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廃棄物ダクトからの潜入

決行までの二日間、ニコとヘラの間の空気は、張り詰めた弦のように、いつ切れてもおかしくない状態だった。ニコは、来るべき潜入に向けて、精神を研ぎ澄ますことに集中した。彼は隠れ家であるメンテナンスダクトの中で、カイから託された道具…EMP装置、ピッキングツール、そして短いナイフの手入れを繰り返し行い、その使い方を何度もシミュレートした。奪った携帯端末に表示される、不確かだが唯一の手がかりである中央管理局の古い構造図も、目に焼き付けんばかりに見つめた。


一方のヘラは、ニコのその異様なまでの集中力と、明らかに何かを隠している態度に、不安と疑念を募らせているようだった。彼女は、B1Fの穏やかな日常に安らぎを見出しつつも、ニコが再び危険な領域へ足を踏み入れようとしていることを、本能的に感じ取っていた。何度か、彼女はニコに話しかけようとした。


「ニコ…何をしようとしてるの? 私にも話して」

「危ないことはしないで。お願いだから…」


だが、ニコは多くを語らなかった。「大丈夫だ」「心配するな」と繰り返すだけで、具体的な計画を明かすことはない。ヘラをこれ以上、自分の危険な道に引きずり込みたくないという思いと、そして、彼女が計画を知れば、必ず止めようとするだろうという確信があったからだ。彼の決意は固く、もはや誰にも止められなかった。ヘラも、それ以上は踏み込めず、ただ不安げにニコを見守るしかなかった。二人の間には、見えない壁が、確実に築かれつつあった。


そして、潜入を決行する夜が来た。B1Fにも、人工的な照明の明暗による「昼夜」のサイクルがある。ニコは、ヘラが眠りについたのを確認すると(あるいは、眠ったふりをしているのかもしれなかったが)、音を立てずに隠れ家を抜け出した。


目指すは、中央管理局北側の廃棄物ダクト。数日に一度、深夜から早朝にかけて行われる大規模な廃棄物回収作業。それに紛れて侵入する計画だ。ニコは、B1Fの住人に擬態するための白い服の上から、目立たないように暗い色の上着(これもまた、どこかの共用区画から拝借したものだ)を羽織り、人通りの絶えたB1Fの通路を、影から影へと移動した。


煌々と照らされた主要通路とは対照的に、建物の裏手やサービスエリア周辺は、いくらか照明が落とされ、監視カメラの死角も多い。それでも、ニコは常に頭上や壁面のレンズの存在を意識し、慎重に歩を進めた。B4Fで培われた、闇に紛れる技術が役に立つ。


やがて、彼は目的の廃棄物ダクトエリアに到着した。そこは、建物の他の部分とは異なり、むき出しの金属と、機能性だけを重視した無骨な設備が並ぶ、殺風景な場所だった。そして、既に作業は始まっているようだった。ゴウンゴウンという低い駆動音と共に、大型の箱型清掃ロボットが数台、壁に設けられた巨大なハッチから出入りし、建物内で回収した廃棄物を満載したコンテナを運び出している。その作業を、数人の人間の監督官が、無感情な顔で監視していた。


(…始まったか)


ニコは、近くの資材置き場の影に身を潜め、息を殺してタイミングをうかがった。ロボットは、一定の間隔でダクト内部へと入っていく。ダクトの入り口にある、分厚い内部ハッチが開閉するのは、ロボットが出入りするほんの数秒間だけだ。その瞬間に、監督官とロボット自身のセンサーに見つからずに、ロボットの直後に滑り込まなければならない。失敗は許されない。見つかれば、警報が鳴り響き、即座に捕まるだろう。


ニコは、掌の汗をズボンで拭い、心臓の鼓動を落ち着かせようと深呼吸した。鉄パイプは邪魔になるため、隠れ家に置いてきた。頼りになるのは、腰のナイフと、カイから託された道具、そして自分自身の機転と身体能力だけだ。


一台のロボットが、満載のコンテナを接続し、ダクト内部へと後退していく。内部ハッチが、重い音を立てて開き始めた。監督官たちは、手元の端末で作業状況を確認しており、ニコが潜む影の方には注意を払っていない。


(今だ!)


