↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙の宇宙と忘れられた海  作者: 霧島真宙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/19

第9話 AIRS

地球から遠く離れたアステロイドベルト。

そこに暮らす俺たちにとって、宇宙は冒険の舞台ではなく、ただの職場だった。

そんなある日、六十年間ほとんど変化のなかった俺たちの生活に、地球から一人の監査官がやってきた。

彼女の名前は、アレナ・イエリク。

なぜ彼女は、わざわざここまでやって来たのか。

そして、彼女が調査するという「旧坑道」には、いったい何があるのか。

静かな日常が、少しずつ動き始める。

クリフが AIRS(Autonomous Integrated Remote-control System)を起動する。

このオペレーションルームの“主”のような存在だ。

自律型統合遠隔制御システム――AIRS。


このミッションが終了するまで、俺たちがここで行う作業はすべて“彼女”の統制下に入る。


女性の声色で設計されているため、俺たちは敬意を込めてそう呼んでいる。

“彼女”はブリーフィングの段階から参加し、

ミッション参加者の発言をリアルタイムで解析し、記録し、思考する。


手順の誤りや、説明内容との理解に齟齬が生じる可能性があれば、

話を遮らない絶妙なタイミングでレッドシグナルやイエローシグナルを提示し、警告や指摘を行う。

つまり、クリフが“彼女”を起動した瞬間から、ここで交わされるすべてが記録されていくということだ。


クリフがいつもの調子で言う。

「No.211 小惑星帯調査ミッションを開始します。詳細はユイト、頼むぞ」

……まったく、いつも通りだ。

「最初に概要を説明する。このミッションは、現在主に資源採掘を行っている No.16 鉱区――通称ナミビアからの連絡ルートが“ルート9”しか安全に確保されていない状況を受けて実施される。非常時に備え、代替ルートが使用可能かどうかを確認するための予備調査だ」


「ミッション責任者はクリフ・マルエフ。オペレーションルーム担当、調査担当者はユイト・ミハラ、ペドロ・マルチネス。

ミッション監査官としてアレナ・イエリク。

この三名はポート”ハワイ”に着陸後、基地へ移動し、そこからルート1へ侵入する」

「なお、本調査の主目的ではないが、ロストしたドローンの位置確認を行う。ただし、発見しても回収は行わないことを確認する」

「また、ルート1は長期間使用されていないため、侵入後100メートル地点から粉塵により視程が1メートル以下となる」

「このため坑道内は原則オートパイロットモードとし、アレナ・イエリク監査官はオートパイロットモードを必須とする」


各自が要所ごとにチェックを行い、準備が進んでいく。

AIRS は俺の発言を冷静に推敲し、グリーンシグナルを一定のリズムで灯し続けていた。


そして、タイムスケジュールのチェックリストを確認中に、AIRS が警告を発する。

三人編成になったことで侵入時の調整が増え、シーケンス全体がタイトになるという警告だ。

AIRS は「ミッションを300秒延長する」か「調査項目を一部ショートカットする」案を提示してくる。


――やはり来たか。

三人編成になった時点で、侵入シーケンスがタイトになるのは分かっていた。

AIRS がチェックリストの進行中に警告を出してくることも、容易に想像できた。

五分という数字は、思ったより大きい。

だが、ショートカット案は、人間側がシミュレーションをしていない以上、AIRS の補助がない環境では危険性が跳ね上がる。


結局、選べるのは「300秒延長」しかない。

つまり、生命維持装置の残りが五分削られるということだ。

俺はペドロの顔をチラッと見てから、AIRS に指示を出す。

「坑道内のデータリンクモードを LowEnergyMode に変更した場合の、生命維持装置の延長時間を確認」

AIRS は即答した。

「延長可能時間は 35 秒です」


そこで、初めてアレナが口を開いた。

「LowEnergyMode にしてしまった場合、拡張視界の機能が一部制約されるのではありませんか?それでは調査が不十分になるのではなくて?」

少しだけ語尾が強い。


俺はペドロをチラッと見てから答える。

「通常モードでは、俺たち二人分のデータリンクによる相互拡張視界です。

 今回アレナが参加することで、三人分の相互拡張視界が得られる。

 LowEnergyMode にしても、二人で行くより視界はクリアになるはずです。……そうだな、AIRS?」

「はい。ユイトの提案では、視界情報の精度は約 3%上昇します」


俺は声を少し落とした。

「現場では、俺たちの判断を優先させてください。……安全のためです」

ペドロが俺の顔をチラッと見返す。

その意味は、言葉にしなくても分かっている。

アレナは何か言いたげにわずかに眉を動かしたが、

結局は黙ってチェックのサインを送った。


「では、それを標準シーケンスに反映」

クリフは聞いているのかいないのか、ずっとシステム画面に目を落としたままだ。

ブリーフィングの終わりが見えてくる。

アレナは緊張を隠しきれない表情をしながら、長い髪の毛をまとめている。

ペドロはすでに、壁の向こう――坑道の暗闇を見据えているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。