おじじとおばば
暗闇の中にあやしく輝く丸い……水晶の。のろいか祝福か、分からない言葉をつぶやく、老女の窪んだ眼窩。
脳裏に切れ込みが入ったような、細切れの場面が浮かび上がる。
『お前さん、殺されるよ──……にね』
『嘘だ。有り得ない!』
そうだ。有り得なかった。
信頼していたの、に。予言の通りになった……。
心臓がイタイ。
ぎゅうっと両目をつぶる。
「……で、お昼はウチでとるといい。シャーネットちゃんも、おいで」
「はーい! 行こー、アリアーテちゃん」
元気よく、シャーネットに引っ張られる。慌てて、足を動かした。
小さいが、便利そうな雑貨が売っている雑貨屋。
生地や古着を売っている服屋。
新鮮な野菜を売っている野菜屋。
金物や道具を売っている道具屋。
町の人達は、貧しくとも清潔にしていて、みな笑顔だ。中には領主の祖父に声を掛けてくる者達も。
(……よい、領地なんだなぁ)
アリアーツェが聖女だと、第二皇子と婚約した事も公布されたはずだが、変な目は向けられない。
あくまで、領主の孫として見ているのが分かる。
平和な町の様子を感じ取りながら、おじじの館に着く。
アリアーツェのお家より、ちょっと大きい。
一階の応接間に通された。
「流れの民が始めるのは、夕方だ。それまで、ウチにいなさい」
「はあい」
「はーい」
少女二人の頭を撫でて、おじじはメイドさんを呼ぶ。
センツィオ領のメイドさんは、三十代くらいのそばかすの女性だ。子供の相手も嫌がらずにしてくれる。
「あああ可愛いい……っ。何か飲みます? トイレは大丈夫です?」
「だいじょうぶ、です」
「お水、ください」
「すぐに持ってきますっ」
ドタバタと走って行った。
待ってる間に、祖母がひょっこり顔を出す。
「あら、あら、可愛いお嬢さんが二人も。こんにちは」
アリアーツェとシャーネットは、ソファから降りて、祖母に駆け寄る。
「こんにちはっ、おばばさまっ」
「こんにちはーっ」
「ちゃんとご挨拶できて良い子ねぇ。良い子には、いいモノがあるわよ?」
胸元に隠すように握っていたのは、あまり布で作った巾着だった。
淡い紫色の糸で塗ったものと、黒い糸で塗ったものと。通し紐は動物の皮だ。
子供の手でもちゃんと開け閉めできるし、紐は肩に掛けられる長さだった。
「わあ……っ、ありがとう、おばばさまっ!」
「ありがとう、ございます!」
巾着の中に、ちいさく硬いモノが。
取り出して見ると、見覚えのない硬貨だった。
黒と灰色の混ざった、楕円形。稲のような植物と、鎧の騎士の姿が。おそらく鋳造だ。
「お店で使えるから、好きなおやつを買いなさいな」
初、お小遣いである。もちろん嬉しくて、いっぱいありがとうを言った。
メイドさんがお水を運んできて、しばし4人でお喋りである。
「畑のねー、お花も美味しそうだったの!」
「お花はかわいそうだから、食べないであげてね」
「はぁい」
シャーネットは聞くだけで楽しいのか、にこにこしてアリアーツェを見詰めている。二人とも、もらったばかりのポシェットを、大事に胸元に抱えていた。
楽しくお喋りしていたら、あっという間にお昼である。
一階の食堂に案内された。既にテーブルの上に用意されていた料理を見て、アリアーツェは衝撃を受けた。
パン。
ふっくらと焼きあがったばかりの、パンが。お皿に一つずつ。なんとも香ばしい香りが鼻をくすぐった。
あとは、野菜に玉子料理、燻製肉。お肉がある! それも大事だが!
「お……おばばさま……これ」
「あら? パンははじめて? お祭りだから今日は特別なの。小麦は高くてねぇ。年に数回しか食べられないのよ」
「……!」
(どうりで、豆とイモしか出ないワケだ!)
おじじとおばばに挟まれる席で、椅子に厚めのクッションを乗せてもらい、アリアーツェはお昼を頂いた。
大きさは子供の握り拳くらいしかないが、立派なパン。
まだかすかに暖かく、噛みちぎるのが大変だったが、パンはパンだ。
(おおお……美味しーい)
シャーネットちゃんもびっくりしていたが、向かいの席でメイドさんに助けられつつ、食べている。
大人達は始終にこやかに、少女二人の嬉しい反応を眺めていた。
お昼でお腹がいっぱいになると、次はお昼寝だ。
これは大人も、子供も一緒にである。
「おじじと寝る? それとも、おばば?」
シャーネットちゃんと相談だ。
こしょこしょと、二人で内緒話をする。
「ん〜? え〜っとね」
チラッと振り返ると、おじじとおばばが緊張して待っている。
「……おばばさま?」
「まあまあ、おほほ。じゃあ二人ともいらっしゃい」
「ぬぬう……」
おじじは悔しそうに、部屋を出て行った。
なお、居間のソファをくっつけて、そこに寝っ転がった。
おやすみなさい……。
(つ∀-)オヤスミー




