計画110
「エンラちゃんが話してくれた青年は、何か取り柄があったわけでも、容姿が優れていたわけでも、家柄が良かったわけでもなんでもない。本当にどこにでもいるような、まるで村人Aのような人だった。」
(エンラが話してくれたことだな。)
「ただ、誰よりも人の気持ちに共感できたの。誰かが泣けば同じように涙を流し、誰かが笑えば同じように声を出して笑っていたわ。だから多くの人から好かれていた。まるでルーティン様のように。」
アーネムは六つの駒を取り出し、一つの駒を囲むように五つの駒を置く。
「青年は五人の姫君から求婚を受けました。けれど、青年には選べなかったのです。人の気持ちに共感できてしまう青年は誰かを選べば他の誰かを選ばない。そのことが悲劇を起こすとすぐにわかったから。選ばれなかった姫が悲しむ姿を容易に想像できてしまった青年はどうすればいいのか悩んでしまったの。けどそんな青年を救ったのは同じように姫君の一人だった。彼女は青年にこう言ったの。『貴方が王族になれば他の姫君を側室に向かえることが出来る。皆が幸せになれる』ってね。」
「それで青年は姫君の言う通りにして、一人と結婚後、他の姫を側室に向かえたんだろ?」
「そう。それでおしまい・・・と、ならなかった。」
(ここからが闇の部分か。)
「青年が誰を選んで結婚したのか、それはこの提案をしてくれた姫君となの。姫君もそれが皆の幸せだって思っていたわ。けど、それは他の姫君が納得した内容ではないのよ。」
「ん?」
「要するに、提案した姫の勝手な自己満足だったってこと。四人の姫君は側室になることを屈辱と思っていたの。」
「・・・そうか。皆が一緒だけど、ある意味で側室という立場は選ばれなかったとも受け取れるんだな。」
「ええ。けど、青年と一緒にいられるならって姫君たちは自分を納得させていたの。・・・たった一人を除いてね。」
「それじゃあ・・・。」
ルーティンの想像を肯定するようにアーネムは頷く。
「その姫君は側室の立場に納得は出来なかった。けど、愛する青年の側にどうしても居たい。その気持ちがぶつかり合い、最悪な結末を起こしてしまった。」
「・・・妻である姫を・・・。」
「・・・殺してしまった。」
言葉がない。
それは前世でよく読んだ小説の内容のような物語で、自分自身のみにも同じことが起こっているという非現実的な感じで、ルーティンは何も言えない。
「それから姫たちの関係は悪化し、結局殺した姫は処刑。他の三人の姫は国に戻され、残った青年は・・・自殺したわ。」
「・・・僕もその青年のようなバッドエンドを孕んでいるということか。」
「それが特に強いと思うわ。」
「何だって?」
「これを見て。」
アーネムがテーブルを叩くと、テーブルは鏡に代わり、ある光景を映す。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
そこに映るのは見たこともないおぞましい顔で暴れる少女。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
自分の身が血まみれであることを何とも思わない少女。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
ルーティンはこの少女を知っている。
「あ゛あ゛う゛う゛。」
目を背けたい映像だが、背けてはいけないと強く思う、けれど・・・。
「・・・姫様。」
泣き止まない少女。
「・・・お怪我が酷いことになっています。治療の許可を。」
自分の考えが甘すぎたことを自覚させてくれる光景。
「どごに゛ぎえ゛だの゛?」
自分の心が教えてくれるのは愛情ではなく恐怖。
「現状、わかりません。監視の者のも行方知らずですので。」
分かっていたはずだ。
この世界は乙女ゲームなんかじゃない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
現実の、ルーティン自身が生きている世界。
それはつまり誰もが生きている世界。
「る゛ーでぃん゛ざま゛!!!る゛ーでぃん゛ざま゛!!!る゛ーでぃん゛ざま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
そこに映っていたルリアはルーティン自身を責めているようだった。
見ているのが辛かったアーネムはすぐさまに映像を消す。
「これが私が貴方をここに呼んだ用件。この現実を貴方に受け止める覚悟はありますか?ルーティン様。」
「うあぁ、あ?」
思うように言葉が紡げない。
甘かったんだ、本当に考えが甘かったんだ。
「・・・その表情を、私は見たくありませんでした。」
流れる涙がとても嫌だ。
この涙は悲しい涙や嬉しい涙なんかじゃない。
「・・・こわいよ、アーネム。」
恐怖、それ以外に例える言葉はない。
この涙はルリアに対する恐怖、そしてこれから超えていかなければならない問題への恐れ。
「・・・申し訳ありませんでした。」
頭を下げる以外に、アーネムがルーティンにかける励ましの言葉は無かった。




