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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第一部
9/30

隣の領地


らんらんらん、と鼻歌が自然に漏れる。


るんるんるん、と精霊達がついてくる。


裏庭の畑は、今日も豊作である。おイモに豆類、キャベツに似た葉物野菜。……種類を増やしたい。


小鳥達が花の種を運んできたのか、端には小さな野花まで。


ちいさく、可愛い、まるっとした──。


「……くえる花?」


じっと見詰めたら、花がびくっと震えたような。


(オナカ、コワス)

(イタイ、イタイ)


精霊達に止められた。


「残念」


畑の見回りに戻る。


らんらんらん。と厨房の出入口に帰って来ると、屋敷の表側で人の気配がした。


ならされた地面をパタパタ歩くのは、子供の足音だ。


「りょうちゅさまーっ、ごめんくださあい」


舌足らずな子供の呼びかけに、アリアーツェはテトテトと、玄関に向かった。


同時にパタパタと、二階から母親が降りてくる。


「あらあら、ちょっと待ってね。アリアーツェ、あなたもお出迎えかしら?」


「はぁい、母様」


何故なら、この声は。


「あっ……、こんにち、あっ? おはゅございます? アイアんテちゃまっ」


それは誰やと突っ込みたくなったが、アリアーツェは我慢する。口元がぷるぶるしてしまう。


玄関を開けると、お行儀よく待っていたのは可愛い少女だ。


くりっとした大きな藍色の瞳と、おさげに結んだ茶色の髪。


着古した生成りのワンピース姿の女の子。名前は……。


「おはよう、ございます、シャーネットちゃん」


だいぶゆっくりだが、噛まずに挨拶できた。嬉しくてにっこり笑いかけると、シャーネットもにっこりする。


「りょうしゅちゃまの、おくさまは、いますか?」


「はい、いますよ……母様」


横で上から見守っていた母親が、嬉しそうにしゃがみこむ。


「おはよう、シャーネットちゃん。今日はどうしたの? アリアーツェと遊んでくれるの?」


あ、母様。先に言ったら……。


アリアーツェは心配したが、大丈夫だった。シャーネットはゴソゴソとスカートのポケットを探り、小さな木片を取り出して見せてきた。


「となりまちに、踊り子さんがくるので、アリアーテちゃんをくださいっ」


「あらあら」


母親は笑って頬に手を添えているが、アリアーツェにはなんの事だが分からなかった。


コテンと首をかたむける。


シャーネットが見せてきた木片は、真ん中にグルグルと模様が描かれていた。外側に三つの出っ張りがある。


「これ、なあに?」


「踊り子さん? あまいの食べる!」


同い年なのに、意思疎通が難しい。


アリアーツェの手首をつかんで、グイグイ引っ張るシャーネットに連れられて、家の外へ。


「暗くなる前に帰るのよー?」


「母様ーっ?」


……いったいどこへ行くのかね。




シャーネットちゃんは、領民の家の、子供である。


アリアーツェより二つ月遅れで、五歳になった。


皇都の教会にも行ってきたらしく、ちゃんと祝福をもらえたので、お友達第一号になった。


洗練の義で、きちんと祝福を受けられないと、駄目なのだ。


生まれつき病弱だったり、悪いモノがついていると、その子供は教会に預けられる。


教会できちんと治れば親元に戻れるが──たまに戻ってこない子供もいる。


思い出すとイヤな気持ちになるので、アリアーツェは物思いから戻って、進行方向を見た。


てくてく、てくてく。


子供の足でも、かなり歩いた。シャーネットちゃんはたまにぴょんぴょん跳ねるので、つられてアリアーツェもぴょんぴょん跳ねる。


楽しいのだがだんだん疲れてきた。


「シャーネットちゃん、どこ行くのー?」


男爵領を、もうすぐ越えてしまう。


「となり!」


土を踏み固めた道の先に、簡易な木製の看板が刺さっている。


アリアーツェには文字は早いが、前世剣士には読めた──『これより先、センツィオ領也』。


その看板付近を、ウロウロしている怪しい老人。


白髪に、腰が曲がった老人は、アリアーツェ達を目にするとピタリと動きを止めた。


「アリアーツェ!」


ぴこんと、アリアーツェが跳ねる。


「おじじさまっ!」


鳩をくれる祖父だ。アリアーツェはぎゅうっと、老人に抱きついた。


シャーネットちゃんは、にこにこ見ている。


嬉しい気持ちが伝わって、離れていた精霊達が頭上でキラキラ。


「おう、おおう、可愛いのう。アリアーツェは大陸一の美人じゃのう」


「おはゅございます、となりのりょうちゅさま」


「シャーネットちゃんも可愛いぞ?」


おじじの両腕に二人で掴まって、センツィオ領に入った。


洗練の義を受けてから、祖父には挨拶に訪れている。優しい老人で、アリアーツェに甘い。


センツィオ領の領地も、センテ領と似たり寄ったりだが、唯一違う所が──。


商店街があるのだ。あと、狩人組合。


それから、町の真ん中に広場があって……アリアーツェが初めて見るモノがあった。


(これは……お立ち台!)


木製の板で組み上げた、頑丈そうな舞台が、ドーンと真ん中に設置されていた。


「おじじさま……これは?」


「流れの民が来ていてな、お祭りがあるぞ〜?」


「ながれの、たみ」


(まさか──)


予感がした。





別小説完結したため、やっと再開。


お待たせした方にはすみません……。



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