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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第一部
11/30

お祭り



ゆさゆさ。ゆさゆさ。


軽く肩を揺すぶられ、アリアーツェはうっすらと目を開けた。


吸い込まれそうな夕空の瞳に、覗き込まれている。


(きれい)


「アリアーテちゃん? 起きて?」


「……!」


遅れて、意識が覚醒。目が覚める。


熟睡してしまった。


おばばさまはもう起きて、髪を整えている。


「あらあら、おはよう、アリアーツェ」


「おばばさま……おはようございます」


「アリアーテちゃん、おはよ!」


「おはよう、シャーネットちゃん」


ずいっと顔を近付けて、にっこり笑うシャーネットちゃんは、元気いっぱいにソファから降りる。


「行こうお祭り! はやくはやく」


「まってー」


起き抜けだからか、体がふわふわする。そーっと床に降りて、手をにぎにぎ。


「一緒に行くから、少し待ってね。シャーネットちゃん」


「う……はーい」


今にも外に飛び出しそう。そんなシャーネットちゃんを、おばばは優しくさとす。


窓の外は、空が暗くなり紺色だ。遠くの端っこだけオレンジ色。


(逢魔が時)


ふと呟いたのは、前前世の。どんな意味か、剣士が理解して気を引き締めろと言う。うんでも、五歳の幼児にはちょっと。


初夏とはいえ、夜は少し冷える。メイドさんが、子供用のポンチョみたいな上着を羽織らせてくれる。フードをかぶれば、小さなテルテル坊主。


お祭りには、おじじとおばばも一緒に行くらしい。


みんなの準備を待って、さあお出かけだ!


センツィオ領の町の様子が、昼間とはガラリと変わっていた。


広場に灯りを灯す松明がいくつも置かれて、街をねり歩く人々を、あやしく照らし出す。


珍しいような、懐かしいような、不思議な音楽が流れてくる。色んな匂いもした。野菜を焼く匂い。お肉を焼く匂い。


お肉を焼いて売っている出店があった。大人気らしく、人だかりで見えない。


まずは、舞台の方に行くらしい。アリアーツェはおじじに。シャーネットちゃんはおばばに手を握られて、人混みの中を進んだ。


あちこちから、領主さま、奥様、と声がかかる。


踊り子さんの姿が見えた。もう、踊りは始まっていたらしい。


領主夫妻が舞台前にたどり着いた時、シャンッ、と澄んだ音が鳴った。


踊り子達が、足首に付けている足輪の鈴だ。日焼けした、長い素足を天に向けてのばし、妖艶な肢体を惜しげも無くさらし、ゆったりと踊りが始まった。


衣装やメイクが派手だ。胸もお尻も半分しか、隠していない。ただ、踊りが堂々としていて、やらしさを感じないのが不思議だ。


手足を伸ばし、回転し、頭を振る。舞台を移動しながら、時には激しく、静かに。


シャンシャン、と鈴が鳴る。


その度に不思議な香りが振りまかれ、踊りに魅了される。


流れの民が踊るのは、こうして町で稼ぐためでもある。


でも本当は──。




『邪気を、祓う、ために踊るのよ』


『踊ることで、精霊に交渉する』


『家族や、友人が、すこやかに暮らせますように──』




シャラン……。


空中にすがるように片手を伸ばし、切なそうな表情を残し、踊り子さんは一礼。


わっ、と見物客達が拍手する。


入れ替わるように、三人の踊り子さんが舞台に飛び乗った。みんな若い。


さっきより、明るく軽快な音楽が奏でられ、楽しそうにみんなが見ている。


「……」


舞台から降りた踊り子さんが、なぜかちらりとアリアーツェを見た気がした。




流れの民は、踊りや歌の披露以外にも、健康相談や、悩み相談をしてくれる。


広場の隅に小さなテントが張られ、何人か並んでいた。


「恋の相談も、してくれるわよー」


「こい」


「?」


おばばは茶目っ気を出して片目をつぶったが、こちらはまだ五歳だ。さすがにはや。


「シャーネットはならぶ! そーだん!」


「あらあら? じゃあ並びましょうか」


おじじはお腹が空いたのか、出店の方を気にしている。


「アリアーツェは、お肉が食べたいです、おじじさま」


「ん? そーかそーか! じじと一緒に買いに行こうか」


相談組みと、出店組みで、いったん別れた。広場の見える範囲なため、問題はないのだろう。


シャーネットちゃんはおばばと手をつないで、列に並んだ。


ばいばいと手を振って、アリアーツェはおじじと歩く。


だいぶ空が暗くなり、かがり火の灯りでしか周りが見えない。


だが不思議と真っ暗闇はなく、かすかに星あかりが足元を照らしてくれる。


精霊達は夜は静かになる。いまはアリアーツェの髪に潜り込み、ホタルのように明滅している。


お肉の出店は大人気だった。丸焼きしていて、いい匂いがみんなの鼻を刺激する。


子供は大概親に手をつながれ、落ち着きなくソワソワだ。


アリアーツェは、空いている片手で、自分の口を抑えた。美味しそうすぎて、口が開いてしまうから。


(お肉〜お肉〜っ、母様と、父様ごめんなさい。アリアーツェは美味しいお肉を食べますっ)


せめて、お家に帰ったら、どれだけ美味しかったか説明しよう。ごくり。


とうとう、アリアーツェ達の順番が回ってきた。出店のおじさんも、流れの民だ。不思議な衣装と、頭にターバンみたいな布を巻き付けている。


ぎろりと黒い眼差しが向けられた。


「三人分、頼むよ」


「……はい」


ナイフみたいな刃物で、火が通った部分が切り落とされる。木片を薄く切ったカップみたいな入れ物に、たくさん入れてくれる。


木の串を三本刺し、最後にソースのような物をかけ、おじじが硬貨を払い、列から離れた。


どこで食べるのか、アリアーツェはキョロキョロと辺りを見回した。


広場はどこもいっぱいなようで、舞台から離れた端なら少し空いているようだ。


「いったん、テントの方に戻るぞ」


はやく食べたい。だがワガママは言えず、大人しくうなずいた。


(三人分ということは、アリアーツェがふたりぶん!? おじじ優しい! 太っ腹!)


期待を込めてお肉を見詰めたからか、苦笑しておじじが注意した。


「夜ご飯が入らなくなるから、シャーネットちゃんと半分こしなさい」


アリアーツェは、があんとおじじを見上げた。











(゜ロ゜)



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