計画115
あの女との出会いは俺が別荘で仕事をしていた時だった。
城での仕事が嫌だったからだったな。
「ヘーゼル殿下。本日は面会を求める者がおります。」
「わかった。場所を用意しろ。」
「畏まりました。」
思えば、あの女には悪いことをした。
平民から成り上がった貴族の娘だからと、あいつを、俺は下に見ていた。
あいつの気持ちも、知らないで。
「ヘーゼル殿下。この度は私のようなものの為にお時間を頂き、誠にありがとうございます。」
「御託はいいから用件だけ言え。俺は忙しいんだ。」
「ハッ。では簡潔に申し上げます。我が娘を貰って頂けないでしょうか?」
「ほぉ。どんな娘だ?見せてみろ。」
「こちらにございます。」
「ふっふ~ん。なかなかの美貌じゃないか。この女なら貰ってやってもいいが、何が望みだ?」
「望みなど滅相も。しいて言えば・・・“縁”でしょうか?」
あの男は貴族に成り上がったことをいい事にどんどん欲にとり憑かれていた。
あいつの目が濁っていることに俺は気づいていたが、そんなことはどうでも良かった。
ただただ、女を欲した。
この美しい顔を歪ませてやりたい。
俺の黒い欲望があいつを引き合わせた。
「・・・でございます。」
「来たか。ほぉ、写真で見るよりも実物の方が綺麗だな。」
「お褒めに預かり光栄です殿下。」
「早速だが、貴様をテストしようと思っている。いいな?」
「お望みのままに。殿下。」
少し不思議な女だった。
大概の女は俺を前に嫌悪の表情の一つぐらい見せるはずなのに、こいつには嫌悪どころか感情そのものが見えなかった。
能面、一言で表せばそういう顔だった。
だが、俺の黒い欲望はその能面すら歪ませたいと、熱く、汚らしく燃えていた。
「ふむ。なかなかに仕事は出来るようだな。」
「お褒めに預かり光栄です殿下。ですが、よろしいのですか?」
「あ?何がだ?」
「こちらは国の仕事。いわば機密に触れる可能性のあるものです。それを私のような貴族の娘、それも成り上がりの貴族の娘に見せてもよろしかったのですか?」
「ふんっ。そんなことか。もし情報が洩れようものならお前の首を刎ねてやるだけだ。」
「・・・よかった。」
「は?」
「いえ、問題ないようでしたら続けます。」
思い返せばあいつはあの時、笑っていたような気がする。
自分が殺される話なのに笑った。
それはあいつの、あいつなりの声、だったのかもしれない。
「・・・なぁ。」
「何でございましょうか殿下。」
「こういうことは言いたくねぇが、お前、なんか変だぞ?」
「変、とは?」
「俺がお前を抱いた後だっていうのに、顔に変化がねぇ。自慢じゃねぇが俺が抱いた女は例外なく泣いていたぞ?俺が物のように扱うからな。なのにお前は・・・なんで平気そうに俺と話せる?」
「・・・愛しているからです殿下。」
「は?」
「貴方を心底愛しているからです殿下。」
「・・・チッ。その能面じゃ嘘か本当かわかんねぇな。あんまりつまんねぇようだったらうっかり殺しちまうかもな。ギャハハハ!」
「はい。お望みのままに。」
始めた抱いた夜に俺は確信した。
この女は死ぬことに恐怖を感じていない。
むしろそれを受け入れようとしていた。
それが俺の、心の何かに、変化を与えたのかもしれねぇな。
「どうだ?この飯美味いだろ?俺がメイド長に特別作らせた卵焼きだ。あいつの卵焼きは俺が小さい頃からの俺の好物だ!」
「はい、美味しいです。」
「本当か?相変わらずの能面でわかんないが・・・まぁ、美味いって言うなら別にいい。」
「本当に美味しいです殿下。」
「そうか?ギャハハハ!ならもっと喜べ・・・!」
「はい。」
この女の笑顔が見たい。
この女の喜ぶことをしたい。
贅沢は言わねぇが、どうにか表情を変えたい!
この女を・・・幸せにしたい。
いつの間にか俺の中でこの女の存在は大きくなっていった。
「殿下は、毎日飽きずに私を抱いてくれますが、楽しんでいますか?」
「あ?急にどうした?珍しいことを聞くもんだなお前。」
「いえ、その・・・初めての時の方が激しかったので。その、この頃は優しく抱いてくださるから私に飽きてきたのかと。」
「そんなことはねぇから。ただ、そう!アプローチを変えただけだ。」
「アプローチを?」
「ああ。お前のその能面をどうにかして崩してぇんだ。激しくしても駄目なら優しくってな。んで?どうよ実際?」
「気持ち良かったです。」
「でも能面は崩れねぇのな。」
「・・・幻滅しましたか?」
「はぁ!?そんなことでするわけねぇだろ!むしろ燃えてるよ。俺が何としてもお前のその最強の能面を崩してやるってな。だから、その、なんだ。お前が俺を嫌にならねぇ限りはお前を抱くことを止めねぇ。いいな?」
「・・・はい!」
「お前今・・・!」
「・・・殿下はズルいです。」
顔は見えなかったが、耳が赤かったから照れていたんだろう。
それがどうしようもなく愛おしくて、可愛くて、言葉にならない幸せが俺の中で生まれつつあった。
そう、生まれつつあったんだ。




