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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第一部
8/30

行商人

ツヤツヤとみずみずしい野菜が、籠いっぱいに採れた。


イモや豆も大きく育ち、食卓はかなり賑やかになった。


両親も喜んでくれたし、誉めてくれたし、領民が噂を聞いて畑を見にきたりした。


森に行きたいと言ったら、さすがにダメだといわれたが……。


(お肉……お肉も食べたい)


領地には狩人がいて、獲物がとれた時だけお肉が届く。丘の向こうに森があるのだ。鹿やイノシシ、ウサギなどがいるらしい。


両親は、まず領民を優先して均等に分けて、残りを受け取っている。食卓にお肉が出るのは、月に三、四回程度。あとは祖父がたまに、山鳩を譲ってくれる。


体力作りもこっそり始めた。薪に使う枯れ木を1本もらい、振り回す。──精霊達が面白がって、遊んでくれてると勘違いするが。


いつものように裏庭で、畑の世話をしつつ枝を振り回していると、精霊達がヒュンと集まってきた。


「ん?」


(ダレカキタ)

(キタ)


耳を済ますと、馬車の音と馬の嘶きが聞こえた。


しばらくすると母親が二階から降りて、玄関に向かう気配がした。お客だろうか。


トテトテと裏庭から厨房に戻り、手を洗う。ヒシャクもどきは父親に頼んで、なんとか作ってもらった。廃材を四角く箱型にあわせ、持ち手をつけただけだが、使い勝手が良いと家族には評判である。


「かわかしてー」

(イイヨ!)


風の精霊が濡れた手を、フウッと乾かす。


一階の右側に客間がある。トテトテと向かうと、ドアはあいていた。


「あら、アリアーツェ」


「おやおや! お嬢様ですかな」


泥色のウシガエルもどきがいた。


客間の二人掛けソファをひとりで使い、真っ赤な服を着ている。暑いのか汗を拭きながら、重そうに立ち上がってアリアーツェを覗き込む。


(うっ……)


「行商人のザツカルさんよ」


母親が平然と紹介してきて、なぜカエルが喋ってるのかと混乱したが、よく見るとちゃんと手足は人間のものだった。


「ザツカルと申します。アリアーツェお嬢様ですかな。お噂はよく聞いております」


頭を下げられては挨拶しない訳にはいかない。アリアーツェはひきつりそうになりながら、なんとか挨拶を返した。


「アリアーツェといいます……」


「まだ幼いのに、ご夫人に似てお美しいですなぁ」


ギョロリと顔を眺められ、怖気が走った。


「まあ、ありがとう。アリアーツェ、お部屋にいてね。母様はザツカルさんと、お話があるから」


「はい。しつれいします」


ドアは開けたまま、自分の部屋に急ぎ足で戻った。変なものを見たからか、変な汗をかいている。


(カエル人間がいたのか……知らなかった)


行商人ということは、商人のはずだが、男爵家には挨拶に来たのだろうか。商売だろうか。母親ひとりで相手をして大丈夫だろうか。とても心配である。


「うー……気になる! 風さん、会話だけひろえる?」


(イイヨ!)


自室のドアをちょっとだけ開けて、精霊にお願いした。


ガサガサと、荷物をいじる音がした。


『──らが、いつもの塩ですな。ちょっと単価が上がってるもんで、700デアしますわ。最近北の辺りが不作続きでしてな、いろんな物が値上がりしとります。頭の痛いことで……』


『そうですか。……いつもの二倍買いますから、1300になりませんか?』


『おっ……むむ、そうですなぁ……』



どうやら、商品を売るために訪れたようである。母親がちゃんと値切りしてることに感心しながら、アリアーツェは安堵の表情を浮かべた。


必需品を買う以外に、余っている薪を売るようだ。


『男爵さまにお会いできないのは残念ですが、今日の所はこれでお暇します。良い商談をありがとうございました、奥様』


『いえ、また次回にお願いします』


廊下に出る音と、玄関まで向かう気配。


『おっと、忘れる所でした。お嬢様の婚約祝いに──こちらをどうぞ』


『え……』


『では、失礼します』


なんだろう……母親が戸惑っている。


玄関のドアが閉まる音がしたので、アリアーツェは一階に急いだ。玄関のドアの前で、母親が困り顔で手の中のものを見ている。


「母さま? お客さま、かえったの?」


「え、ええ……」


「? なあに? それ……」


母親の手のひらに収まる小さな何かを、アリアーツェは横から覗き込む。


緑色の布を四角く巻いて、小さな紐がついた──。


(え──)


ドクンと心臓が跳ねた。




『御守り?』

『そうそう。故郷の──家族が無事に帰ってきますように──』





遠く記憶の会話がきしみ、歪む。






コレは前世の剣士のモノ。

ナゼココに?







「アリアーツェ?」


くらりと目眩に襲われる。


それから視線をそらし、なんとか息をする。


「……かあさま、これ……」


「ザツカルさんが、あなたにって。何かしらこれ?」


「……」


目の前に差し出されたソレを、なかなか受け取る事が出来なかった。






(あの商人は、何だ?)


疑念は黒い雲のように。




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