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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第一部
12/30

相談事


(オレの──わたしの──お肉……!)


こんなに、悲しいことが起こるのか。


ショックを受けたまま手をひかれ、テントの近くに戻ってきた。


シャーネットちゃんとおばばは、ちょうど次が順番のようだ。


「アリアーテちゃん!」


「シャー……シャーネットちゃん……っ」


真っ先にシャーネットが手を差し出してきて、反射的につかまると、ぎゅうっと引っ張られた。


「あら?」


「お肉は買えたから、ワシは外で待っておるぞ」


そう言って、おじじはテントの横に行く。


同じように家族待ちをしている男性達が、ヒマそうに飲んだり食べたりしていた。


シャーネットに、しっかり手を握り込まれ、追いかけられない。


(なんという罠……)


相談は、一組ずつが時間のかかるものらしい。待っている間も、みなお喋りしているので、楽しそうではあるが。


お肉がさらに遠のきそうだ。アリアーツェは断腸の思いでこらえた。


(よいこ……アリアーツェは良い子なの。お肉はあとで)


はあ、と切ないため息をついて、シャーネットの方を振り向く。


ウキウキした表情を浮かべて、ワクワクと順番を待つ。そんなに何か、相談事があるのだろうか?


やがて、テントから前の組が出てきた。男女のカップルらしく手をつなぎ、睦まじく微笑みながら去って行く。幸せそうだ。


シャーネットの期待度が、グンと上がったのが何故か分かった。


ドギマギしながら、三人でテント内に入る。


「ようこそ~。おひとり30デアですよ」


入り口に狭い部屋が区切られ、壺を持ったお姉さんが料金を告げる。


「はい、お願いしますね」


相談料は、おばばが出してくれた。ポシェットを慌てて持ち上げたが、頭を撫でられ前に進む。


もう1枚、カーテンをくぐると、様相がガラリと変わった。


綺麗な水色のカーテンが、ドレープたっぷりにテント内を飾り、所々さがる飾り石が、チカチカ光る。


奥には横長の細いテーブルに両手を乗せて、頭から布を巻き付けた女性が目元だけをさらし、頭を下げた。


テーブル前には長椅子。どうやらここに座り、対面式で話すようだ。


「アリアーテちゃん、まんなかね」


「えっ」


「まあまあ」


反論するヒマもなく、真ん中に座らされる。


「ようこそ、お客人。我ら流れの民は、精霊のお力を借りて、貴方がたの悩みを解く、お手伝いを……」


まだ若いらしく、少し緊張しているようだ。


(若い……違うな)


シャーネットがキラキラした目で見上げ、アリアーツェがドギマギして心配そうに見ていると、ようやく肩から力を抜いて微笑んだ。


「ご相談事は、なんでしょう?」


「はいっ」


シャーネットが、元気よく椅子の上で跳ねた。


「アリアーテちゃんと、ずっとおともだちでいたいですっ!」


「!」


「あらあら」


思ってもみなかった相談事に、アリアーツェは胸がきゅうっとなった。慌てて胸を押さえる。ほっぺが熱い。


お姉さんも、ぱちくりした後、にっこり笑った。目元だけでも、表情は伝わる。


「わかりました。では精霊に、聞いてみましょうか」


「はいっ」


お姉さんは両手を胸元で組み、お祈りをはじめる。


ひやりと空気が変わり、風の精霊がわずかに集まるのが見えた。


テント内の布がはためき、飾り石がチャリチャリと鳴り響く。


わあっとシャーネットとおばばが驚き、アリアーツェも目を丸くした。


風に色んな色がついたり消えたりして、迷っているように見えたのだ。


お姉さんも難しそうに眉根を寄せ、ちょっと頭を揺らした。


「……お嬢さん」


「はいっ」


「困難がありますが……あきらめず、信じて待てば、ずっとおともだちでいられます……相手を信じてください」


シャーネットは真剣な面持ちでこくんとうなずいた。


「はいっ。信じてまつ……です」


「シャーネットちゃん……」


何を信じて待つのだろう? あやふやな言葉なのに、五歳の彼女に伝わったのだろうか。


心配な気持ちでシャーネットを見詰めていると、おばばに頭を撫でられた。


「まぁ、良かったわね」


「ご婦人は何かありますか?」


「私は、可愛い孫の花嫁姿を見たいわねぇ」


アリアーツェはギョッとした。


「わかりました」


お姉さんはまた、お祈りをする。再び風が迷ったようにカーテンを揺らす。さっきより、もっと難しそうだ。


お姉さんの風は、アリアーツェの風とは違うため、意思疎通は出来ない。


「……っ、花嫁姿は……む……」


アリアーツェの花嫁姿って、それは、あの第二皇子に嫁いだとしたら、か。


想像するのもイヤだ。というか、絶対イヤだ。断固拒否をする……!


ぎゅうっとスカートを握りしめ、ついお姉さんのことを睨んでいたら、ふっ……と風が止まった。


ぱたりとお姉さんがテーブルに突っ伏した。


あれ……?


「あらあら?」


「?」


どうしたんだろう? 困っていたら、お姉さんがよろりと身を起こした。顔色が悪いような。


「……っ、す、すみません……っ、花嫁姿……は……!」


「花嫁姿は……?」


おばばが真剣な目を向け、お姉さんはつらそうに答えた。


「……分かりません」


「……まぁ」


お姉さんは謝っていたが、おばばは残念そうにしながらも、アリアーツェの頭を何度も撫でていた。


「さあ、あとは……お嬢さんですよ」


お姉さんの体調が悪そうなのだが、大丈夫なのだろうか。


心配になったが、後がつかえている事を思い出す。


「うーん」


何か、相談事があったかな?


首をひねっていたら、横からずいっとシャーネットが顔を出した。


「こいを……アリアーテちゃんの、こいは……?」


えっ。それを聞くの?


「こい……恋ですねっ、それなら」


ぐったりしていたお姉さんがすぐさま復活し、またお祈り姿勢をとった。


飾り石達が、賑やかに鳴った。音の鳴り方が、どことなく風鈴に似て聴こえる……。


ぱちっと、お姉さんが目を見開き、アリアーツェを見詰めた。


「素直になりましょう! そうすれば素敵な恋ができます……!」


「は、はい」


恋愛相談が好きなのかもしれない。お姉さんはとっても元気になっている。


アリアーツェは身を引きながら、こくこくうなずいた。


「終わりです! ありがとうございました〜」







「たのしかった〜」


「そう? 良かったわ〜」


「……」


三人でテントから出ると、次の人達が入って行った。


騒がしい音と、色んな匂いが戻る。


おじじが手を振りながら、合流する。


「そろそろ、帰るかのぅ」


「そうですわねぇ」


夜はまだこれから。大人達はまだまだ祭りを楽しむ時間だが、小さな子供は疲れやすい。


おじじとおばばに手を引かれて、アリアーツェ達は館へと帰っていく。


仲良いその姿を、テントの陰から見送る者がいた……。






お肉は帰ってから、食べれました。

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