第二部 〈新色紫の監視者〉
黒羽が大勢の人がいる中、魔力を使った。その結果、周囲の反応がどう変わるのか、黒羽はそれが心配だった。
志音、ケイ、彩芽、雫に対する、周りからの反応が変わるのではないか。黒羽が魔族とのハーフであるという事実を隠蔽していたという理由で、魔族嫌いの人間からぞんざいに扱われたりはしないだろうか。
先の事を考えずに力を使ったことが、今となっては悔やまれる。
しかし、そんな黒羽の心配も杞憂に終わった。
彼の予想に反して、周りからの扱いの変化や、校内で噂になっている等の報告は、一切なかった。
唯一変わった事と言えば——
決闘騒動から数日。特に変わったことも無く、黒羽達は平凡な毎日を過ごしていた。
朝のHR。担任教師の口から飛び出したのは、そんな平凡な日常をぶち壊しにする言葉だった。
「あー、実は今日、転入生が来ていてな、紹介するぞ」
「せんせー、何でこんな時期なんですか?」
生徒の一人がもっともな質問をする。
現在日付は十一月下旬。冬休みも近いというこの時期に転入してくるのは、どう考えてもおかしい。よっぽどの事情があるに違いない。
「うーん、言いづらい事なんだが、この間、北条が色々やらかしただろう? それ関係らしい」
「え、俺ですか?」
関係ないと思い込んでいた黒羽は、不意打ちの言葉にキョトンとする。
「まあ、詳しい事は本人に聞くと良い。入ってくれ」
教師が廊下に声を掛けると、音も立てずに扉が開いた。
しかし、その姿を見て、皆、声を上げることが出来なかった。
艶やかな黒髪のおかっぱ頭に、花の髪飾りを付けたその少女は、ここ、学校という場所に相応しいとは言えない姿だったからだ。
その姿に、事情を知っているはずの教師ですら、言葉が出ない。
「京極院、お前、何で和服なんだ? 制服、貰ってるだろう?」
そう、その少女は制服が必須となるこの場所で、なぜか和服を着ていた。しかもそれが普通であるかのように、平然としている。
というか、自然過ぎて担任が指摘するまで誰も気が付かなかった。
「む? この服か? ちゃんと許可はもらっておるぞ。やはりこの格好が一番馴染むのでな」
明らかに教師に対しての言葉遣いではないが、それを気にしたような素振りはない。
「そうか、なら良し。自己紹介してくれ」
「うむ、承知した」
黒髪の少女は、未だに状況が呑み込めないクラスメイトに向き直ると、自己紹介を始める。
「私の名は京極院紫蘭。お主たちが使っている武器などに組み込まれている術式の元祖、京極院家の跡取りじゃ。よろしく頼むぞ」
彼女は、何やらすごそうな自己紹介をするが、生憎、この場に京極院の名をしている者は居なかった。
「む、何だその反応は。まさか京極院を知らぬと申すかっ!」
無反応が癪に障ったのか、ムキになって声を荒げる。
「まあ良い。私の仕事は名を知ってもらうことではないのでな」
しかし、すぐに落ち着きを取り戻すと、今度は黒羽の元へ歩み寄る。
「そなたが北条か」
「あ、ああ、黒羽だ。えっと……よろしく?」
こういった時の対応をよく知らない黒羽は、無難に手を差し出す。
「ふむ、良いのう……」
その手を取ってにっこりと笑う紫蘭。
と、ここでチャイムが鳴る。HR終了の知らせだ。
「あー、時間だな。じゃあ、京極院、仲良くやれよ?」
担任が去っていくと、途端に教室が喧騒に包まれる。
「時に北条、そなたは強力な魔力を持っていると聞いた。その力についてどう思っておる」
「魔力? ああ、使えるなら使うべきだとは思うぞ。それで守れるものが増えるならな」
黒羽の考えを伝える。
「ほう、良いのう、良いのう」
しきりにうんうんと頷く紫蘭。
「ところで、何で俺のところに来た」
他にも人はいるだろう。
「ああ、そのことだが、私はそなたの監視を頼まれたのじゃ」
「は? 監視?」
「そう、監視じゃ。何やら上の連中は、そなたの強力な魔力が恐ろしいと抜かしておる。私にはそう危険な物には思えんがの」
「ちょっと待て、俺は今後監視されながら生活するのか?」
「なに、そう気にするものでもない。そなたには少々特殊な術を掛けて、怪しい動きをしたら、すぐに駆け付けられるようにするだけじゃ」
「十分恐ろしいんだが……」
俺のプライベートはどうなる。嘆く黒羽。
「ねえアンタ。急に出てきて何やってんのよ」
志音が遅れて話に参加する。
「監視と言っておるじゃろう」
「だからその監視って何なのよ」
「先ほども申したであろう。少々特殊な術を掛けてだな——」
明らかに状況を理解していない志音に、改めて一から説明を始める紫蘭。
長くなりそうだ。
「よう、黒羽。また面倒事か」
「うるせぇ、見せもんじゃねえぞ」
にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべながら近づいてくるケイに、黒羽はますます気分を悪くする。
「いやー、にしても、また美少女か。好みは分かれるだろうが、俺は好きだぞ、ああいうの」
「お前は最近いつもそれだな」
インキュバスだと発覚してから、ケイの口からは、女子の話題が増えた。
どこの女子がかわいいだの、あのアイドルがかわいいだの。
「当たり前だろ。淫魔の性欲なめんな」
むしろ今まで我慢してたことをほめてほしいわ。そう言うケイ。
「いや、隠せてなかったぞ」
「マジで!?」
むしろなぜ隠せていたと思ったのだろうか。
「なるほど、そういう事ね。じゃあ、よろしく京極院さん」
「うむ!」
何やらあちらは意気投合したらしい。がっちりと握手を交わしている。
「そういう事で、京極院さんのチーム入りが決定したわ」
「は?」
「いやいやいや」
急にどうしたというのだろうか。
「だって、チームに入った方が、監視もしやすいって……」
指先をつんつんしながら、段々と小声になっていく志音。しかし、その言葉はしっかりと聞こえた。
別に、黒羽としても、えらい人の命に逆らうつもりは無いが、
「監視は決定事項かぁ……」
思わず黒羽のため息が漏れ出たところで、授業開始のチャイムが鳴った。話は一旦中断される。
本格的に二日に一回の更新ペースです、夏樹です。
今回も新キャラ登場となります。お察しの通り、ヒロインです。和服姿の女の子、割と好きです。
引き続き、感想、評価、レビュー、ブクマをお待ちしておりますので、どうか、よろしくお願いします!
では、また次回!




