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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第二部
24/30

ラナ


家が空を運ばれていく。スイスイと。


大精霊になった風には、簡単なお仕事だ。


(人里近くは、危ないか)

(どこか、人が来ない場所とかないかな)


精霊達が、他の精霊に尋ねたところ……。


「精霊の、湖?」


精霊達が教えてくれたのは、大きな湖の真ん中にある、小さな島だった。


湖が深く、船も出せないため、人間は絶対近付かないらしい。


「わぁ……」


美しい翡翠色に輝く湖と、小さな島。


ひと目で、アリアーツェは気にいった。





湖には、主がいた。大きな魚だ。


挨拶をして、島に住むのを許可してもらう。


湖の周りは豊かな森で、少しの狩りなら良いとの事。


薬草や果物も、豊富。


行き来は大変だが、大きな街もある。


「しばらく、ここで、くんれん!」


剣士は張り切った。












あと、少し早ければ。


つい最近まで、聖女と思われる少年が街に出入りしていた事実に、聖騎士団は歯噛みした。


と、同時に考えを改め、一度、全員をセンテ男爵領に帰還させた。


皇子の館と、騎士団の宿舎、詰所は既に完成。半数が残って、男爵領の守りに当たる。


残る半数は──。


騎士服から、普通の衣服になおし、大陸中に散って行った。


大規模な捜索では、逃げられると学んだためだ。


「からめ手でいく──住民や、冒険者にまぎれ、人知れず探すのだ」


騎士団を見て、おびえる子供の様子が、目に焼き付いていた。


「御意」


聖騎士団の者達は大陸中に散らばって、まずは現地に溶け込む。


聖女らしき子供が現れたら、しばらく様子を観察。


どのように保護するかは、その時の状況から判断する事にした。









(執念深い……)

(こんな奴だったか?)


カイル皇子は律儀に、捜索の進捗具合を、男爵夫妻に伝えているらしい。


母親のやつれ演技は完璧で、一食抜かすだけで涙を出せた。


「んー?」


アリアーツェは、新しい住処を満喫していた。


湖の近くは、きれいな花畑。


珍しい小鳥や、小動物もやってくる。


最初はご飯と思って見ていたが、泣き落としをされて諦めた。


美しく、神秘的な湖の島で、アリアーツェはすくすくと成長していく──木刀を片手に。


最初は、剣士の剣を、覚えるつもりだった。


だが、まだ子供なことと、女子でもあって、直剣は重すぎた。


そこで、前前世の出番だ。


片刃の剣──斬ることに特化した、武器がある。


記憶を見て、剣士も気に入った。


それはもう、夢中になって、新しい剣術を……刀術を作っていった。


美しい翡翠の湖のほとりで、精霊達に見守られながら、無心に──木刀と舞い踊る。


「たのしい……!」


背中に羽が生えたかと思うほど、軽々と──。












精霊の森には、光の踊り子がいる……。


流れの民の秘密の噂を、運良く耳にした者がいた。


霧深い森──地元住民には、なぜか恐れられている、古い古い森。


その森のかなり奥に、底なしの湖があるという。


大陸には、いくつかそんな場所がある。


『決して、近寄ってはならない』場所が。


元々、大陸には伝承の残る場所が多くあったのだ。


そんな、誰もが避ける森に踏み込んだのは、狩人の格好をした二人の旅人だった。


彼らは、運良く湖にたどり着き──。


(……髪も、眼の色も違うが……)


(ああ……)


見て確かめ、何もせずに、帰って行った。









噂が気になって、こっそり森に踏み込んだ者が、もうひとり。


深い森の闇におびえながら、でも簡単に帰る気にもなれず、小動物にビクビクしながらたどり着く。


夕闇に、淡く発光する湖面が見えたのは、だいぶ奥まで入り込んでからだ。


「あった……湖……!」


目当ての湖の発見に、本当にあったのかと驚き、緊張が高まっていく。


湖は、しんと静まり返っていた。


しばらくあちこちを見回したが、人っ子一人いない。


落胆した。


ただ、湖のほとりには、見た事もない小さな、可憐な花畑が。


折しも、月の女神がうす闇のヴェールをまといながら、星あかりをさざめかし……ひっそりと花々を照らした。


心が高鳴って、何かに導かれるまま光の下に歩みでる。


誰も見ていない舞台。


「──」


たかぶった心のまま、彼女は踊り出す。


つたなく、途切れ途切れの幼い踊りだったが、不思議と美しく……精霊達が惹かれるにも十分な。


シャランと飾り鈴が鳴る。


精一杯の自分の踊りを舞った踊り子──彼女は流れの民の、踊り子だった──彼女が満足して手足を下ろすと、花畑の縁で、精霊が見ていた。


「……」


はぁ、はぁと息を整えていると、この世のものとは思えない、儚い美しい精霊が、彼女の手を取った。


「素敵な踊りだった……あなたは、誰? 可愛い踊り子さん」


「……!」


彼女は真っ赤になって、精霊と見詰めあった。








流れの民の踊り子は、その日からたびたび湖を訪れた。


月が出ている間だけ、その美しい精霊と逢瀬する。


花畑の中で、手を取り合って踊る。


「ラナ──可愛い、可愛い、オレの踊り子さん」


「リツ!」


まだまだ幼い子供のたわむれ。


精霊達も、ただ微笑ましく見守る。


月が出ている間だけの、それは夢の狭間のような、ひと月限りの出逢いだった。


やがて踊り子は、流れの民の移動と共に、この地を去る日が来てしまった。


ラナは泣いた。自分もここに残りたいと。


だが願いは叶わない。


「いつか……大人になったら、また踊ろう?」


涙をこぼす彼女の頬にキスをして、月の光のなかに、精霊は消えてしまった。











水鏡越しに報告していると、母親が心配そうに。


『アリアーツェ? たくましくなってきたのはいいのだけど……あなたは女の子よ?』


アリアーツェは、きょとんとする。


「? はい。母様。アリアーツェは女の子です」


『その、ラナちゃんも、女の子でしょう?』


「はい! ラナはとっても可愛いです!」


『……大丈夫、かしら?』


田舎貴族とはいえ、一応貴族だ。本来なら、淑女教育をはじめるべきだが、娘の将来がちょっと心配になる母親だ。


『殿下はずっと男爵領にいらっしゃるし。諦めたのかしら……』


「……」


それこそ、遠い地にいるアリアーツェには分からない。


母親の声を耳に優しく聴きながら、いつしかウトウトと……。




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