計画106
「今日は待ちに待ったデートですわ!」
朝早くから張り切っているエンラに連れられて、ルーティンはミカン畑を歩いている。
見渡す限りのミカンに、漂ってくる柑橘系の匂い。
朝ご飯を食べていないルーティンには刺激が大きい。
「さぁ、ルー!一緒にミカンを食べましょう!」
「え?ここのを?」
「ええ!持ち主には話を通しておきましたわ。だから自由に食べてもらって大丈夫ですのよ。」
「へ~。んじゃあ早速・・・。」
適当にミカンを摘み取り、皮を剥いて口の中に入れる。
口の中に広がる甘さと、柑橘系独特の嫌じゃない酸味が目覚めたばかりの胃を刺激し、食欲を促す。
本当は一個でやめておこうと思ったが、ルーティンは我慢できずに二個目も手に取って食べ始める。
「ふふふ。気に言って頂けたようで良かったですわ。」
「うん!とても美味しいね!エンラも食べなよ。」
「ええ。」
エンラもミカンを手に取り、口の中に入れて嬉しそうに笑う。
(ん~将来農業とかやるのもありかもしれない。)
そんなことを考えながら三個目を食べて、朝食を済ませた。
「では、観光スポットに参りましょう。」
「観光スポットってどこ?」
「まずはあちらですね・・・。」
馬車に揺られながら訪れたのは小高い丘である。
特徴をあげるのなら横に綺麗に並ぶ風車だろう。
「すごいね!」
「ええ。マーマレイドはこの風車で電力をまかなっているのです。」
「へ~。」
「降りて近くで見てみましょう。」
エンラに手を引かれながら風車の真下まで歩いてくる。
「うっわ~大きいな~。」
「もちろんですわ。我が国で一番大きい風車ですから。」
見上げると、ゆっくりと風車は回っている。
のんびりと、止まることを知らずに回り続ける風車はどこか言い表しがたい魅力がある。
「ここで本読みたいな~。」
「わかりますわ。ここは風も気持ちがいいですもの。」
「うん。」
「もう少し見ますか?それとも次に行きましょうか?」
「次に行こっか。」
「ええ。では次は・・・。」
「おお!」
「ここは博物館ですわ。と言っても、風車についてですけどね。」
ガラスの向こう側には当時書かれたであろう手記や、風車の羽の部分、設計図、開発していた人たちの写真など前世と同じような感じでどこか懐かしさや安心感を覚える。
「こうやって今の私たちが暮らすために、昔の人たちは努力し続けたのですわ。」
「だね。」
「私もこのように、人々が住みやすい国になるように尽力しますわ。」
「エンラなら絶対に出来るね。」
「ふふふ。ありがとうございますわ。そ、そのときは!と、隣にる、ルーが・・・。」
「え?」
「何でも無いですわ!つ、次に向かいましょう!」
「うん!」
「ここは観光とはちょっと違うのですけど。」
「これは!?」
ルーティンの目の前には甘い香りが漂う丸い大きなお菓子が見える。
「一応、マーマレイドの名物ですわ。」
(これは紛れもない!アップルパ・・・。)
「オレンジパイですわ。」
(そうだよね~。知ってた。)
「お口に合えばいいんですけど。」
「いただきま~す。」
三角に切り分けられた一切れを小皿に乗せ、フォークで一口サイズに切って口に運ぶ。
口に入れると、柔らかいパイ生地の中から少し酸味の強いミカンが姿を見せる。
ミカンは酸味の後に緩やかな甘さと変わり、パイ生地と混ざり合う。
そうなることで口の中では甘さ控えめの美味しいオレンジパイが姿を見せる。
「美味しーい!!」
「良かったですわ。では、私も・・・ん~。」
エンラの口にも合うようで、頬が緩み切っている。
「えへへ。」
「ど、どうしたんですの?」
「いや~デートって意外と楽しいなって思ってさ。」
「っ!?よ、よ、喜んでいただけて嬉しいですわ!?」
真っ赤になった顔を隠すように背ける。
しかし、ガッツポーズは隠しきれていない。
(うん。僕は紳士だから見なかったことにしておくよ。それに・・・)
「オレンジパイ美味し~い。」
「ここはマーマレイドのもう一つの特産品であるガラス細工を作っている工房ですわ。」
「ほへ~。」
「我が国、というよりもお父様はガラス細工に魅了されてこの事業の全面的協力をしていますわ。」
ガラスケースの中には馬や猫を模ったガラスや、コップや皿のガラスが並んでいる。
しかしどれも無色透明で、色付きのガラスはない。
「何かお気に召す物はありやしたかお嬢様、坊ちゃん。」
ガラス細工づくりには不釣り合いなほどの褐色筋肉の笑顔が眩しいおっさんが姿を見せる。
「若旦那!」
「誰?」
「こちらはこの工房の若旦那、ウォンドさんですわ。」
「こんにちわウォンドさん。」
「どうもだ。ところで坊ちゃんはガラス細工が珍しいんですかい?遠目でもわかるぐらいに隈なく見ていやしたけど。」
「珍しいというよりも全て無色透明で、色付きのガラスはないのかな~って思ったんですよ。」
「へい?ガラスは全て無色でしょうよ。色の付いたガラスなんてありはしないですよ。」
(おや?これは・・・。)
何も知らずに笑うウォンドと違い、ルーティンは含みのある笑いを見せるのであった。




