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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第一部
7/30

畑をきれいに

プチプチと雑草を引っこ抜く。手が小さいのでいっぱい取れない。小さな雑草の山ができた頃、厨房のドアが開いた。


「アリアーツェさま……あらあら?」


「あらあら」


「おやおや」


雑草を無心に引っこ抜く五歳児に、メイドと両親はびっくりしたものの、可愛いとばかりに微笑む。


「朝ごはんですよ。さあ、手を洗いましょうか」


ひょいと後ろから抱きかかえられ、厨房に運ばれた。水を貯めた桶から手ですくい、水をかけてもらう。


ヒシャクが欲しい……いや水道が。


前前世の一般人がつぶやくのに内心うなずきながら、食堂に手を引かれていく。


一階の左奥、長い八人掛けのテーブルと、椅子。ちょっと床が擦り切れ、モスグリーンの壁紙がはがれたりしているが、明るくて落ち着く食堂だ。


ただしシャンデリアは明かり石が切れているため、夜はロウソクを使う。


両親とアリアーツェが席につくと、マーサが朝食を運んできてくれる。


「精霊達に、今日の恵みを感謝します」


「感謝します」


「感謝します…」


返事をするかのように、キラキラ達がさざめいた。


豆のスープ。おイモのポテトサラダ? 野菜の……切れ端? の炒めもの。少なめな朝食を家族でありがたくいただく。


しっかり噛んで食べ終えて、父親は領地の見回りに、母親は繕いものを始める。マーサは厨房を片付けたあと、自分の家にいったん戻る。男爵家から歩いて15分くらいの場所に、領民の家があるのだ。夕方頃、また夕食を作りに来てくれる。


アリアーツェはとくに、すべきことはない。庭で遊ぶか、部屋で遊ぶか……本来は勉強すべきなのだろうが。


センテ男爵家には、本がなかった。家系や、簡単な領地の出来事を記載した木製の板はある。が、紙で作られた本はない。


可能なら、大陸が現在どういう状況になっているのか知りたい所だが、辺境の男爵家では情報が入ってくるかどうか……皇帝の公布は言伝で、兵士がわざわざ皇都からやってきたが……難しいだろう。


とりあえず、草取りをしようと、アリアーツェは裏庭へと向かった。




プチプチ、プチプチ。根気よく畑の雑草を抜いていたが、先に手のひらが痛み出してしまった。


(これは……終わらない)


裏庭はけっこう広い。喉が乾くし手は痛いし、五歳児の身体にはきついようだ。


(まいったな……)


体力のなさに泣きたくなってくる。


畑を綺麗にして、作物がちゃんと育つようにして、できれば狩りにも行きたいし、体力作りもしたい。


早く大人になって独立したい。


でないと──。


「アイツと結婚……」


プチプチブチッ!


皇帝からの公布を告げられた時、両親はたいそう驚いたが、アリアーツェが成人してからで良いと言ってくれた。


成人するまでは婚約者として、領地で過ごして良いし、いつでも皇都に来て良いと、皇帝からの有難いお言葉も伝えられた。


つまり、自由な時間はアリアーツェが成人する、14歳まで。


「……敵国に転生とか……ヤバすぎるだろ……っ」


絶対に逃げなければ。


そのためには。


「うーん……草取り簡単にできないかな? 耕した方が早いか?」


疲れてきたのでいったん止めて、立ち上がったアリアーツェの周りに、精霊達が集まってくる。


(テガヨゴレテル……キレイニシテアゲル!)

(タガヤス? タガヤス!)

(オテツダイ!)


「ん?」


裏庭に風が吹いた。


土がボコボコと盛り上がり、風が器用に雑草と作物を分けて、きれいに埋め直していく。


パラパラと雨が降り、水やりも完璧だ。


あっという間に整然とした畑になった。


「え…………えっ?」


土で汚れていた少女の手も、水滴達がきれいにしていった。


(すごい! なに今の──精霊達が?)


圧倒されていると、精霊達が自慢げにクルクルしはじめる。アリアーツェも嬉しくなって、飛び跳ねた。


「ありがとうっ。助かる!」


(ドウイタシマシテ──)


この日から、畑の世話はアリアーツェの仕事となったのだった。





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