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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第二部
29/30

盗賊の正体



朝靄が地を這う夜明け。


クライツ領からの者達は一列に、サザイツ領の者達はバラけて、南側の山に登り始めた。


他の村へはかろうじて細い道があるが、山中にはない。草をかき分けながら、地道に進む。


昼頃まで痕跡を探したが、盗賊がどちらへ逃げたのか、さっぱり掴めない。


足跡が見つからないし、不自然に折れたり曲がったりする枝もない。


捜索の領民達も戸惑った。追跡はいったん取りやめ、山から降りることになる。


襲われた村や、他の村を調べに行っていたイアンも戻ってきた。


奪われたのは、食糧。村人は全員逃げたが、村は焼かれていた。


年長者達は、報告をまとめて顔を見合わせる。


「……賊は、大猿なんだよな?」


「逃げた村人からの、話ではそう……」


怖がっていた領民達も、不可解な表情だ。


「……前は、いつだった?」


「イアンが子供の頃だからな……8、9年前か?」


昔の被害は酷いものだったと、口々に領民たちが話す。


それに比べたら、被害が無さ過ぎる。


昼休憩をとってから、再度調べる事が決まった。









遠くから、映像を見ているだけでは、詳しく分からない。


アンが離れた時しか見えなくてハラハラしたが、盗賊の姿すら見えずホッとした。


アリアーツェには精霊達の手助けがある。山全体を、少し広めに調べてもらった。


サザイツ子爵の領地はほとんど山で、住民はいくつか村を分け、山の恵みなどで生活しているらしい。


小さな村は十以上、襲われたのは、一番離れた村。備蓄の豆や芋を奪われ、住民が逃げた後で火をつけられた。


風は音しか拾えないが、光はその場を見れる。二人は盗賊を探して、飛び回った。


地道な作業は時間がかかり、ようやくそれらしき場所を特定できたのは、夜に近かった。


(見つけましたが……)


(洞窟ですね)


「洞窟? 中に人がいる?」


(……います。子供が)


(……)


