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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第二部
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妙策


何度も、何度も考えた。なぜ、逃げられたのか。


手ずから食べさせて、やったのに。


「淑女にする事では、ありません」


「淑女? まだ五歳だそ?」


何を言っている、と侍従を見れば、ヤレヤレと首を振られた。


普通なら──そう、普通に貴族の娘なら、国の皇族に嫁げるのだから、泣いて喜んでも良いはずだ。


たとえ、第二皇子だとしても、その妃なら、贅沢し放題、ワガママし放題なのだから。


考える。


どうすれば聖女は戻ってくるかを。


最初は、家族の下に必ず帰ってくると思っていたが、一向に帰って来る気配がない。


やっと手がかりを見つけたと思ったら、出入りしていた街に来なくなった。


親しくしていたという親子にも話を聞いたが、冒険者として獲物を卸していただけだと言う。


子供が……しかも少年のフリをして、冒険者の真似事をしていたなど……有り得ない話だったが。


だが、近所の者達は、親子はとても仲が良かったと言い張るし、中でも同い年くらいの、あの太った少年と、とても親密だったと……。


べきり。


「!」


羽根ペンが折れた。侍従が慣れた仕草で取り替える。


すまし顔だが、あれは内心笑っているのだ。控える騎士もきっと、たかが六歳の太った子供に負け──。



「カイル殿下、良い案がございますぞ」


執務室に、いきなりマント姿の老人が入って来る。


何故か、皇都からわざわざやってきて、カイルに仕えたいという老人。どうせ、皇帝の部下なのだ。


少しの魔法が使えるというが……。


「なんだ? ハーエイン侯。くだらない案なら山に放逐するぞ」


「おお、恐ろしい! さすがはあの陛下のお子でござ……いえ、ちょっと便利な魔法がございましてな……お耳を拝借」


「…………なんだと?」


「これなら、気付かれますまい? あとは、殿下の努力次第……時間のかかる方法ではありますが……いかがされます?」


「ふん。面白いではないか。……いいだろう。よし、ジークを呼べ!」


「はっ」


皇子の館は、にわかに騒がしくなった。


それからしばらくして、大陸中に、ある皇律──法律が公布される。










皇国の住民である証──個人証明書の、義務化。


流れの民には流民の証明書、孤児には孤児証明書などを発行。


街の出入り、買い物は全て、証明書を提示。


なお、子供の証明書は五歳からとし、無償か、皇立の通える学校に必ず通い、卒業後に一人前の証明書を発行。


この証明書がない者は、仕事にはつけないものとする。


証明書を持たない者がいた場合は、速やかに各詰所に報告の義務を化す──。








「…………証明書には、本名、年齢、出身地、賞罰の有無、所属先……」


(住民票か! やられた)


街で配られていた木製の薄い板紙に、インクでコピーされた新しい法律内容が、書かれていた。


「証明書は、ギルドで使ってる、低魔石の、タグを使用」


(偽物防止だ!)

(マズイな……)


もっと細かい内容は、裏面にあった。


証明書は民を守るためのもので、犯罪者はすぐに分かる事。


貴族、兵士、商人、市民と色分けし、偽装も防ぐ事。


証明書を持たない者を報告すれば、報奨金が出る事。


証明書は、本人にしか使用できず、悪事に利用すれば、管理局にすぐに分かる事。


何かあった際の身分証になり、病気の際は減額されたり、薬も無償で貰える事。


不測の事態で働けなくなったりした場合、きちんと税を払っていれば、生活費が支払われる事。また、火災などで家を失った場合も、補填が受けられる。


さらに一定額以上、税を納めていれば、歳を取り、働く事が難しくなった場合、積み立てた老後資金から、死ぬまで一定額受け取れる。


などなど……。



(なんだ、この、優遇措置)

(……)


「……五歳以上は、かならず、学校に入ること……?」


「学校、ですか」

「親の手伝いをしている子供も、いるのでは?」

「裏に、ほら。家業の手伝いがあり無理な場合は、月に一度だけ、基本のみ学ぶと」


精霊達もみんなで読んで、困惑顔だ。


「学校……」


前前世の記憶を見て、学校がどんな場所か分かると、アリアーツェはそわっとなった。


子供がいっぱい居て、毎日遊べる?


(いやいや、勉強するところだからな?)

(行くとしたら、貴族の学校か)


「これ、もってないと、たいへん?」


漠然と、新しい法律の怖さを察した。


みんなで、うーんと考え込んだ。


ずっと、この湖の島で、暮らすことはできる。


ただ、その場合、アリアーツェは二度と街にも、男爵領にも、行けない。


世間から、完全に切り離された暮らしを、一生過ごすのか?


一生、ひとりで。



(……証明書を、どうやって作ってるのか、見てみよう)

(何か、抜け道があるかも知れない)


「うん。風と光さん!」


「分かりました。ちょっと調べてきましょう」

「あちこち見て来ます」


水はアリアーツェとお留守番だ。

精霊達は、すぐに飛んで行った。



(あんな法律、誰が考えたんだか……)

(民も、混乱するだろう)


ただ、施政する上で、管理出来ているととても便利だ。学校も義務化すれば、民の質があがる。すなわち、税収も長い目で見れば、上がっていく。


(菓子屋があやしい)

(……)





アリアーツェは、花畑で刀を振るう。


考えがまとまらない時は、体を動かすに限る。


自分が、どうしたいか、考える。


離れることになった、シャーネットやトニーや、ラナの顔が浮かぶ。


精霊達は、大好きだ。ずっと一緒にいられるだろう。でも……友達は?



「学校……っ、行ってみたい……!」



だが、戻ってきた二人の精霊は、どんよりしていた。


「駄目です、アレは……特殊な鉱石で、魔法加工がされている」


「大元に、情報を集めて精査し、偽る事も書き換える事もできないように、神殿契約している」


「え……」


おまけに、精霊避けもされているという。


「なんで、精霊よけ?」


「……幼い精霊は、よくイタズラをするからな」


「私たちは、もうしませんよ?」


「……」


みんなで、途方に暮れた。










水鏡越しに、母親にも訊いてみた。


証明書の事は、どんな風に受け止められているのかと。


『大変なのよ。今までは自領の収穫分のみが、領地の収入だったのが、貴族の位によって、年俸がいただけるらしいの』


「年俸」


『ウチは男爵だから、金貨10枚くらいとか! 国全体で収穫分を分配するから、もし不作でも国庫から支給も受けられる……これは凄い事よ? 誰も飢えない……証明書があれば、管理できるからと。案を出されたのが、あのカイル殿下と聞いて、びっくりしたわ!』


母親は、興奮していた。


畑で話しているのだが……そんなに興奮していて、大丈夫だろうか? 見つかったりしないか?


アリアーツェは、ハラハラしてきた。


「母様、分かりました。良かったですけど……私、困って」


『アリアーツェ、いまは、どの地方にいるの? 近くに親戚がいれば、なんとか……なるかも知れないわ』


「えっ、母様本当っ?」


アリアーツェは、精霊を見上げる。


「東部の、デイロット領地、タナーン子爵領ですね」


そのまま告げると、母親は明日までに調べてみると言って、いったん水鏡は閉じた。


ドキドキしながら、アリアーツェは翌日を待った。



──季節は秋の終わり。


冬を迎える直前の、出来事であった。



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