九話
さて、薬草は摘んだしウサギは殺した。後はとっととゴブリンも間引いて帰るだけだ。
「なあセシル、一つ聞きたいんだけどいいか?」
「うん?どうしたの?」
「これから倒すゴブリンってさ、何をやって討伐対象になったんだ?」
「…確か婦女暴行と畑荒しかな。この森に逃げ込んでやり返そうにもできないんだって」
「…そうか。ありがと」
やり返せない。それじゃ被害に遭った人がいたたまれない。きっとこの考え方は自己満足のそれだ、けれどそうしないとオレが保たない。いつかこの今抱いている感情と冷たさを感じなくなるまでオレは被害者の為に戦うのだろう。
「あぁ、今回のゴブリンは五匹まとまって行動しているらしいよ。どうする?手助けは必要?」
「いや、いらない。自力でなんとかできる…こんなに余裕綽々と歩いてるくらいだしな」
目の前には獣道を闊歩するゴブリンの群れ。また茂みの中から様子を伺い、奇襲する算段を立てる。
(坊主、朗報だ。さっきのウサギのおかげで力の一部が返ってきた。トリガー引きっぱなしで低威力の弾が連射できるようになったのと一回ずつ引く事で炎のビームを発射できるようになったぞ)
(そうか、使わせて貰う)
五匹の並び順は前から二、二、一で歩いている。後ろの一匹をヘッドショットの奇襲で殺して対応の遅れた奴らを皆殺しだ。そう決めて銃を放つのと同時に突撃する。
「ギッ!ギゲャッ!」
最後尾にいたゴブリンから貧弱な断末魔が上がる。狙い通りヘッドショットは成功、反応の遅れた真ん中の列のゴブリン二匹をまとめて殺す。
「とはいかないよな、流石に」
「ギャギャー!」
残念ながら殺しきれなかった。右にいたゴブリンは上手いこと首と胴体を切り離せたが左は少し避けられ薄皮一枚持っていっただけに止まった。
残された三匹はオレに対面する順番に二、一とフォーメーションを組んで並び此方の出方を伺っている。
なら待ってても仕方ない、オレから殺しにかかる。狙いは後ろの一匹だ。
「殺す」
「ゲギャッ!」
突っ込んでいくと同時に奥の一匹目掛けてライフルを一発放つ。が、持っていた鉄製の棍棒を犠牲にして攻撃を防がれる。鉄を溶かす火力は無いのか、というかなくてよかった。
目前に迫った前衛二匹はタイミングよくクロスするようにオレ目掛けて棍棒をフルスイングしてくる。それをスライディングするようにしてかわし、無防備になった後ろゴブリンの心臓辺りに右手の銃剣をねじ込み、念には念をとライフルを一発。これで死んだハズだ。
そして余った左手の銃剣でフルスイングの反動でふらついているゴブリンの眉間を狙う。
「ギャァアア!」
「チッ、外したか」
眉間は外したが右目を後ろから貫通するようにビームは突き抜けていった。脳を焼かれたんだ、当然ゴブリンは力つきる。
これで残すは一匹。なんでもこのサイズの(だいたい120センチくらい)ゴブリンは10歳くらいの子供と同じ程度の力しか持っていないそうだ。
「グルル…ギャッ!ギャア!」
棍棒を前に突き出し精一杯威嚇してくる。ひどく滑稽に見えたそれを殺すべく着いた血糊を振り払い、ゴブリンに向かって突進する。
「最後だ」
「グギャアァア!」
最後の抵抗として今度は振り下ろす形でフルスイングをしてくる。それを右の刃で受け止め、勢いを乗せて刃を頭にぶち込む。
そうすると力のこもっていた棍棒から力が感じられなくなり、だらりとゴブリンの体が伸びる。
終わった。初めて人型の生物を殺した。…けれどそんなに思う事はない。ただ仕事が終わったとしか感じない。元のオレも実はサイコパス的なアレだったのだろうか?と疑問に思いながらコートの内側に銃剣を持っていき、クトゥグアに消してもらう。
「お疲れ。初仕事ほんとうにお疲れ様」
「ありがと。ホーンラビットは角を切り取ってきたけどゴブリンはどこを証明として持って帰るんだ?」
「右耳。…殺す事になれた?」
「まさか。でも不思議とそこまで罪悪感とかは無かったな。…よし、初給料だし帰ったらステーキでも奢るよ、今日着いてきてくれたお礼だ」
「いいの?もっと使いたい事とかあるんじゃないの?」
「いいんだ。黙って奢らされてくれ」
「そっか、じゃあお言葉に甘えて!ありがとうね!」
そう話しながら耳を刈り取り帰路に着く。こんな事をしてしまった手前そう易々とは元の世界には帰れないだろう。けれど悔いる気持ちはない。精一杯この世界で生きていこうと誓った。




