八話
日もある程度の高さに昇り、辺りが明るくなった森。中々の暖かさでクトゥグアのロングコートを着ていると少し暑いくらいの気温の中、オレは薬草の採取に勤しんでいた。
「なあセシル、薬草の30束って正確じゃないとダメなのか?少し量盛って報酬増やしたいんだけど」
「なかなか悪どいね君…まあ相手は薬屋だし買い取ってくれると思うよ、40束以下なら。それ以上だとがっつり値引きされるし依頼も来なくなりやすいからやめておくべきだけどね」
「なるほどな…じゃあこのくらいにして次のホーンラビットの討伐にでも行くか」
「オーケー、それじゃホーンラビットの溜まり場に案内するよ、付いて来て」
いつものように先行して駆けるセシル。木々を躱し茂みを割って突き進む彼女を追って走る事数分、六羽のウサギが草を食んでいるところに遭遇した。
額から一般のツノが伸びているからアレがホーンラビットなのだろう。
「うん、じゃあ頑張って倒してみて?飛鳥君なら苦戦もなく倒せるはずだよ」
「わかった、やってみる。…」
一つ大切なことを忘れていた。それはクトゥグアがいきなり武器になる事だ。普通に考えたら腕輪がいきなり二丁ライフルになるのはありえない、当然不思議がられるだろうしギルド側に報告が行くかもしれない。そうなったらクトゥグアがどうなる事か。きっと解体されるだろう。
(解体か…そいつは困るな、コートの尻の所に銃を構築しておく、それを引き抜いて戦え)
(わかった、行くぞクトゥグア)
頭の中で会話を済まし段取りを整え、今いる茂みの中から勢いよく飛び出しながら銃剣を引き抜きウサギの脳天に刃を突き立てるーーーーーーーーが、ここで予期していない事が起きた。
「キューッ!」
「…へ?」
血だ。返り血だ。なんで?ここはゲームみたいに切っても血は出ないんじゃないのか?だって異世界だろ?
呼吸が乱れる。思考がまとまらなくなる。殺したのか?オレが?生き物を?
「飛鳥君!?」
茂みから慌ててセシルが飛び出してくる。その声はひどく驚いていた。
「どうしたの!?何があったの!?」
「…殺した、んだよな、オレが、自分の手で」
「そうだよ!なんでそんなに震えて……そうか、君の世界はきっと殺しが身の回りでそんなに起こらない世界だったんだね。それじゃそうなるのも仕方ないか。
…これだけは言っておくよ、殺すのに抵抗があるなら冒険者はできない。その抵抗が振り払えないなら街に戻って他の仕事でも探そう?無理してまでやる必要はないし、きっと君なら他の仕事もーーー」
「いや、大丈夫だ。大丈夫」
震えは不思議と止まった。足は前へと進む。
「もう、オレは普通の高校生には戻れない。非道な行いをする最低な人間だ。けど、そうだよな、オレが生きていくにはこれしかできないんだ。だからきっと
この殺しはオレの人生で必要な殺しだ」
再び剣を構え散り散りに距離を取ったウサギを追いかける。当然追いつける訳はない。しかし少し開けた、遮蔽物となるものがない所に出た。
「クトゥグア、フォロー頼む!」
(随分と躊躇が無くなったな!坊主!)
全力で両手の銃剣を投げつけ、土障壁を発動させて退路を制限する。その退路も投げた剣があり避けるのは不可能だが。
「…二匹目」
血に濡れた剣を振り払い血糊を落とす。急いで戻れば依頼された数の三匹目も殺せるだろうか。
…が、戻るとそこには死んだウサギを掴んだセシルが立っていた。
「お帰り、吹っ切れた顔をしてるね。心配はいらないかな?」
「ああ、大丈夫なはずだ。…早く帰りたいしさっさとゴブリンも殺してしまおう」
「…うん。本当に少しの間なのに変わったね」
「それだけ殺す事ってのは大変な事なんだよオレの世界では」
「そっか、よし!じゃあ帰ったらステーキでも奢ってあげよう!」
「殺した後に肉って結構キツいと思うんだけど」
軽口を叩きながら歩を進める。次の獲物を求めて。




