狩人
狩人組合。
大陸の歴史上、始まりはかなり古い。
初期は、村ごとの小さな狩人同士の取引から始まって──今では独自の力と、所属人数を誇っている。
帝国が大陸統一を果たす前は、国には関与しない独立組織だったが、統一後はそうもいかなくなった。
組織のトップが下ったのだ。
自動的に、狩人組合──通称ギルドは、冒険者組合と名称を直し、帝国下の民間組織となった。
ただ、仕事内容は変わらない。地域に出没する危険な獣の排除、または狩りの成果の売買。
個人的な護衛依頼や、様々な問題解決。
優秀なギルド員にはランク付けがされ、最高ランクはS。
そして現在、最高ランクに指定されている者は──。
視線を感じた。
センツィオ領から、センテ領へ帰る道すがら。
シャーネットは道端のお花を一生懸命摘んでいる。お土産買うのを忘れたため、お花を代わりにしよう! と言い出した。
アリアーツェも、両親へのお土産を忘れた。
お花もいいが、食べれる物がないか、辺りを見回して──。
(……見られてる)
姿も、方向も分からないが。
拳大の、石をひろう。
ポイッと林の奥に投げる。
(精霊さん、なにかいる?)
石の下に、ダンゴムシみたいなヤツが。
むむむと見詰める。
さすがに虫のお土産はないだろうか。それとも両親なら、お皿に飾るだろうか。悩ましい。
(イルヨー、カリウド!)
(カリウドイル。ジットシテル)
(狩人!?)
狩りの最中なのか? こんな領地の間の道のそばで?
チリチリと後ろ首にひりつくような。
ゾワゾワする。
「シャーネットちゃんっ、はやく、帰ろっ?」
たまらずに、シャーネットを呼ぶ。夕空色の瞳がきょとんとした後、ニパッと笑う。
「うんっ、かえろー」
たたっと駆け出したはいいが、逆走だ。
「シャー、ネットちゃんっ! お家はあっちー」
センツィオ領の看板付近まで、おじじか見送りしてくれた。下手すると、まだいるかもしれない。
シャーネットを追いかけ、ゆるくカーヴした道を行くと、やっぱり。
「! アリアーツェ! どうしたー? やっぱりおじじと一緒が良いかのぅ?」
両手を広げて来たので、ぎゅっと抱きつく。ぐりぐりとお腹に頭をこする。おじじの匂いがした。
「ううんー、帰るのー」
「そうか……気をつけてなー」
ちょっとさみしい。でも両親にも会いたい。
看板を見て、後ろを振り返って、シャーネットは小首をかしげる。帰ってきたはずなのに、という顔。
「? ?」
「シャーネットちゃん、かえろー?」
「うんっ」
今度こそ、帰ろう。
このやり取り、三回目だしな。
奇妙な視線は、もう感じなかった。
やっと我が家だ。
たった一泊しただけなのに、長い間帰ってなかった気がする。
センテ男爵家の入り口では、母親がウロウロしていた。
シャーネットちゃんと別れて、アリアーツェは駆け出した。
「母様っ、ただいま、ですっ」
「アリアーツェ! お帰りなさい……っ」
ぎゅうっと抱きつくと、優しく抱き締められ、頭を撫でられた。
お互いの顔を良く確かめて、ふふっと笑う。
「おじい様と、おばあ様は元気だった?」
「うんっ」
「あら、可愛いポシェットね?」
「おばばにもらったのっ」
そのまま台所に行くと──裏口のドアが開いていて、のっそりと人影が立ち上がった。
狩人姿の、大男だ。
「っ……」
(な ん で)
アリアーツェは、心臓が止まるかと。
「あら、ありがとうございました。みんなで分けさせていただきますわ」
「……お嬢さん、ですか?」
「ええ、五歳になったばかりで。アリアーツェですわ。アリアーツェ、こちらは狩人のヨーデルさん」
何を考えてるか分からない、透明な瞳が向けられ、鳥肌が立つ。
思わず母親の後ろに隠れる。
「あら? ごめんなさい、恥ずかしがりやで……もう、アリアーツェったら」
「や、構いませんよ。こんな格好ですし。じゃあ、猟は届けたんで」
「ありがとうございました」
ドアが開いたまま、気配だけが去って行く。
狩人。そうだ。アイツは──。
『──に、して下さい……っ』
『悪い。断る』
「……アリアーツェ……? どうしたの、急に大人しくなって……。狩人さんは、獲物を届けてくれたのよ。鹿がとれたのですって! 皆に分けないとね」
「……狩人、さん」
「そうよ? お肉を持ってきてくれたの」
名前、が違う。
(アイツの名前は──)
狩人組合の入り口をくぐると、地元の猟師達が視線を向けた。
見ない顔だったのだ。
受付に向かう大男を、胡乱そうな眼差しが追いかける。
中くらいの使いこなされた弓。背中に背負った矢筒。獣の皮をなめした古びた服。腰に下がる小ぶりの斧。
顔を半分隠す、汚れた頭巾に染み付いた血の匂い。
「……依頼手続きを、頼む」
「はい。タグを拝見……っ? えっ、ゴールドっ!?」
受付嬢が慌てふためく。
「……え、Sランクの……ロッダス様……失礼しました! 獲物の依頼でしたね。はい、完了です。こちらが報酬です」
「ありがとう」
金のタグを胸元に仕舞い、報酬の硬貨はズボンのポケットに突っ込み、大男は組合を後にした。
「あれが──Sランクの………?」
不気味さを感じた狩人達は、関わるまいと首を横に振った。
元々は、Aランクの狩人だったはず。
それが、ある功績を認められ、ランクが上がったという噂を聞いた。
元英雄殺し。
戦後は騒がれていたが……なぜこんな田舎に現れたのだろう?