ニコは、全身のバネを使って影から飛び出した! 音を立てずに、しかし全速力で、開かれたハッチへと向かう。ロボットの巨大な機体のすぐ脇をすり抜ける。ロボットのセンサーが反応するかもしれない。監督官が顔を上げるかもしれない。数メートルが、永遠のように長く感じられる。


そして、彼はついに、ダクトの暗い内部へと飛び込んだ! 背後で、内部ハッチが閉まり始める重い金属音が響く。間一髪だった。


ダクトの内部は、ニコの想像以上に過酷な環境だった。まず、強烈な悪臭。様々な種類の廃棄物が混じり合った、鼻を突き、吐き気を催させるような臭いだ。そして、完全な闇。B4Fの闇よりも、さらに深く、濃密な闇。自分の手すら見えない。ニコは、カイからもらった小型のLEDライト(これも旧世界の遺物だろう)を点けたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえた。どこにセンサーがあるか分からない。今は、闇に紛れるしかない。


幸い、前方を進む回収ロボットの駆動音と、その機体から漏れるわずかな動作ランプの光が、かろうじて進むべき方向を示していた。ニコは、壁を伝いながら、ロボットから少し距離を置いて、慎重についていく。足元には、正体不明のぬめりや、硬い廃棄物の破片が散乱しており、何度も転びそうになった。


(このまま、ロボットについていっていいのか…? いや、こいつは処理施設へ向かうはずだ)


ニコは、奪った携帯端末を取り出し、カイのデータチップに入っていた古い構造図を表示させた。画面の光が闇の中で目立たないよう、手で覆いながら、現在位置とダクトの分岐を探る。構造図が古いため、完全に信用はできない。だが、これだけが頼りだ。


(あった…この先で、上層階へ向かうメンテナンス用の分岐ダクトがあるはずだ…)


ニコは、回収ロボットが進むメインダクトから離れ、構造図が示す分岐点へと向かった。そこは、メインダクトよりもさらに狭く、空気の流れもほとんどない、息が詰まるような空間だった。彼は、四つん這いになり、時には腹這いになりながら、その暗く狭い通路を進んでいった。途中、何度か、行き止まりにぶつかったり、予期せぬ障害物に行く手を阻まれたりしたが、そのたびに、別のルートを探し、あるいは障害物を力ずくで排除して、前へ進んだ。


どれくらいの時間が経っただろうか。疲労と、悪臭と、そして精神的な緊張で、彼の意識は朦朧とし始めていた。だが、その時、彼は頭上に、わずかな光が漏れている格子状の蓋があるのを見つけた。メンテナンスハッチだ。構造図によれば、このハッチは、中央管理局の、おそらくは下層階にある、電気室か何かの天井に通じているはずだった。


(ここから、中へ…!)


ニコは、最後の力を振り絞り、ハッチの下までたどり着いた。彼は耳を澄ませ、ハッチの向こう側の音を探った。機械の作動音らしきものは聞こえるが、人の気配はないようだ。


彼は、そっとハッチに手を伸ばした。幸い、外側から開けられる単純な構造のようだ。ニコは、ゆっくりと、音を立てないように、そのハッチを押し上げ始めた。


ギィ…という、小さな、しかし心臓に突き刺さるような金属の軋む音が響く。ニコは息を止めた。


ハッチの隙間から、彼はついに、中央管理局の内部の光景を垣間見た。そこは、薄暗いが、無数のケーブルと配電盤が並ぶ、機能的な空間のようだった。


彼は、ついに敵の中枢へと、その第一歩を印したのだ。だが、本当の戦いは、ここから始まる。

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