暗雲
カイルが教会に出向いた事は、皇帝に報告されていた。
そこで、地下に洞窟があり、石版があった事も──『聖女』についての伝承も。
『聖女』に何ができるのか、も。
いまだ、教会の上空をキラキラと光らせる精霊を、皇帝は疎ましく眺めやる。
「『浄化』か──なるほど」
報告するのはカイル付きの騎士の一人。
「では、『聖女』に依頼するか。未だ未踏の地の、『浄化』を」
北部地域で不作続きのため、食糧難になってきているとの、報告書に目を通す。
日照りで雨が降らず、水も不足。蓄えが底をつけば、民が暴動を起こすやも知れぬ、と。
「では、伝令を……」
「いや──カイルを呼べ」
騎士は深く頷いた。
何やら、遠くの雲行きが怪しい。
裏の畑でいつものように、畑の世話をしていて──急に後ろ髪を引っ張られるような感じがして、顔を上げたら気がついた。
精霊達も、不安を感じとったかのようにアリアーツェの傍に集まってきた。
「……?」
(イヤな予感がする)
精霊に頼んで、暗雲の場所を見に行ってもらう事にした。
最近、色んな事を試し始めた。そのひとつが、風と光の精霊に、遠くの地での出来事を写してきてもらう事。
(みてきたよー)
(なんかくるよー?)
精霊達の言葉も、より明確に聞き取れるようになった。
「水鏡にうつして」
(はーい)
畑の横に、楕円の水溜まりができて、波打ったあと、映像が映る。
馬車だ。三台も。あと、周りを護るのは、帝国騎士。
馬車の小窓が空いていて、風がさっと滑り込む。一番、豪華な馬車だ。中に居たのは……。
白磁の肌に青いくせっ毛と、空色の双眸の貴族然とした美青年。澄ました涼し気な顔を見て、心臓がすくみ上がる。
(なんで……!)
よくみれば、馬車を護る位置に、馬に乗る黒髪の騎士も一緒だ。
「……ここに、来る……?」
(となりのりょうちに、とまるって!)
(やどがないからって!)
(やかたを、たてる、らしいよ?)
「はあっ?」
なんで──と疑問で頭がいっぱいだ。婚約はされたが、名ばかりで、成人するまでは放置だと思っていたが、事情が変わったのだろうか? それとも初めから?
焦っても、何も分からない。
「精霊さん、なるべく会話を拾ってきて、お願い」
分からないなら、調べるしかない。
畑の水溜まりを消して、急いで部屋に駆け戻った。




