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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第二部
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隠れ家と大精霊と


狩人組合──現在は冒険者組合の、常時依頼は、狩の獲物の納品や、薬になる薬草の採取依頼だ。


狩の獲物は、その土地、地域によって違いがあるため、重さや大きさ、貴重さなどでランク分けされている。


採取は、数や状態、貴重さ。


ほとんどは、地元の狩人がこなしている仕事だが、たまに流れの狩人──冒険者もやってくる。




その街は、そこそこ住民が多く、周辺に豊かな森と、川が近くにあった。


街道から少し奥まっていたが、商人も多く寄り、静かで良い街だった。


一番良いのは、領地を収める領主が比較的、良い統治者だったことだろう。


適度に田舎のため、ほかに貴族らしい貴族もいない。


そんな街に最近、子供の冒険者が出入りするように、なった。


朝の開門時間を過ぎて、人通りが減った頃。


「おはよう、ございますっ」


元気な挨拶とともに、栗色の髪の少年が街に入って行った。


背中には、小さな背中と同じくらいの皮袋。


彼はまっすぐに、街の中心にある冒険者ギルドに向かう。


混雑時間より、少し遅れて到着。


獲物専用の受付に並び、皮袋から野良ネズミと、野良ウサギを取り出し、規定の料金をもらって帰る。


子供が採れる獲物など、その程度だ。だから周りの大人達も、もう慣れて見向きもしなくなった。


「リツくん! ご苦労さまっ、またね」


ただ、受付嬢のお姉さんだけは、毎回声をかけてくれる。


リツは手を振って、近くの雑貨屋に急ぐ。


「おはよう、ございますっ」


「……おう、はよう。今日はなんだ?」


雑貨屋の店主は、朝だからか眠そうで、子供が買い物に来てもちゃんと応対してくれる。


リツは、ごちゃっとした店内を見回した。


「えっと、アレをください?」


「……1200デアだ」


さっき報酬でもらったばかりの硬貨で支払う。


商品は、葉っぱで包まれ、皮袋に入れてもらった。


「お邪魔、しました〜っ」


たったったっ、と店を出て、途中の屋台を横目で眺めながら、街の門へ。


冒険者だから、出入りはタグを見せるだけでいい。


何事もなく街から出ると、よしっと握り拳を作った。


「目立たず、こっそり、買い物せいこう!」


(ねぐらに帰るまで、油断大敵だぜ!)


「はーいっ」


街道からそれて、森の中に踏み込む。


辺りに、誰の気配もないのを確認してから、飛んだ。


「風さん、おうちまで〜」


(了解〜っ)


ひゅんっと風の手が小さな体を掬いあげる。


木々を越え、風に守られながら、どんどん山奥──川の上流へと、飛んでいく。


そこは山の頂上に近い、人が誰も踏み込まない場所だ。


木を加工して作られた、三角錐の小さな家が見えてくる。


「ただいま〜っ」


「お帰りなさい!」


「お帰り、アリアーツェ!」


水色の髪と青い眼をした女性と、金の髪と銀の眼をした青年が、少年──いや、少女を優しく抱きとめた。


風が渦を巻き、緑の髪と眼をした青年になる。


そう……彼ら、彼女らは、精霊だ。


水と、光と、風の。






木の香りが漂う家の中は、真ん中にテーブルと椅子。左側にキッチン。奥にベッドがある。


床下に地下室が作られ、風呂場やトイレ、あとは収納倉庫もあった。


全て、五歳のアリアーツェにあわせて作られたので、幼児サイズ。


生活様式は、前前世が要望を出し、清潔が保たれている。地下収納に氷室も完備。風呂には温泉を引いてあるしトイレは水洗。


キッチンも洗い場と、簡易コンロもどきを自作。


まずは生活の場を整えるため、ちまちま狩の獲物をギルドで換金、キッチン用品や雑貨をそろえた。


家は完成したので、あとは小物だろうか。


「便利ですね〜」


蛇口から綺麗な水が出る様子を、水の精霊が感心して眺める。


「他の世界とは……興味深い」


この世界にない知識に興味津々なのは、光の精霊だ。


「……魔法の……精霊の存在のほうが、すごい、よ?」


アリアーツェの頭を撫でるのは、風の精霊。少女の言葉に嬉しそうに微笑した。


「いいえ。私達を顕現させた、アリアーツェの力がいちばん、凄いのですよ」


(だよな! オレも驚いた)

(うんうん)


