↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙の宇宙と忘れられた海  作者: 霧島真宙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/18

第3話 エリート

地球から遠く離れたアステロイドベルト。

そこに暮らす俺たちにとって、宇宙は冒険の舞台ではなく、ただの職場だった。

そんなある日、六十年間ほとんど変化のなかった俺たちの生活に、地球から一人の監査官がやってきた。

彼女の名前は、アレナ・イエリク。

なぜ彼女は、わざわざここまでやって来たのか。

そして、彼女が調査するという「旧坑道」には、いったい何があるのか。

静かな日常が、少しずつ動き始める。

アレナはすぐにタブレットへ視線を落とした。副長のミサが、わずかに肩をすくめる。

「ユイト、ペドロ。現地審査は任せたわ。カテゴリー3の任務だから事故には十分注意して。それから、ミッションルームまでは……B5ルートでお願い」


B5ルート。明らかに、このミーティングルームから遠回りだ。

しかも今は、ちょうど各ポジションの引き継ぎの時刻。


つまり――

この監査官を、他の乗員とあまり合わせたくないということだ。

なぜ監査官の情報がほとんど伝わってこなかったのか、ようやく理解した。


船長と副長は、アレナを船員の目に触れさせたくないのだ。

極端な環境のこの船には、女性の乗組員は数えるほどしかいない。

ましてや、若くて美人となると。

荒くれ者の多いこの船だ。未使用の区画も多い。

上役の命令が絶対であろうとも、こんな美人がうろつき回れば――

何が起こるか分かったものじゃない。

俺たちが選ばれた理由も、ようやく腑に落ちた。

俺たちは、そういうことを起こしそうにない人間だ。


「アレナ監査官。では準備ができ次第、少し遠いですがオペレーティングルームに向かいましょう」

そう言いかけたところで、アレナが口を挟んだ。

「監査官ではなく、アレナと呼んでいただいて結構です」


まったく。

俺は“監査官”と呼んだほうがよほど話しやすいのに。構わず続ける。

「では……アレナ。オペレーティングルームでは、私たちの準備に少し時間がかかります。

 それに、調査そのものにも時間がかかる。最低でも半日は見ておいてください」

アレナはわずかに首を傾げ、無表情のまま、タブレットに視線を落としている。


「ご存じでしょうが、あそこは設備が簡素です。排せつや飲食の施設は、作業に必要な最低限の基準しか満たしていません。手洗いやトイレに行く必要があるなら、今のうちに済ませておいてください」

言いながら、俺は心のどこかでため息をついていた。ミサから、アレナの経歴がさりげなく伝えられた。


地球のオックスフォード大学を飛び級で卒業し、在学中に監査員資格や司法関係の資格まで取得。宇宙については、ハイスクールの時代に初体験、その後、大学在学中にコロニー9――教育機関が集中しているコロニー――に宇宙留学


そのままマテリアル社の企画開発部門に、トップの成績で就職してきたという。

さらに、名門一族の出身らしい。


つまり――“お嬢さん”。

いや、“お嬢様”か。

なんでこんなところにわざわざ・・・

後ろのペドロが、さらに顔をしかめているのが、見なくても分かった。

“ほら見ろ、余計な奴だ”

“絶対面倒なタイプだ”

そんな声が、言葉にしなくても背中から伝わってくる。


俺は心の中で小さくため息をついた。

アレナの異物感は、どうやら経歴の時点で確定していたらしい。ミサは申し訳なさそうに、そしてどこか心配そうに言った。


「私は……あそこには行けないの。もう放射線の許容値をオーバーしているから」

女性の許容値は男性より低い。

ましてやミサのような副長は、船内の調整や緊急対応で被曝する機会が決して少なくない。


常に上限ギリギリ――いや、実際には何度も超えているのだろう。

“想定外”として活動することはできる。

現場では、そういう抜け道を使わなければ回らない場面も多い。


だが、監査は想定外ではない。

ましてや本社の監査員が目の前にいる状況で、その抜け道を使うわけにはいかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。