を払ってくれ。あと、お嬢さんに今晩屋敷へと言伝もね。」
「へいへい。相変わらずのプレイボーイで。」
ブランは爺やと共に喫茶店を後にし、町を一望できる丘の上の屋敷へと戻った。
一か所だけ開かれたカーテン。
そのカーテンの前に座る男を外からの明かりが照らし、見る者に威圧感を与える。
ブランは一礼をしてから部屋に入り、男の前に立つ。
「お呼びですか親父殿。」
「ブラン・・・。」
低い声がより一層見る者に恐怖を与える。
「呼ばれた理由は、わかるなぁ?」
鋭い眼光がブランを射抜く。
だが、それに怯むことなく淡々とブランは答えていく。
「兄上のご結婚が迫る中、親父殿の呼びかけ。また領主の話しですか?」
「うむぅ。このバイエルンの町は兄であるゴードルが継ぐ。そして立派に納めるだろう。これは兄がお前より秀でているからではない。民たちの信頼をもゴードルはしっかりとあるからだ。わかるなぁ?」
「はい。もちろんです親父殿。それで?俺に兄上の支えになるようにどこかの領地を治めろって話でしょ?何度も言いますがお断りですよ。俺に領地運営など出来るわけがないじゃないですか。領主ってのも似合わないし。」
「むぅ。だが、領地の運営など日々の研鑽でどうとでもなるぅ。領主に似合う似合わないは関係ない。要はやる気の問題だぁ。お前にやる気はないのか?」
「無いですね。」
ハッキリと言う物言いに男なりの笑顔作り、指を鳴らしていくつかの資料を持ってこさせる。
「これは?」
「見合いの写真だ。気にいる子はいるか?」
「親父殿・・・今度は結婚ですか?俺はまだ結婚する気ないですよ。」
「だが、兄ゴードルはお前の年にはすでに許嫁がおったぞ。お前にいてもおかしくはないだろう?それとも町に気に入った子がいるのか?」
「ん~単なる俺の我がままですよ。まだまだこの顔で遊びたいだけです。」
「そうか・・・。ならば仕方あるまい。」
「はい?」
男は立ち上がると、一枚の密書をブランに手渡す。
「命令書だ。お前は今日よりこの町を立ち、マカベルグ家の坊主の騎士選抜試験を受けてもらうぅ。」
「はぁ!!?」
ブランの言葉を待たずに、部屋に入ってきた騎士たちはブランを引きづっていった。




