北の奇跡
街道は、帝都は避けて西よりの道を進んだ。
道中、空の馬車に食糧を積み込むらしい。
昼間は移動し、夜は街道脇で野営。
アリアーツェは馬車内でほとんど過ごした。
幼いながらも人を惑わせる容姿だからと、出歩くのも禁止された。
アリアーツェは大人しく従い、馬車の中でなるべく体を動かした。
時折、カイルが様子を窺いにきたが、幼女らしく振舞った。
侍女が優しく世話してくれるし、精霊達がいるのだ。
馬車の中からでも、外の様子は知り得た。
街道は、様々な道を走る。森や草原、荒地や沼地。くねくねした山道。
北の地への旅は、不思議な事になんのトラブルもなく──順調に進んだ。
春も半ばのはずなのに、気温が急に下がったのは、ようやく北の領地の入り口に到着した日であった。
暖かい衣服に着替え済みだったため、アリアーツェは寒さに震えずに済んだ。
だが、くすんだ街は、どこもかしこも、暗かった。
「まちに、泊まるの?」
「いえ……アリアーツェ様は、このまま馬車の中に」
街も地面も、風も冷たい。
(春、なのに)
侍女も、馬車の小窓から見える騎士達も、神妙な表情だ。街中ではなく、何故か街の外に、テントが張られた。
アリアーツェは、風に頼む。
「まちのようすを、見てきて?」
(了解!)
精霊が見てきたところ、街には食糧がほとんどなく、カイルが持ち込んだ食糧を提供しても、足らなかったらしい。
急遽、通過してきた街へ何台か馬車が取って返した。空の馬車に、とりあえずの食糧を積み込むためだ。
カイルは騎士達を連れて、明日、街の周辺を調べる相談をしている。
風の精霊が戻ってきて、水鏡を空中に張った。そしてようやくこの目で見た。
寒さで凍り付いた大地と、木々と、命を。
「……っ」
馬車の周りを、凍えた風が吹きすさぶ。あまりにも、大地の底から冷えきって、水も自由に動けない。
昼間のはずなのに、分厚い雲が空を覆っている。
アリアーツェの小さな身体が、小刻みに震えた。
「ひどい……」
小窓から、顔を覗かせ外を眺めた。
(ああ──なんでこんな事に?)
自然と、両手を組み、祈る。
──空が、晴れますように。
──風が、歌いますように。
──光が、あたためてくれますように。
精霊達は、ずっとずっと遠くの果てまで、アリアーツェに見せていた。
この先の、幾つかの街も、村も、ここよりもっと酷い。人々だけでなく、全ての生き物が苦しんでいる。
祈りを捧げるのを、剣士も前前世も、止めない。アリアーツェがやるべきことだと、理解した。
(──助けよう)
変化は唐突に起きる。
清浄な風が、キラキラした光をともなって辺り一面を飲み込んで行く。
重苦しかった空気が吹き飛ばされて、上空まで──遥か彼方まで何処までも、何処までも飛んでいった。
空が一面晴れ渡り、温かな日が差し込む。
やわらかな雨がパラパラと降って、凍えた大地に染み込んだ。
木々が息を吹き返し、大地に緑の芽が生えてくる。
野営地にいた騎士達、使用人達はその不思議な現象の中心地を、信じられない思いで目撃した。
馬車の小窓から見える少女が、光り輝くのを。
街の住民達も、街から戻る途中だったカイル達も──踏みしめる大地があっという間に緑に覆われる様を見た。
驚き過ぎて、誰もが声を失い、いつまでも立ち尽くす。
──大地は、春に染め替えられた。
聖なる乙女によって──
奇跡を起こし、北の大地を救った聖女。
アリアーツェの名が、大陸中にひろがった頃。
「──何処へ行った……! 探せっ!」
幼い少女の姿は、彼らの前から忽然と、消え失せた。
…………
( '-' 三 '-' )
スターありがとうございますペコリ((・ω・)_ _))
|彡サッ!
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