男爵家の庭
アリアーツェの一日は、空腹から始まる。お腹が空いて、目が覚めるのだ。
「う……おはよう……みんな」
光と風と水滴達が、はしゃいで挨拶を返してくれる。
五歳になったお祝いに、ひとり部屋をもらえた。
母親と父親は一緒の部屋で、その隣がアリアーツェの部屋になる。
床一面に敷く絨毯はなく、ベッドの足元にマット程度の布が置かれている。使わない部屋のカーテンを綺麗に切り取ったらしい。おしゃれなシマシマ模様である。
この世界にスリッパはないのか、マットの上にきちんと揃えて置いた、ショートブーツを履く。
夜着を脱ぎ、タンス(とは名ばかりの、長持を横に立てた)から今日の服を取り出す。
淡いベージュのシンプルなワンピースだ。ヒダで模様を作り、胸元に木製のボタンがついた、可愛いめの。
布団をきれいに直して、部屋を出る。
もうすぐ初夏をむかえる男爵領は、ちょっと蒸し暑い。
テトテトと廊下を進み、一階につながる階段手前まで来て、ふんわり匂ってきた香りにお腹の精霊がぐー、とうなった。
お腹の虫ではなく、この世界では精霊だ。
子供にはちょっと降りづらい階段を慎重に降りて、一階に辿り着く。
(今日の朝ごはんも、豆のスープとおイモかな)
厨房を覗いてみようとドアを開けると、エプロン姿の年配の女性が、鍋を掻き回していた。
テトテト、と近づく。
「おはよう、マーサ」
「あら、おはようございます、お嬢様」
マーサは、両親が男爵を受け継いだ時から雇われている唯一のメイドだ。センテ男爵家には彼女ひとりしか仕えていない。
「お庭にいってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
勝手にいなくなると両親が心配するので、念の為メイドに伝えて、屋敷のドアに──向かわずに、厨房のドアを開ける。
センテ男爵家で庭と言ったら、屋敷の正面ではなく裏庭だ。ちょっとした畑があるのだ。今朝の目的は、庭の調査であった。
適当に廃材の柵で囲われた、雑然とした畑が見渡せた。雑草ばかりかと思われたが、ちょこちょこと野菜や、芋が植わっている。あまりにも雑然と。
(うわぁ……)
昨夜、アリアーツェはふと疑問に思ったのだ。なんで野菜がちょっとしかできないのか、たまに虫食いがあるのか。両親に尋ねたら、ちょっとしか育たないのだと答えてくれたが。
これは、改善の余地あり。
アリアーツェは、ふんすと腕まくりをした。




