41.現状報告会議
ハークハイトたちとの再会を無事に果たした後、一緒に戻って来たスレイプとミーヤにもおかえりを言って、二匹を厩へと入れた。
「レパル、ベルリナ、今回は大変世話になった。礼を言う」
「この様なことで恩返しできる機会を頂けたこと、光栄に存じます」
「いや、お前たちが恩義を感じ出ているのはシロだろう。それとは別に、本当に世話になった。礼については後ほど連絡する」
そんなやり取りを交わして、馬車から大量の荷物を降ろすと、レパルとベルリナは帰って行った。
「この荷物、何?」
「喜べシロ。お前への土産だ」
「お土産?」
「ユーリ、シロに土産を渡すのは説教の後だ」
「え……」
不穏な単語に、そう言えばさっきもハークハイトが怒っていたことを思い出した。
「話は執務室に移動してからにする。すぐにファーガス団長も到着するだろう」
怒られることが確定しているので、逃げ出そうとするとザビに肩を押さえられた。
「シロ、どこ行く気だ? せっかく主が帰って来たのに」
「いや、あのね……」
「君には説教があると言っただろ。ザビウス、そのままシロを連れてこい」
「シロ、悪いな」
「ザビー……」
そしてそのまま執務室へと連行された。
それから程なくして、ファーガス団長が騎士団基地に到着した。
「ハークハイト、ユーリ、無事だったか!」
「ご心配をおかけしました、ファーガス団長。ユーリと共に無事帰還しました」
「お前らこの十日何してたんだ? 連絡くらいできただろう」
「色々あったのですよ。もう本当に、色々と……」
「シロ絡みか」
「それしかありません。ですが、彼女のおかげで命拾いしました」
「そうか」
ファーガス団長もハークハイトたちをずっと心配していたのだろう。
ハークハイトとユーリの肩を叩くと、本当に良かったと呟いた。
「シロ! シロのおかげだそうだ!」
「わっ!」
平穏が戻って良かったと思ったのも束の間、この十日間が嘘のようにファーガス団長は私を持ち上げぶんぶんと振り回した。
「やめてー」
「シロは本当に可愛いな」
「ハークハイト、助けて……」
「説教代わりに振り回されていなさい」
「そんなー!」
結局ハークハイトには助けてもらえず、ユーリやザビがファーガス団長に意見することもなく、私は目を回すまでファーガス団長に振り回された。
「で、団長のわしに連絡もよこさずこの十日何をしていた?」
「端的に言うと、魔力を暴走させてしまい対応に追われておりました」
「お前が、魔力の暴走? 何の冗談だ?」
私で遊ぶのに満足したファーガス団長が席について、始まった会議は、早々にファーガス団長の眉間に皺を寄せさせた。
ハークハイトの言葉を疑うファーガス団長にハークハイトは袖をめくりじゃらじゃらと金環を付けた腕を見せた。
「お前、それ……」
「魔力を暴走させ、戻ってくるにも魔力を垂れ流したままとはいかず、あなたに連絡するにも金環で身動き取れないことを他人に知られるわけにいかなかったのです」
「確かに伝蝶は相手の場所や時を選ばないから、他人に知られる可能性はあるな……。だが、そもそも魔力量も高く、その扱いに慣れているお前が魔力を暴走させたなど俄かには信じがたい」
「平時なら、私も魔力を暴走させることなどありません。ですが、これには事情があるのですよ」
「事情?」
「その、ですね……」
なんと言ったものか、とハークハイトが私の方を苦い顔をして見つめる。
「シロ、君がヤヤに持たせたあれはなんだ?」
「ハークハイトに、前に話したピコが作った薬」
「ピコとは誰だ?」
「そう言えば団長は知りませんでしたね。基地の裏庭に住み着いてる精霊の類ですよ」
「精霊!?」
精霊と聞いてぎょっとファーガス団長が眼を剥いた。
「シロ、ここにいるものはあの薬について他言しないと約束する。あの薬、具体的には何だ?」
「言ってもいいけど、もう一つ作れとか、どうやったらできるかとかそういうのもなしって約束して」
「わかった」
私は、ハークハイトの言葉にファーガス団長、ユーリ、ザビも頷いて了承してくれたのを確認した。
「あれは、六花の涙」
「六花の涙!? 伝説の秘薬ではないか! 実在したのか……!」
その単語にガタン! と立ち上がったファーガス団長は、頭を押さえまた席に着いた。
