計画117
「月に送られてくる仕事だが、良くできているんじゃないか?」
兄はどう思うだろうか。
表面上は仲のいいふりをしているが、俺も兄も互いに嫌いあっている。
理由は簡単だ。
俺が欲望の為に妹を襲ったことを根に持っているし、俺が酷いことをし続けたからだ。
あの頃の俺は自分と同じ立場にいる全てが許せなくて、何が何でも王になるのは自分だって思いあがって。
・・・結局、幼稚なことをし続けた。
「ん?どうしたヘーゼル?」
「・・・何でもねぇ。」
「そうか?お前にしてはおとなしいからな。それにこの出来、少々驚いているぞ。」
「そうかよ。」
「・・・本当に何もないのか?」
「あ?」
「俺たちが互いによく思っていないことはお前も理解しているな?」
「そうだ。だからどうしたんだよ?」
「だが俺は、俺はお前の兄だ。過去に何があろうとも、許せないことがあろうとも、兄であることに変わりはない。もし、何か悩みがあるなら俺に・・・。」
「何でもねぇよ!!」
言えるわけがない!
言ってしまえばあいつはいなくなってしまう!
あいつを失うことだけは・・・けど、このままじゃ・・・。
「・・・そうか。お前がそう言うならこれ以上は何も言わん。」
「・・・ああ。」
「だが、一人では抱え込むなよ。」
「うるせぇ。」
今更相談できるわけないし、結果も決まっている。
王族としての正しい選択は奴隷であるあいつを奴隷のまま扱うこと。
正室でも側室でもなく、奴隷として扱うこと。
それが正しい選択。
だが、俺にとってはしてはいけない選択。
「殿下。」
「・・・なんだ?」
「今日は抱かないのですか?」
「ああ。疲れてるんだ。」
「そうですか。では、おやすみなさい。」
「ああ。」
日に日に死んでいく名も無い感情。
それとは裏腹に芽生え始める恐怖。
俺はもはやあいつの顔を真っすぐに見ることが出来ない。
あいつを抱くことも辛い。
あいつが俺は好きなのに、あいつが俺を苦しめる。
・・・残酷に。
「食欲がない?」
「はい。」
「大丈夫か?」
「はい。少し吐き気もあるのでお休みしてもいいですか?」
「ああ。薬が必要なら言ってくれ。」
「はい。」
嬉しいはずの出来事が今の俺にとっては悪い出来事になるとはな。
ほんと、神様は俺が嫌いらしい。
「にん、しんだと・・・。」
「そのようですヘーゼル殿下。お医者様の言う通りなら妊娠三週目です。」
「メイド長。それはつまり・・・。」
「はい。ヘーゼル殿下のお子です。」
嬉しいはずなのに、どうして素直に喜べない?
涙が溢れて止まらないのに、なんでこんなにも胸が痛い?
なんで?どうして?
「このようなことは申し上げるべきかどうか悩みましたが、曲がりなりにもヘーゼル殿下のお子です。心よりお慶び申し上げます。」
「・・・あぁ。」
「ヘーゼル殿下。失礼ながら申し上げさせて頂きます。そのような顔はするべきではありませんよ。」
「・・・は?」
「今の殿下はとても喜んでいるとは言い難いお顔です。その顔はまるで、悲劇とでもいいましょうか。そのようなお顔です。」
「っ!」
「ヘーゼル殿下。王族の地位を捨てるのはどうでしょうか。」
「は?お前は何を言って・・・。」
「貴方の奥方になるべき方がここにいるのです。この広い世界であの者以上に殿下を愛し、殿下に愛される者はそうそう出会えません。なら王族の地位に固執するよりもあの者を取るべきです。」
「だ、だが!」
「私はヘーゼル殿下の選択を尊重すると申しました。それは本当です。しかし、願わくばヘーゼル殿下にはこの地で、健やかに、穏やかに、あの者と共に愛を育んで欲しいと願っているのです。」
「け、けど!」
「ふふ。相変わらず泣き虫は変わっていませんねヘーゼル殿下。今の貴方はあの頃と同じですね。」
「メイド、ちょう?」
「貴方の奥方に貴方を頼まれてからずっと貴方を支えてきました。小さい頃は何をするにも怖がっては泣いてばかり。いない母親の愛情を代理で注いできましたが、いつしか貴方は間違った道へ進み始めました。それを私は自分のことのように自分を責めてきました。貴方が間違いを犯すたびに陛下に何度もこの価値のない頭を下げ続けました。けれどその日々はこの時の為だったのだと私は思うのです。」
「・・・。」
「ヘーゼル殿下。私や主人は貴方を生涯支えていきます。それは貴方が王族で無くなってもです。ですのでこれ以上は何も言いません。いつも通りの仕事に戻ります。」
「メイド長・・・。」
「ヘーゼル殿下。最良の選択を。」
俺には何もないと思っていた。
意識がハッキリしてきたあの日から母親をどこかで何か違うと思っていた。
本当のことをメイド長に聞いてから荒れに荒れ続けた。
神様は俺が嫌いだから俺にばかり酷いことをする。
だったら俺が他の奴にも酷いことをしてやるって。
結局、俺は何も見ようとせず生きてきたんだ。
こんなにも俺は愛され、支えられて、周りから認めてもらっていたのに。
「・・・痛く、ない?」
俺の心の靄が消え始めてきた。
けど、やっぱり神様は俺が嫌いなんだ。
「国防大臣様。」
「む?ようやく来たか。それでどうだ?」
「はい。ヘーゼル殿下は私の娘にお熱ですよ。」
(あいつらは・・・確か・・・。)
それは俺が決意を固めた日。
善は急げという言葉にのっとり、父上に話をしに行こうと思った日。
俺は、聞いてはいけない話を聞いてしまった。
「いよいよなんですね。」
「ヌハハハ。まだまだだよ。決定打を手に入れねばな。」
「決定打、ですか?」
「ああ。貴様の作った道具が妊娠でもしてくれれば決定打になる。それをもってワシはあの国王を引きづり下ろし、新たな国王としてこの国を手に入れられるのだ。」
「ケヒヒヒ。その時は私にもいい景色を用意してくださいよ。」
「約束してやろう。」
俺は、とんでもない導火線にさせられていたらしい。




