計画104
「へ、ヘーゼル殿下、考え直して頂けないか?我が領地は本当に不作なのだ。このままでは・・・。」
「くどいぞクック。どうにかしてほしければ兄上に頼めばいい。財政も領地の年貢も兄上の担当だ。」
「で、ですがアーモンド殿下は・・・。」
「まぁ、真面目な堅物な兄上が貴様の話に乗るとは思えないけどな。」
「で、ですからヘーゼル殿下に!」
「無理なものは無理だ。やるならバレない準備を済ましてから言え。」
クックは唇を噛みしめ、怒りを自分の中で何とか鎮火させる。
「で、では!もう1つの方は聞き入れてくださいよヘーゼル殿下。」
「内容による。」
ヘーゼルの興味の無さそうな態度に、またしてもクックの怒りが積もり始める。
「もう一つはですね、ヘーゼル殿下。我が娘、コンヒールと結婚して頂けないかと。」
そう言ってクックは一枚の写真をテーブルの上に置く。
「どうです?見た目も美しく、器量も良い。おまけに料理や掃除も出来るのですよ。」
「・・・何が狙いだクック。」
「は?狙い、と申しますと?」
「わざわざこのような場など設けなくとも見合いという形で紹介すればいい。だが、お前はそうしなかった。しかも、自分の可愛い娘をだ。何かあると勘繰るのが正しいだろう?」
「・・・お戯れを。私に策謀などございませんヘーゼル殿下。可愛い娘の将来を想ってこそのお願いですよ。」
「嘘をつきとおせば真実になると思っているのなら馬鹿か貴様は。俺が疑いの眼で見た時点で終いなんだよクック。」
私は自分の目を疑いました。
あの女好きのヘーゼル様が美女を嫁に、素直に貰おうとしなかったのです。
夢かと思って頬をつねりましたよ。
けれど、現実だったんです。
「殿下は、我が娘はお気に召さないと?」
「そうは言っていない。美しい女だ。くれると言うなら貰うに決まている。だが、この俺に自分の可愛い娘をやる馬鹿親が何処にいるよ?俺は俺自身をよく理解している。だからわかる。お前の娘が俺に嫁ぐことを望んでなどいない。なら、何かしらの策謀があるに決まっているだろう。」
「ははは。考えが過ぎますよヘーゼル殿下。本当に何もありません。」
ヘーゼルはクックの額の汗を見て、乾いた笑いをあげる。
「言葉とは裏腹に体は正直に答えているぞクック。」
クックは無理矢理笑顔を作り、誤魔化そうと必死に考えをめぐらす。
それを見て、ヘーゼルはため息を吐く。
「ならこうしようクック。貴様の隠していることを素直に話すなら、内容によっては嫁に貰ってやる。どうだ?」
「・・・その言葉本当ですか?」
「ああ。」
「・・・実は、我が娘は子が産めない可能性があります。」
「産めない?可能性?どういうことだ?」
「昔の話ですが、娘がまだ幼い頃に高熱を出したことがあるのです。その際、医者に診てもらい今は元気に過ごしています。ですが、医者が言うにはその時に使った薬は娘の子を作る力を奪ってしまう可能性がある物でした。現に、医者の言っていた通り、その、女性の日が少ないのです。」
「だが、あくまで可能性なんだろ?ならば産めないわけではない。」
先程までの険しい表情からクックの顔が少しだけ和らぐ。
「・・・ヘーゼル殿下のようなお考えを、皆がしてくれればよかったのですがね。」
「どういう意味だ?」
「私は娘に求婚してきた者にこの話をしました。すると、即座に求婚は撤回され、噂は広まり、この年になっても婚約の1つもない。最近では夜、娘は私たちに黙って泣いているのです。だから何とかして女としての喜びをと、そう思ってヘーゼル殿下を頼りました。」
クックは立ち上がり、ヘーゼルに向けて深々と頭を下げる。
「ヘーゼル殿下は聡明なお方だ。私のような悪知恵を働かせるようなことしか娘を幸せにできないと考えている大馬鹿者よりも。ですから改めてお願いします。我が娘を嫁に貰っては頂けないか?」
「・・・断る。」
顔をあげたクックは力のない笑顔をヘーゼルに向ける。
「勘違いするなよクック。この場では決めないということだ。」
ヘーゼルはテーブルの上に置いてあった紙を取り、走り書きをクックに渡す。
「これは!」
「見合いの席を俺の方で用意してやる。俺と結婚するかはお前の娘、コンヒールだったか?そいつに選ばせろ。結婚してから後悔されても困るからな。」
それだけを言い残し、ヘーゼル様は振り返ることもなく立ち去りました。
クック様は涙を流して喜んでいました。
今までヘーゼル様に使えてきて、初めて見た光景です。
私の中でヘーゼル様に対する思いが変わり始めた時に、事件は起こりました。
クック様を馬車までお見送りした後、執務室に戻りました。
その時にはヘーゼル様はおらず、書き終えた資料の山だけがありました。
私はそれをアーモンド様にお渡しし、少しだけ休憩をしてからヘーゼル様のお部屋に向かいました。
一応話しておきますが、休憩中は他のメイドとおしゃべりをしていました。
そしてヘーゼル様のお部屋に入った時には既に、ヘーゼル様はお亡くなりになっていました。




