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十六話

警戒態勢発令から期限とされていた五日が経った。が、未だそれは解除されていない。王都から派遣されてきた騎士達が全力で捜索しても見つからないのは純粋に土地が広いのと異世界人の足が異様に早いかららしい。

そして今は六日目の夜。そこで事件が起こった。


アリスが異世界人に攫われた。

森を避けて依頼先に行くルートを通っていたらしいのだが、騎士に追われ女に手を出さなくなった異世界人が行動範囲を広めたから起こった事だ、と団長は推測していた。

なぜ攫われたのかがわかるかというと、身分証明書にはエマージェンシーコール機能があり、所属しているギルドに救助を頼めるからだ。それが届いた時偶然団長の部屋にいたからオレはこの事件を知っている。


「で、坊主。今こうしてコールが届いた後のGPS機能でわかった位置に向かっているが…勝算はあるのか?」

「正直ない。だから不甲斐ないがお前を頼る…今オレが使える限界を少し超えた量の力を分けてくれ。それでやりたい事がある」

「…わかった。お前は止めても戻らないだろう?」

「当たり前だ。異世界人のオレと話してくれたし助けてくれた。その借りはここで返す」

「それが聞けたなら満足だ…激痛がくるが足は止めるなよ」


その瞬間、体の至る所に熱線が埋められたような痛みが走る。余りの痛さに一瞬だけ足が止まるがそんな暇はない。進まなければ。


「よし、よく耐えた。これで俺の本体の魔力回路を1%共有した。これでお前の考えている事は出来るはずだ」

「…ありがとう!」


オレの考えとはズバリ、ブースターを使う事だ。

クトゥグアは炎を司る存在の様だから思いついた案で、背中に二つのブースターを装着して高速で移動するために使う。


「で、頼まれていたブースターは完成している。ここに転送するから使いこなしてみせろ!」

「任せろ!」


背中から少し後ろに二つの赤い魔法陣が現れ、そこから黒いプレートの様な物が出てくる。これがおそらくブースターだ、そこに急いで魔力を込める事で炎を舞い上がり体を押してくれる。


「ここから大体200mの距離にアリスの嬢ちゃんの魔力反応がある!突貫しろ!」

「応っ!」


イメージ通りの形で高速で進む。その速度は前の世界なら人の身では出せない速度に到達していた。


「無事でいてくれよアリス…ッ!」


夜の森を一筋の赤い閃光が駆け抜ける。果たして間に合う事は出来るのか…。


------


「うう…こ、ここは…」

「やあ、目が覚めた様だね」


ええと、わたしは…確か警戒中の森を避けて歩いてて…それで気がついたら意識がなくなって…。


「誰っすかあんた!?」

「僕かい?僕は冬藤宗谷。君の王子様だよ」


そう名乗った男は二チャリと笑顔…?をこちらに向けてきた。生理的嫌悪感が湧いてくる様な笑顔だ。


「そんな人呼んでないっす。とっとと解放して欲しいっすよ」

「くくく、今回のお姫様はせっかちだなぁ。名前は?」

「…自分を攫った奴になんか名乗りたくないっす」


そう言うと男は首をかしげる。もしかしたらこの人は既に異世界人を始末していてわたしを救助しにきてくれた…?


「攫った?僕の女にしてやろうと僕から出向いてあげたのにその言い分はないと思うなぁ。まあいいや、すぐに君も素直にしてあげるよ」


じりじりとにじり寄ってくる異世界人。その表情は下卑た笑みを浮かべている。嫌、来ないで…!


「どけえええええええええ!」


刹那、わたしの背後にあった窓から見た事のあるコートを纏った人が突っ込んできて異世界人の頭を蹴って部屋の奥の方に押し込む。


「なっ!?」

「其は星を観る焔、我が声に従い地を縫え!八幡星の楔スタインオブフォーマルハウト!」


入ってきた人の正体は飛鳥先輩だった。聞いた事のない詠唱をし、左手に魔力を集中させて杭の様なものを異世界人の肩に撃ち込みわたしの方に走ってくる。


「ごめん、待たせたな」

「ううん、助けてくれてありがとうっす!」


------


さて、地球野郎は奥で楔をぶっ刺したから当分は動けない筈だ。急いでアリスを担いで逃げなければ。


「ちょっとごめん」

「へ?うひゃあ!?」


腕を拘束していたロープを切り、お姫様抱っこの形でアリスを抱える。そしてクトゥグアから借り受けた魔力回路に力を込め脚力を強化して飛び込んできた窓から外に脱出し、ブースターに火を回す。


「クトゥグア!フルスロットルで行くぞ!」

「任せておけ坊主!嬢ちゃんは舌噛むから喋るなよ!」

「ちょ、誰の声っすか!?」

「後で説明する、無事に帰れたらな!」


大地を蹴り地を這う様な低空飛行で森を縫う。追跡が始まったらおそらく逃げ切る事は出来ない、だから真っ直ぐに森の出口を目指す。


「坊主、そろそろ拘束が限界だ!来るぞ!」

「わかった、距離はどれくらいとれた?」

「ざっと500、逃げ切るには心もとないな」


直後、後方から途轍もない爆音が聞こえた。瞬間的に視力強化の魔術を無詠唱で施すと、小屋があった場所は更地になっており異世界人が立っていた。


「くそっ、間に合うか…!?」

「あの異世界人…冬藤?は本当にやばいっす、このままじゃ逃げ切らないっすからわたしは置いて逃げてください!」

「大丈夫だ、黙って救われてろ」

「飛鳥先輩…」


オレの胸辺りを掴んで小さく丸まるアリス。こう言ったんだ、きっと生き延びて帰る。

と思ったのも束の間、何か途轍もなく恐ろしい予感がよぎり全力で右に体を動かす。


「…は?」


経験したことのない衝撃と共に鮮血が散る。何か長いものが空を舞ってオレから遠ざかる。


「ぐぅっ…ッ!進むぞクトゥグア!」

「わかった、例の物も用意しておくが間に合うかはわからない。全身全霊で時間を稼げ!」


左腕を後方から飛んできた斬撃に落とされた。が、それでも進むのはやめない。止まったらオレだけじゃなくアリスも死ぬ。それはダメだ。

アドレナリンが駆け巡る体に鞭打って森を走る。その後ろにはもう冬藤が遠く見える位置にいた。

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