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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第二部
28/30

隣りの隣りの領地から


クライツ領の幼年学校に、アリアーツェはあっという間に馴染んだ。


見た目より、だいぶ活発な美幼女にみんな驚き、先生方がたまに目を回す事もあったが、概ね受け入れられた。


何せ、ずっと精霊達がそばについているのだ。ちょっとでも危ないと、風がさあっと助けに入る。


一度、注意されれば理解するし、他の子供にも配慮できるし、とにかく明るくて元気いっぱい。


午前中の授業も、歴史以外は眠ることなくきちんと受けた。





学校がおやすみの日は、クライツ夫婦と一緒に過ごした。


ブドウ畑に行ったり、ピクニックしたり、夫人に刺繍を習ったり。


領主のお仕事を見学したり、使用人達のお仕事を手伝おうとして困られたり。


絵を描いたが食べ物ばかりだったり、こっそり屋根の上に登ったり。秘密でギルドを覗いたり。


誰にも邪魔されず、毎日平和に穏やかに、楽しく過ごした。


遊び疲れて眠ってしまう日が多くなり、母親への報告が三日に一度に減ってしまい、両親はちょっと寂しそうだったりしたが。


夜は必ず、精霊達が一緒に寝た。


アリアーツェがのびのびと羽を伸ばしているので、精霊達も喜んだ。本来なら、家族の元で出来たはずの、普通の暮らしだから。


「この地の人々は、素晴らしいですね」


「うんっ! みんな大好き!」


のんびりとした温暖な地域なためか、領民ものんびり、まったり暮らしている。


クライツ領は、天候に恵まれ続け、少しあった自然災害もぴたりとなくなり、農作物の出来がぐんと良くなった。


不健康な領民達が少しずつ健康になり、土地全体が浄化され、良い事ばかりが起きるようになった。


何が原因なのか───最初に気付いたのは、クライツ領主の館の人々だ。


アリアーツェが本物の聖なる乙女だと理解すると同時に、感謝し、その秘密はしっかり守られた。


そうして、幼年学校での過ごし方にすっかり慣れた頃、事件は起きた。






「領主さま、お隣りさんから知らせが───!」


クライツ領主のもとに、急いで連絡が入ってきたのは、午後のお茶の時間の時だった。


天気がいいからと、館の庭でみんなでくつろいでいた所へ、領民が走って来たのだ。


穏やかだった空気が固まり、つい椅子から降りたアリアーツェを、メイドのアンがつかまえる。


領民から、何やら話を聞いているクライツ夫婦を横目に、部屋に戻された。


「アン?」


「後ほど、きっと教えて下さいます。お部屋で待機していましょう」


「……はい」


だが、やっぱり気になる。


(風さん)


(お任せあれ)