「子供?」


意外な返答に、目が丸くなった。


光に映像を映してもらう。


自然にできた洞窟らしく、今にも崩れそうな洞窟は、幅が2メートルくらい。奥行は浅かった。


土を固めた地面に枯れ草を敷き詰め、動物の毛皮や骨も転がって、そこにうずくまるようにして丸まっていたのは、確かにまだ子供だった。


ボロ切れの服を身につけた、十歳くらいの少年が二人、少女が二人。


「……洞窟のまわりは?」


倒木に潰されて、小屋のような残骸と、積まれた石。地面に刺さった錆びれたボロボロの武器。


その時がさりと茂みを揺らし、現れたのは手足の長い赤毛の猿だ。


獣なのに思慮深い顔つきで、穏やかな眼差しを洞窟に向けている。


手に持っていた何かを洞窟の入り口にそっと置き、山に戻っていく。山脈の方へ。


「あれが、大猿?」


大人の人間くらいデカい。だが普通の獣に見える。


獣が置いて行ったのは、木の実だった。


光の精霊にはその洞窟を見張ってもらい、風にはいったんクライツ子爵の元へ戻ってもらった。





翌日も山狩りが行われたが、小動物しか見つからず、拍子抜けな空気が漂う。このまま、明日もう一度調べて何も見つからなければ、捜索は打ち切りだ。


子爵達は困惑気味だし、領民達は好き勝手に憶測を話す。


盗賊など、出なかったのではと。誤って火事を起こし、それをいもしない盗賊のせいにしたのではと。見間違えたのではと、逃げてきた村人に改めて話を聞く事になった。


村人達は確かに見たと言い張り、さらに詳しく話を聞くと……。


「突然、屋根の上から襲ってきたんだ! 大きな猿に人が背負われてて、間違いねぇ!」


「本当ですよ! あの大猿は確かに……」


「大猿に吠えられて、慌てて逃げ出したら、後ろで火が上がって……」


「背負われてた奴の顔? そんなん、布でおおってたからなぁ」


声だけでも、どれだけ恐ろしかったかはよく伝わった。


洞窟の方を見る。


子供達のうち、少年一人だけ起き出して、木の実を一粒だけ口にして、他の子供に食べさせていた。


石の積まれた場所へ行き、しばらく無表情に眺めたあと、山の中に踏み込んで行く。


腕も脚も顔も傷だらけで、全身汚れ、ヨロヨロ歩く様子は、とても見ていられない。


再び山に入って、昨日とは違う方向を探し始めたクライツ子爵に、見付けた洞窟と子供達の事を伝える。


「そうか……よく、教えてくれた」


風は、音しか伝えないからどんな表情をしているのか分からなかったが……苦いものを飲み込んだような返答がくる。


「アーツェ、恐らくだが……その子らは盗賊の子供かもしれん」






気付くと、ベッドの上で水の精霊に抱き上げられていて、涙を拭われていた。どうしたら良いのか、分からない。


洞窟の枯れ草の下に、恐らく奪ってきたのだろう食糧が、隠すように埋められていた。


子供達が少しだけ取り出し、分け合って食べていたのだ。


一人だけ、山に入っていった少年が帰ってきて、獲物だろう小さな動物を、火の魔法で焼いていた。


魔法。


滅多に使えるものではない。


今回の盗賊騒ぎが、この子供の仕業だと、状況証拠が揃ってしまった。


クライツ子爵に、告げるべきだ。


でも、サザイツ領の人達がどう思うか……サザイツ子爵がどんな判断をするか、想像するだけで怖い。


「アリアーツェは、どうしたいの?」


水の精霊は、優しく問う。


「わたしは……」


紫の瞳の奥で、金の光が弾ける。


「みんな、助けたい」


お腹が空くのも、寂しいのも、とってもツラいのだ。アリアーツェは、よく知っている。


父様と、母様に抱きしめられるのは、とっても幸せなこと。


でも彼らには親がいない。


子供だけで、弱りきって、あんな状況で生きて行けるとは、とても思えない。


助けてくれる人がいないのだ。どれだけつらいだろう……?


「そうですね───じゃあ、相談して、みましょうか」


部屋の扉が空いて、アンが入ってきたので、アリアーツェはびっくりした。


慌てて精霊を見上げるが、水は微笑している。


もう、寝ている時間だ。普段なら注意されるのに、その気配がない。


「……アン?」


「アーツェ様が悩んでいることは、みんな気付いております。なにか困り事があるのでしょう? 奥様に、相談してみませんか?」


「……めいわく、じゃない?」


遠慮がちなアリアーツェに、メイドは意味深な笑みを浮かべた。


「子供が親に甘えるのは、当然の事です。奥様ならまだ、起きていらっしゃいますよ」


「……うんっ」


勝手に動くよりは、大人に力を貸してもらうべきだ。


アリアーツェは急いで、夫人の部屋に駆け込む。眠気も、吹き飛んでいた。


夫人はアリアーツェのたどたどしい説明を、根気よく聞いてくれたあと、しばらく考え込んだ。


「……その子供たちは、本当に盗賊の子供かしら。周りに大人はいなかったのかしら?」


「たぶん……」


「子供たちを助けるのは、簡単よ。クライツ領に連れてきて、孤児として受け入れられるわ」


「!」


喜ぶアリアーツェに、夫人は大事な事を言う。


「問題は、その子供たちが、保護されるのを受け入れるかどうかね……」


「聞いてくる!」


今すぐ飛び出そうとするアリアーツェを、夫人は抱きしめて止めた。


「あわてんぼうさんね、準備は済ませておくから、明日の朝向かいましょう」


だから、早く寝なさいと部屋に戻されたが、不安でぐるぐるして、なかなか寝つけなかった。


翌朝、用意してもらった馬車に夫人と乗り込み、急いでサザイツ領に向かったのだった。










山狩りでは、結局盗賊を探し出すことは出来なかった。


危険な目に合わなかった事はみなホッとしたが、サザイツ領の民達は不安そうに見送りをしてくれた。あとは、各村で警戒するしかないだろう。


領民を引き連れながら、クライツ子爵は自分の領地に戻って来た。


「お帰りなさいませ」


何もなかったように、妻に出迎えられる。


「……アーツェは?」


夫人はそっと、屋敷の方を振り返る。


裏庭の方から、子ども達の話し声が聴こえていた。





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