「ドルトディートの策略に嵌り、毒矢で討たれた私はシロを逃がすと同時に既に瀕死の状態でした。そこに、ヤヤがシロの薬を持って来たのです。このままではユーリまでも逃げ場を失い共倒れになるため、せめて一時の時間稼ぎをとその薬に縋ったのです。そして、その薬、つまり六花の涙はたちどころに毒を私の身体から消し去りました。ですが、同時に身体中の魔力が溢れかえり魔力を暴走させました」
そこからの話は、私が六花の涙をハークハイトに渡したことが原因だったので耳が痛かった。
魔力の暴走で放たれた威圧でドルトディートの下っ端メンバー全員を気絶させ、ロシュとビットもあと少しと言うところだったが、ハークハイトの身体が思う様に動かなくなってしまい、遠方にいたディケが援護に来たことで取り逃がした。
その後、魔力の暴走が止まらず、抑制剤を飲んでも魔力が垂れ流しになってしまい、おまけに私の涙と同じようにハークハイトがいるところからどんどん植物が育ち、歩く植物製造機になってしまったとか……。
それから、セオンにいるベルリナのところへユーリが行き、領地中の金環をレパルに集めてもらう様に連絡を取ったり、カスクの提案でスーロのところへ助言をもらいに行ったりと大変だったらしい。
薬草の手土産はハークハイトが無尽蔵に作り出したものをどうせならと私にとスーロに言われ採取してきたものらしい。
「ざっと説明するとこんなところです」
何があったか思い出すだけでげっそりしているハークハイトに、ユーリも苦笑いだ。
よくよく考えてみれば、毒を消すことに気を取られて万能薬と言われる六花の涙の副作用までは考えてなかった。
「なるほどな。だが、金環を付けているということは魔力は溢れ出しているままなのだな」
「そうです。これでも落ち着いた方ではありますが」
「お前、それで仕事できるのか?」
「それを相談したくてあなたを呼んだのですよ。道中知り合った上位種の梟によれば、変質した魔力が元の私の魔力の性質に戻るのか、私の身体が変質した魔力に対応していくのか、そのどちらでもないか、だそうです」
「お前さん、さらっと上位種の梟とか言うな。なんだその知り合い」
「シロと一緒にいると、この程度は日常茶飯事です。既に神獣二体との遭遇、魔狼との共同戦線、精霊や上位種との接触、慣れてください」
私を見るファーガス団長の顔が、隠しきれない程引き攣っている……。
私ってそんなに変なのかな?
「そんなわけで、この魔力をどうにかできまるで定期的に魔力を放出しないと金環が持ちませんから、城内の仕事はファーガス団長にお願いします。私は魔力を元に戻すか、抑える方法を探します」
「お、おい! 城内の仕事って、俺だって今手一杯なんだぞ!?」
「そもそも、なぜ騎士団基地で関係ない城内の警備やら城下の自警団との処理やらを私がやらねばならないのです。本来の姿に戻すだけです」
スッと目を細めるハークハイトにファーガス団長は言い返すこともできない。
「ところでお前、立花の涙を口にする以前と以後で魔力量はどれくらい変化してるんだ?」
「少なく見積もって十倍です」
「十倍!? お前、それ王族越してるんじゃねーか……?」
「だから困っているのですよ。王族を凌駕するほどの魔力量ともなれば目を付けられるのは時間の問題です」
「厄介だな」
魔力量が多いことでまた別の問題が浮上しているようだったけれど、質問したい気持ちはあったものの重たい室内の空気に私は黙っていた。
「この件、ルキ様には言ったのか?」
「まだです」
「あれは嬉々としてお前の状況を楽しむだろうな」
「それが面倒なのです。この状況であれを構ってる余裕など私にはありません」
「でも、たまには顔出してやれよ」
「そんなものは全てが落ち着いてからでいいでしょう。優先順位としては最下位です」
「お前ら、どっちもどっちだな……」
ルキ様……前にもその名を聞いた気がする。家に帰ってからハークハイトに聞いてみよう。
そうして、ハークハイトの現状を共有した会議は終わりを告げた。
結局、ハークハイトは容姿が変わってしまうことについてファーガス団長に話すことはなかった。
明日1章本編の最終話アップして、月曜から不在伴奏入ります…!




