計画120
あれはヘーゼル殿下が暗殺される少し前です。
丁度衛兵詰め所に洗濯物を引き取りに行った日です。
衛兵たちが変な話をしているのを小耳にはさんだのです。
「なぁ。」
「あん?何だよ?」
「あそこにいる女、昨日もいなかったか?」
「いたか?」
「いたと思うんだけどなぁ。」
「何を話している?」
「すみません。あそこにいる女が昨日もいたような気がして・・・。」
「ん?・・・確かに昨日も見かけたような気がするな。」
「ですよね!」
「けど、それがどうしたんだよ?」
「なんか・・・ヤバそうな雰囲気じゃないか?」
「そうか?」
「う~ん・・・言われてみると、確かに何か怒っているようにも見えるな。」
衛兵三人が話している女性を見て、私はすぐに誰だかわかったのです。
「おお?メイド長。こちらが洗濯物に・・・。」
「申し訳ありません衛兵長。少しだけお時間を。」
衛兵たちが話していた女性は近くで見れば、記憶よりもさらに痩せてしまったフローレン様だとすぐにわかりました。
フローレン様も私のことを知っていたのか、私が近づいても逃げませんでした。
「もしやフローレン様ではないでしょうか?」
「あんたはこの城の人であってるな?」
「はい。この国のメイド長をさせて頂いております。」
「メイド長・・・!なら、この手紙を渡すべき奴もわかるな?」
「はい?」
フローレン様は半ば無理矢理私に手紙を押し付けると、逃げるように路地裏に消えていきました。
私は衛兵たちに見つからないように手紙を隠し、ヘーゼル殿下が読む前に目を通しました。
その時は単なる時候の挨拶のような文章で、特に変なところも無かったのです。
けれど、ヘーゼル殿下に見せるとすぐさま火で焙りだしました。
「ヘーゼル殿下!?」
「落ち着けメイド長。」
「ですが!」
「・・・ほらな。」
「え?」
手紙を火で焙ると最初の文字が消え、新た文字が浮かび上がってきました。
「っ!?これは!?」
「なるほどな。どうやらこの女は俺に相当の恨みを持っているらしい。」
手紙には恨みつらみ、さらに殺害予告のような文章が書かれていました。
「ヘーゼル殿下!」
「誰にも言うなよメイド長。」
「ですが!これは明らかな・・・。」
「どうせ俺は死ぬ。だったらこの話にのってやろうではないか。」
「お待ちくださいヘーゼル殿下!殿下は治るのですよ!?それなのに!」
「・・・いいんだ。」
「殿下!!」
「俺はこの女に会う。」
ヘーゼル殿下の意志はとても固かったです。
私が何を言っても聞く耳を持たず、その女性に会うことを決意していたのです。
私は国王陛下、並びにアーモンド殿下にご相談しようと思いました。
ですが・・・ですが、思い悩んだ末にヘーゼル殿下の意志を尊重したのです。
そして暗殺された日、ヘーゼル殿下の指示に従い、誰にも見つからないようにフローレン様と引き合わせました。
「よぉ。会うのは初めてだな。」
「・・・。」
フローレン様の目からは憎悪に満ちた殺意を感じました。
それはヘーゼル殿下も同じでしょう。
だからこそ、あえて挑発するようにお話しになられていたのです。
「手紙、読ませてもらったぜ。ひでぇ内容だな。」
「・・・。」
「なんだ?おしゃべりも嫌なのか?なんなら娘がどんな様子で過ごしていたのか、細かく話してやるが?」
「・・・黙れ。」
何処からそのような声が出るのか、聞くだけで震えそうになる体を私は必死に抑え込みました。
「ようやくおしゃべりか?よーし!何を話す?」
「お前と話すことなど無い。」
「そう言うな。フラメアはこれまでの女と違い、なかなか楽しめたんだ。あんないい女を産むコツみたいなものを聞きてぇんだがな。」
「黙れ!!」
今にも飛び掛かってきそうなフローレン様をヘーゼル殿下は何とも思っていませんでした。
むしろ嬉しそうに見ていたのです。
「黙れ黙れと、それしか言えんのか?もっと違うことを話そうではないか。そう言えば、お前はあの家から追い出されたそうだな?今までどうやって・・・。」
「これを飲め。」
「あ?ワインか?・・・どこ産だ?」
「いいから飲め。」
「チッ。少しは話せようなぁ。メイド長、グラス二つだ。」
「かしこまり・・・。」
「お前だけ飲め!」
「・・・わかった。メイド長グラス一つだ。」
「ヘーゼル殿下・・・。」
「早くしろ。」
すぐにわかりました。
そのワインに何かあるのを。
だから私は初めてヘーゼル殿下の命令に背き、グラスを二つ用意しました。
「メイド長?」
「どうぞお使いください。」
「・・・ああ。」
何かを考え付いたヘーゼル殿下はグラス二つにワインを注ぎ、片方をフローレン様の前に置きました。
フローレン様はヘーゼル殿下が飲むまでずっと睨む続け、殿下はそれに対し、笑顔で応えて飲んだのです。
最後の一滴までしっかりと飲み干したのです。
「ぐっ。」
毒はすぐに体を支配しようと暴れ、ヘーゼル殿下の口元から血のようなものが流れました。
「ヘーゼル殿下!?」
「ざまあみろ!!死ねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!!」
それだけ言い残し、フローレン様はいなくなりました。
あらかじめヘーゼル殿下が逃げやすいように準備していたため、フローレン様が見つかることはありませんでした。奇跡的に。




