計画118
これが、俺に与えられた罰なのか?
母親がいないことを認めたくなくて、周りに迷惑かけて、兄妹に酷いことをして、その結果がこれなのか?
俺が父上を滅ぼすのか?
この俺が?
「殿下?」
「っ!なんだ。」
「お顔色が優れないようだったので。何かありましたか?」
「い、いやなんでも・・・。」
「殿下は嘘をつくのが下手です。」
「は?」
「最近殿下はよく嘘をついています。だがら見ていればすぐにわかるようになりました。」
「お前・・・。」
「殿下。私は貴方にとって頼りないかもしれません。」
「そんなことは・・・。」
俺は脳裏に過ったあの二人の会話のせいですぐに否定できなかった。
否定してやるべきだったのに。
「ご無理なさらないでください。殿下が嘘をついてしまうのもそれが理由ですから。」
「違う!俺は!!」
「ですが、私はいつまでも殿下のお側にいたいと思っています。」
「お前・・・。」
「この子は殿下と私を結び付けてくれる運命の赤い糸です。私が殿下を愛し、殿下に愛された証です。ですので、どうかお顔を正してください。殿下は殿下のやるべきことをやってください。」
「お前そこまで・・・。」
「私はいつまでも殿下を愛し続けます。」
迷いが消えた俺はすぐさまに行動した。
もう王座になど未練はない。
あいつらの企みも先に潰せばいい。
俺は最も信頼できる姉を頼り、一度城に戻った。
身重のあいつを安静にさせるために連れてはいかなかった。
それが失敗だった。
本当に失敗だった。
「いってらっしゃい殿下。」
これが最後の言葉になるなんて思う訳無いだろ!!
「わかったわ。そういうことなら協力してあげる。」
「すまねぇ。」
「けど、まさかあんたがそこまで入れ込む女性が出来るなんてね。思いもしなかったわ。」
「だろうな。俺自身が一番驚いてんだ。」
「でも、良い顔してるわあんた。こっちのことは任しときなさい。いなくなる身の最後のプレゼント、盛大にやってあげるから!」
「頼んだ姉貴。」
姉との計画。
これが成功すれば俺はようやっと・・・。
「なん・・・だと・・・。」
結論から言えば計画は失敗した。
城で過ごした二週間。
何があったか全くわからない。
だが、メイド長の言葉が嘘だとは思えない。
何より・・・。
「申し訳ありません。申し訳ありません!ヘーゼル殿下!!」
ベットの上で眠っているように動かない血まみれのこいつの姿。
それが全てを語っていた。
「あ・・・ああ・・・。」
触れた頬が雪のように冷たい。
膨れかけていた腹が何もねぇみたいにしぼんでいる。
「ああ・・・ああ・・・アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!!」
彼女は死んだ。
理由も、何があったのかもわからないままに死んだ。
俺の知らないところで死んだ。
「申し訳ありませんヘーゼル殿下!!!」
メイド長の謝罪も外で鳴いているであろう虫の声も聞こえない。
全てが暗闇だ。
まるで何もなかったように。
あれからずいぶん経った。
俺は元の状態に戻り、非道の限りを尽くした。
姉には悪かったが、もういない身だ。
好きにさせてもらってもいいだろう。
他の兄弟が俺を見る目はあからさまに最悪だ。
父親だからか、国王はこんなどうしようもない俺を守ろうとしている。
実に馬鹿親だ。
テメェの息子がテメェを潰しかけたってのに。
結果的に潰れなかったから良かったようなものだ。
そんな腐った毎日に終止符が来たんだな。
もう少し意地悪く生きようと思ったが・・・やめだ。
この女になら殺されても・・・いい。
「本気ですかヘーゼル殿下。」
「ああ。」
「お考え直しは・・・ありえませんか。」
「それをよくわかってんのはお前だろメイド長。」
「それはそうですが・・・。」
「お前の言う通りだった。あれからたくさんの女を抱いては捨てた。お前の言う通り俺はあいつしか愛せねぇ。あいつ以外からも愛されねぇ。」
「ヘーゼル殿下・・・。」
「この女が俺を殺しに来るんだ。だったらおあつらえ向きだろ。」
「・・・はい。」
「だからメイド長・・・。」
「ここまでが日記に書かれていた物語です。」
「ヘーゼル・・・。」
国王はルーティンを見据えたまま涙を流す。
日記を読み終える頃には、殿下の亡骸を見ても泣かなかった者たちも涙を流している。
「そしてここからは僕の推測です。必ずしも正しくないことを念頭に置いてお聞きください。」
国王は軽く顎を動かして先を促す。
「その手紙は恐らくヘーゼル殿下が愛した女性の母親からではないでしょうか。もしくはお腹の中にいた殿下の娘さんでしょう。手紙の内容は殿下に面会を求めての内容だと思います。もしかしたら恨みつらみも書かれていたかもしれません。とにかく、殿下はその女性が殿下自身を殺しに来ることが分かっていたのではないでしょうか。だからあえて殺しやすい場所を作り、用意された毒が入っていることが分かるワインを、殿下は自分で飲んだのではないでしょうか。死ぬことが分かっていて毒入りのワインをヘーゼル殿下は飲んだ。だから僕は、ヘーゼル殿下を殺したのは殿下自身だと、申し上げます。」
ルーティンの視界の端で、何かから解放されたようにメイド長は涙を静かに流しながら笑っていた。




