公布
帝国第二皇子、カイル・アーデリシアは青銀のくせっ毛を短く切りそろえ、空色の瞳をした気品ある青年だった。
優雅に名乗り、アリアーツェににっこり微笑む。
対して、黒髪に碧眼の無表情な美丈夫は隙なく騎士服を着込み、腰に長剣をさげている。ドア横の壁際に立ったまま、名乗りもしない愛想の無さ。
鋼のような体躯の騎士の名はジークリス・ティオーム。若くして近衛騎士団の副隊長であり、カイルの側近である。
(記憶より……歳をとっている……)
両親が慌てて立ち上がり、二人に礼を取る。アリアーツェもつられて椅子から降りたが、なるべく床を見た。
心臓がうるさい。強い緊張と不安で口から出てきそうだ。この二人のことを、前世の剣士はよく知っていた──
何せ、幾度となく殺し合った仲だ。
父親が男爵とはいえ、常に武器を持たない人物で助かった。もしいま手が届く場所に剣があれば。
「……なので、どうかな? ……アリアーツェ殿?」
はっと我に返る。つい顔をあげて、空色の眼差しと見合ってしまった。
全く、途中から会話を聞いていなかった。焦って母親と父親を見上げると。
「しばらく、皇都で過ごさないかと……カイル殿下が」
「えっ」
なんで? と首をかしげる。
「せんれんのぎ、は、終わって……るの、に?」
少女らしい可愛い声が出る。当たり前だが、前世を思い出した今は微妙な気分だ。
両親は困り顔で応えあぐね、カイル殿下はただ微笑む。
「アリアーツェ殿は皇都は初めてでしょう? 美味しいお菓子の店や、可愛い人形のお店がありますよ?」
お菓子という言葉にびくっと体が反応したが、決死の想いで抵抗した。首をふるふると、横に振る。
「アリアーツェはおうちに帰ります……です。あまいかんげんにはだまされません」
「あらあら、アリアーツェったらどこでそんなセリフを──」
母親がふわりと抱き上げて頬をくっつける。五歳のアリアーツェはキャッキャと母親にしがみつく。
周りを囲む精霊達も、クルクルと激しく踊る。
精霊がそばにいる限り、家族以外は近寄れない──……無理強いもできないだろう。
予想的中で、カイル殿下と無言な騎士は大人しく帰っていった。
教会の司祭達に見送られ、皇都の住民達に歓声をあげられながら、アリアーツェと両親は帰路についた。
帰りの道中もすこぶる平和に、何事もなく我が家に帰ってこれて安堵したアリアーツェだったが。
男爵領に戻った途端に、ある知らせが帝国中に公布されて、血の気がひいた。
『 アリアーツェ・センテ男爵令嬢を、第二皇子カイル・アーデリシアの妻に。
さらに聖女を護る騎士として、聖騎士団を擁立、隊長は帝国の英雄、ジークリス・ティオームとする──。』
アリアーツェ、わずか五歳にして、平和で穏やかな生活が消え去った瞬間であった。




