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元剣士、聖女に転生!?  作者: 銀花
第一部
20/30

北の奇跡


街道は、帝都は避けて西よりの道を進んだ。


道中、空の馬車に食糧を積み込むらしい。


昼間は移動し、夜は街道脇で野営。


アリアーツェは馬車内でほとんど過ごした。


幼いながらも人を惑わせる容姿だからと、出歩くのも禁止された。


アリアーツェは大人しく従い、馬車の中でなるべく体を動かした。


時折、カイルが様子を窺いにきたが、幼女らしく振舞った。


侍女が優しく世話してくれるし、精霊達がいるのだ。


馬車の中からでも、外の様子は知り得た。


街道は、様々な道を走る。森や草原、荒地や沼地。くねくねした山道。


北の地への旅は、不思議な事になんのトラブルもなく──順調に進んだ。








春も半ばのはずなのに、気温が急に下がったのは、ようやく北の領地の入り口に到着した日であった。


暖かい衣服に着替え済みだったため、アリアーツェは寒さに震えずに済んだ。


だが、くすんだ街は、どこもかしこも、暗かった。



「まちに、泊まるの?」


「いえ……アリアーツェ様は、このまま馬車の中に」


街も地面も、風も冷たい。


(春、なのに)


侍女も、馬車の小窓から見える騎士達も、神妙な表情だ。街中ではなく、何故か街の外に、テントが張られた。


アリアーツェは、風に頼む。


「まちのようすを、見てきて?」


(了解!)



精霊が見てきたところ、街には食糧がほとんどなく、カイルが持ち込んだ食糧を提供しても、足らなかったらしい。


急遽、通過してきた街へ何台か馬車が取って返した。空の馬車に、とりあえずの食糧を積み込むためだ。


カイルは騎士達を連れて、明日、街の周辺を調べる相談をしている。


風の精霊が戻ってきて、水鏡を空中に張った。そしてようやくこの目で見た。


寒さで凍り付いた大地と、木々と、命を。


「……っ」


馬車の周りを、凍えた風が吹きすさぶ。あまりにも、大地の底から冷えきって、水も自由に動けない。


昼間のはずなのに、分厚い雲が空を覆っている。


アリアーツェの小さな身体が、小刻みに震えた。


「ひどい……」


小窓から、顔を覗かせ外を眺めた。


(ああ──なんでこんな事に?)


自然と、両手を組み、祈る。



──空が、晴れますように。


──風が、歌いますように。


──光が、あたためてくれますように。



精霊達は、ずっとずっと遠くの果てまで、アリアーツェに見せていた。


この先の、幾つかの街も、村も、ここよりもっと酷い。人々だけでなく、全ての生き物が苦しんでいる。


祈りを捧げるのを、剣士も前前世も、止めない。アリアーツェがやるべきことだと、理解した。




(──助けよう)





変化は唐突に起きる。


清浄な風が、キラキラした光をともなって辺り一面を飲み込んで行く。


重苦しかった空気が吹き飛ばされて、上空まで──遥か彼方まで何処までも、何処までも飛んでいった。


空が一面晴れ渡り、温かな日が差し込む。


やわらかな雨がパラパラと降って、凍えた大地に染み込んだ。


木々が息を吹き返し、大地に緑の芽が生えてくる。


野営地にいた騎士達、使用人達はその不思議な現象の中心地を、信じられない思いで目撃した。


馬車の小窓から見える少女が、光り輝くのを。


街の住民達も、街から戻る途中だったカイル達も──踏みしめる大地があっという間に緑に覆われる様を見た。


驚き過ぎて、誰もが声を失い、いつまでも立ち尽くす。








──大地は、春に染め替えられた。


聖なる乙女によって──









奇跡を起こし、北の大地を救った聖女。


アリアーツェの名が、大陸中にひろがった頃。





「──何処へ行った……! 探せっ!」





幼い少女の姿は、彼らの前から忽然と、消え失せた。









…………


( '-' 三 '-' )


スターありがとうございますペコリ((・ω・)_ _))


|彡サッ!


…………

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