最近はもう、言葉にしなくても、アリアーツェの希望を精霊達は叶えてくれる。


たまに暴走するが、それはそれ。


自分の部屋で、幼年学校の友達同士で手作りした、ブサイクな人形モドキを、ぎゅっと抱きしめて待つ。


アンが、紅茶をいれてから、いったん退室していった。領主夫妻の様子を見に行ったのだろう。


「なにか、あったのかな」


「……少なくとも、クライツ領には何一つないです」


水の精霊が、頭を撫でてくれる。


光の精霊は、大きな窓から外を眺めた。


「他の領地かな? 隣りのって言っていたから」


「おとなり」


アリアーツェは懸命に、授業で習った地理を思い浮かべる。


クライツ領の周りは、同じ子爵家がひとつ。あとは男爵家が二つ。


窓の外から、風の精霊が戻ってきた。


「分かりましたよー、どうやら、盗賊が出たようです」


ぴくっとアリアーツェが反応した。


「……盗賊?」


「隣りの子爵家の、さらに隣りの南側の山の村が、襲われたとか」


「いつ?」


「一昨日らしいです。まだ被害状況を確認中らしく、しかも事後だったらしくてですね……一応、注意の連絡で」


「風さん、光さん!」


アリアーツェの顔つきが厳しいものに変わり、精霊達はうなずいた。


「調べてきますね! 水は留守番お願いします」


「ええ」


「アリアーツェ、ちゃんと留守番してて下さいね?」


きゅっと抱きついてから、風と光の精霊は飛んでいく。


カタカタと震えるアリアーツェを、水の精霊は優しく抱きしめた。




アンが呼びに来たのは、結局夕食の時間になってからだった。


夕食の席で、普段にない厳しい顔つきのクライツ子爵から、やんわりと説明された。


婦人はすでに顔色が悪く、使用人達も不安そうに耳を傾けた。


隣りの子爵家の隣りの領地で、盗賊が出たらしい事。


探しているが、盗賊達が見つかっていない事。


危険なため、しばらく学校はおやすみになる事───。


「あちらが人手が足りないそうでな。ちょっと手伝いに行く事になった」


夫人は予想していたのか、ますます顔色が悪くなる。おでこに手をあて、ぱたりとテーブルに突っ伏した。


「テリサ!」


「奥様!」


慌てて、使用人達が夫人を囲む。


心臓がきゅっとなって、アリアーツェも動けない。ただ、視線は逸らさず、立ち上がったクライツ子爵を見詰める。


使用人達に運ばれていく妻を見送り、領主は小さな少女の傍に来ると、膝を折り目線を合わせた。


一瞬迷ったように、それから意を決して口にする。


「私が戻るまで、テリサと皆を頼んで、いいかね?」


アリアーツェと、精霊達に頼んでいるのだろう。


アリアーツェは、すぐさまこくんとうなずいた。


「ありがとう……」


そうっと抱きしめられた。







いくら、大陸が統一されようと、新しい制度を作ろうと、国に従わない者達はいる。


村や街から外れ、社会に馴染めず、欲望に勝てず、罪を重ねるはぐれ者達が。


そういった者達は、深い山間に隠れ住む事が多い。


大陸はあまりに広く、住める地域なら何処にでも、人々は住めるのだ。食料と水さえあれば。


地域ごとに賊の種類も、規模も変わり、脅威もまた変わる。


東辺境の山深くに、昔から隠れ住む盗賊は、厄介な犯罪者集団だった。


クライツ領民の中から、狩りに慣れている三十人ほどを率い、隣りのハワム子爵家にいったんお邪魔して、その息子と領民達と合流し、さらに隣りの子爵家に辿り着いたのは、三日後である。


「クライツ領主! ハワムの子息も、来てくれたか!」


自分と同じ、いやそれ以上に年老いた老人に、肩を叩かれ出迎えられた。


「サザイツ子爵、……その後の進展は?」


「ない。……村は焼き払われ、全て奪われておる……出たのは〝大猿〟だ」


クライツ子爵も、ハワムの息子も、青ざめた。


厄介な犯罪者集団には、たまに異名がつけられる。その名前を聞いた途端、連れてきた領民達も顔色を変えた。


「逃げた先は、南側の大森林だ」


「狩りは、明日からだな。まずは領民を休ませたい」


重々しい頷きが返された。







「〝おおざる〟? 知らないな」


風からの中継を聴きながら、アリアーツェは地図を睨んでいた。


地方の盗賊だ。剣士も聞いた事がなく、首をひねる。


幼年学校は休校になってしまったため、アリアーツェは自室でお勉強だ。


クライツ領近辺を、拡大した簡易地図は、クライツ家の領主の執務室から借りてきた。


それを参考に、お絵描き用の木皮に、丸を描いていく。


斜め横に三つ。その周りに、大きい山が二つ。小さな山がたくさん。


山を越えれば山脈が続き、陸地は終わる。その先は海だ。


山がたくさんあって、領地の周りには小さな村がポツポツあるらしい。襲われたのは、その村のひとつ。


遠くの大人達の会議を聞きながら、バツ印をつける。


一番右の丸の下、やや右。


山狩りは明日の朝から。半数はサザイツ領地の近くを満遍なく、残り半数で村からの足取りを探す。


クライツ子爵は、若い時に狩り経験があるらしい。なんと、足取りチームのリーダーを申し出た。


サザイツ子爵は恐縮しながら、自領の周りを受け持つ。


ハワム子爵の息子、名をイアンは遊撃隊だ。若手数人を率いて、サザイツ領の他の村を調べる。


「ふむふむ」


結局、大猿の由来は不明なまま、会議は終わってしまった。


集まった領民達の話を拾ってみたが、はっきりしない。ただ、皆かなり怯えているようだ。無理もない。


普段は農作業をしているのだ。持ってきた武器も、弓や短剣、槍など。装備など、革の胸当てや、腹巻みたいな物や、分厚い手袋くらい。


光の精霊が、集まった山狩りの領民達を映してくれたが、見てると余計に頼りない。


「……行きたい」


「ダメですよ。まだ、あなたは幼い」


頭を撫でながら、水の精霊にさとされる。


「代わりに、二人を行かせたのでしょう?」


(任せて!)


(領民達は護る)


「うん……」


不安を抱えたまま、翌日を迎えた。






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