畑をきれいに
プチプチと雑草を引っこ抜く。手が小さいのでいっぱい取れない。小さな雑草の山ができた頃、厨房のドアが開いた。
「アリアーツェさま……あらあら?」
「あらあら」
「おやおや」
雑草を無心に引っこ抜く五歳児に、メイドと両親はびっくりしたものの、可愛いとばかりに微笑む。
「朝ごはんですよ。さあ、手を洗いましょうか」
ひょいと後ろから抱きかかえられ、厨房に運ばれた。水を貯めた桶から手ですくい、水をかけてもらう。
ヒシャクが欲しい……いや水道が。
前前世の一般人がつぶやくのに内心うなずきながら、食堂に手を引かれていく。
一階の左奥、長い八人掛けのテーブルと、椅子。ちょっと床が擦り切れ、モスグリーンの壁紙がはがれたりしているが、明るくて落ち着く食堂だ。
ただしシャンデリアは明かり石が切れているため、夜はロウソクを使う。
両親とアリアーツェが席につくと、マーサが朝食を運んできてくれる。
「精霊達に、今日の恵みを感謝します」
「感謝します」
「感謝します…」
返事をするかのように、キラキラ達がさざめいた。
豆のスープ。おイモのポテトサラダ? 野菜の……切れ端? の炒めもの。少なめな朝食を家族でありがたくいただく。
しっかり噛んで食べ終えて、父親は領地の見回りに、母親は繕いものを始める。マーサは厨房を片付けたあと、自分の家にいったん戻る。男爵家から歩いて15分くらいの場所に、領民の家があるのだ。夕方頃、また夕食を作りに来てくれる。
アリアーツェはとくに、すべきことはない。庭で遊ぶか、部屋で遊ぶか……本来は勉強すべきなのだろうが。
センテ男爵家には、本がなかった。家系や、簡単な領地の出来事を記載した木製の板はある。が、紙で作られた本はない。
可能なら、大陸が現在どういう状況になっているのか知りたい所だが、辺境の男爵家では情報が入ってくるかどうか……皇帝の公布は言伝で、兵士がわざわざ皇都からやってきたが……難しいだろう。
とりあえず、草取りをしようと、アリアーツェは裏庭へと向かった。
プチプチ、プチプチ。根気よく畑の雑草を抜いていたが、先に手のひらが痛み出してしまった。
(これは……終わらない)
裏庭はけっこう広い。喉が乾くし手は痛いし、五歳児の身体にはきついようだ。
(まいったな……)
体力のなさに泣きたくなってくる。
畑を綺麗にして、作物がちゃんと育つようにして、できれば狩りにも行きたいし、体力作りもしたい。
早く大人になって独立したい。
でないと──。
「アイツと結婚……」
プチプチブチッ!
皇帝からの公布を告げられた時、両親はたいそう驚いたが、アリアーツェが成人してからで良いと言ってくれた。
成人するまでは婚約者として、領地で過ごして良いし、いつでも皇都に来て良いと、皇帝からの有難いお言葉も伝えられた。
つまり、自由な時間はアリアーツェが成人する、14歳まで。
「……敵国に転生とか……ヤバすぎるだろ……っ」
絶対に逃げなければ。
そのためには。
「うーん……草取り簡単にできないかな? 耕した方が早いか?」
疲れてきたのでいったん止めて、立ち上がったアリアーツェの周りに、精霊達が集まってくる。
(テガヨゴレテル……キレイニシテアゲル!)
(タガヤス? タガヤス!)
(オテツダイ!)
「ん?」
裏庭に風が吹いた。
土がボコボコと盛り上がり、風が器用に雑草と作物を分けて、きれいに埋め直していく。
パラパラと雨が降り、水やりも完璧だ。
あっという間に整然とした畑になった。
「え…………えっ?」
土で汚れていた少女の手も、水滴達がきれいにしていった。
(すごい! なに今の──精霊達が?)
圧倒されていると、精霊達が自慢げにクルクルしはじめる。アリアーツェも嬉しくなって、飛び跳ねた。
「ありがとうっ。助かる!」
(ドウイタシマシテ──)
この日から、畑の世話はアリアーツェの仕事となったのだった。