「そ……そう?」


ほっぺを押さえ、てれてれする美少女の、なんと可愛らしいことか。


精霊達はぎゅっと少女を抱きしめ、うっとりとする。


「さすが、我らが愛し子……」

「愛らしい」

「触れることが叶うとは──望外の喜び」


ちょっと絵面が危ないが、まあ守護霊みたいな存在だ。問題は、たぶんない。


精霊達が、まるで人のような形をとったのは、あの奇跡の瞬間だった。


大陸を覆うほどの、あふれかえった聖女の力の奔流を、近くで浴びたことによって、三体の精霊は余りある力を得た。


精神が一気に成長して、この世に顕現したのだ。


本来は、数百年かけて成長するものが、あの一瞬で大精霊となった。


お陰ですぐに、逃げ出せた。


あのまま、帝都に連れて行かれたら、逃げるチャンスはなかったかも知れない。


「サラサラの髪の、この艶と繊細さ」

「すべすべの肌の、なんというみずみずしさ」

「いい匂いもする」


そろそろ止めるべきか。


髪をすいたり、肌を撫でたり、匂いを嗅いだりするへんた……精霊達に、離れてもらう。


「おなか、すいた。ご飯、つくろ?」


「……食べてしまいたい」

「ああ……」

「はぁ……」


精霊はもっと、清らかな存在のはずでは?


彼らはいったん放置して、ご飯を作る。


精霊達がとってきてくれた、果物や薬草、狩の獲物の肉。


小さな手では大変だが、前前世が料理に詳しく、危なげなく作っていく。


「そういえば、大きなイノシシを狩れたのですよ。売りに行く?」


水の精霊が聞く。アリアーツェを膝に抱っこして、食べる様子を愛おしげに見詰めている。


「おっきいと、めだつ? から」


もぐもぐ、もぐもぐ。


「売らなくても、氷室で保管できるよね?」


光の精霊は、灯り代わりの光を室内に飛ばして遊んでいる。


「運ぶなら、私が飛ばしていけば」


風の精霊は、アリアーツェを眺めながらふよふよ浮いている。


「……服が、いるかも?」


もぐもぐしながら、アリアーツェは自分の服を見下ろした。


小さなトランクに詰めてきた服は三着だ。ちゃんと精霊が運び出した。


だが、かなりきつくなってきた。成長しているのだ。きちんと食べて、運動しているから。


「あまり大きな獲物は、さすがに目立ちそうですね」


「切り落として、あの氷で包んでいけば?」


「それです!」


帰ってきたばかりだったが、お肉は新鮮な方がいい。


ご飯を食べたら、また街に向かう事になったのだが……。





ギルドには、狩人達が獲物を持ち込む。当然、その獲物を、買い取りに来る商人や、店の者達がいる。


並んでいる時に、目があった。


アリアーツェと同じくらいの子供が、業者用の列に並んでいたのだ。


「あ」


「?」


ぷっくりと膨らんだほっぺ。丸々とした体。ぷにぷにとした手足。気弱そうなつぶらな眼差し。


それは、かなり太った子供。


アリアーツェは、何だかよく分からないまま、衝撃を受けた。


獲物の売却を済ませても、ぼんやりと立っていたら、受付嬢が心配して声をかけて来た。


「リツくん、どうしたの?」


「あ……お姉さん、あの……あの子は誰ですか?」


業者用窓口から、ちょうど帰って行く小さな背中を見詰める。


「んー? ああ、食堂屋のお子さんね!」


「食堂屋……」


「リツくんと、歳が近いわね。彼も偉いのよ? お母さんを手伝って、小さなお店を守っているのよ!」


「なんていう、お店ですか?」


「食堂屋、『まんぷく』よ! ギルドのちょうど、裏道にあるわよ」


「ありがとう、ございます……」


「帰り、気をつけてねー」


アリアーツェはふらふらと、ギルドの裏道に歩いて行った。


ギルドが並ぶ大通りより一本裏側に道があり、太った子供はその内の、小さな店舗に入って行った。


間口は狭いが、奥行があるのだろう。午後という事もあり、小さな食堂は繁盛しているようだ。


「まんぷく屋……」


アリアーツェは食い入るように、いつまでもその店を眺めた。





隠れ家に帰って来てからも、アリアーツェはぼうっとしていた。


精霊達がしつこくかまっても、反応しないくらいに。


「アリアーツェ?」

「いったい、どうした?」

「ふむ、心が飛んでいってしまっているな……」


一晩経っても様子が変わらず、精霊達はいつも通りに、水鏡を繋げて。


繋げた先は……遠く、センテ男爵領。その畑の地面。


畑仕事に来た母親が、顔を覗かせる。


『アリアーツェ? おはよう』


「……母様、おはよう……」


いつもと様子が違う娘に、母親はすぐに気付いた。


毎日、何があったか嬉しそうに話すはずが、珍しくぼんやりだ。


『なにか、あったのかしら?』


「かあさま」


アリアーツェは、困ったように胸を押さえた。


「……ココから、きえないの。あの子が」


『え?』


「まるまるとして、健康そうで、ぷにぷにで」


『……』


「わすれ、られないの……あの子が」


『アリアーツェ……』


「かじりたい」


『お肉の話かしら?』


母親は、おっとりと首をひねっていた。



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