第十部 〈極大で秘密の影〉
極夜を倒した彩芽は、即座に黒羽の元へ向かうと、白夜の双剣による、間断ない攻撃に押され、じりじりと後退しているその姿が目に入る。
「なかなか粘るねっ!」
通常なら目で追えないような速度の刃を、身体能力の強化で、なんとか捉える。
初めは、彩芽が極夜を倒し、黒羽の元へ駆けつけてくれることを見越しての防御姿勢。しかし、それも途中から、攻撃に押されて、攻撃がままならない為の防御姿勢となっていた。
黒羽には余裕が無い。
「隙ありっ!」
「——っ!」
度重なるフェイントにより、判断力を鈍らせていた黒羽は、空いた脇腹に剣撃を叩きこまれる。
『北条黒羽、一ポイント!』
一気に歓声に包まれる。
「大丈夫?」
「ああ、まだ一ポイントだ」
既に大きく疲労した黒羽と、まだ余裕がありそうな白夜。このまま戦闘を続ければ、黒羽の敗北は必至だろう。
このままでは。
「援護は?」
「挟撃だ」
「りょーかい!」
二手に分かれて、白夜を挟んでの攻撃。注意が分散されるため、防御が薄くなりやすい。
無防備に立つ白夜へ、同時に攻撃を仕掛ける。
「甘いよ!」
双剣であることを活かして、二つの刃でそれを受け止める。
でたらめだった。二人の力を込めた一撃を、両手で、しかしそれぞれの手で受け止めていた。
「筋力強化かっ」
立ち止まっていたのは、身体強化を腕に回す為だったらしい。
「君はその程度じゃないだろうっ!?」
二人の刃を弾いて距離を取る白夜。
「君にはもっと力があるはずだよ。僕は聞いたんだ、あの人からね」
白夜の言う、あの人、とは恐らく黒羽の母親、千春だろう。日向兄弟に今回の事を依頼した張本人であり、黒羽が魔族とのハーフであるということを知っている人物だ。
黒羽に魔力を使えと言うのだろうか。
「これはまだ君の本気じゃない。それなら、俺は負けるわけにはいかない」
手加減は無しだ。そう言っているのだろう。
しかし、黒羽にも葛藤があった。今、負けてもデメリットは無い。しかし、ここまでやったのに止めるというのも後味が悪い。かと言って、ここで魔力を使ったら、それこそ黒羽の懸念していた、組織の混乱に繋がりかねない。
「くろにぃ、負けちゃうの?」
不安そうな顔だ。こんな顔は見たくない。
「大丈夫だ。絶対に守ってやる」
今も、そしてこれからも。
「日向先輩、本当に良いんですね?」
内に宿る力の気配を感じる。
それと同時に、その様子を見ていたギャラリーの喧騒が大きくなる。
それに構わず魔力を開放していく。
魔法陣は二つ。一つは背中に。一つは右腕に。
背中の魔方陣から黒く淀んだ力が噴き出し、次第にあるものを形作る。
それは黒い翼。
堕ちた天使の黒より、幾分か薄い黒。
右手の魔方陣から噴き出した黒も、ある物を形作る。
それは腕。
黒く淀んだ大きな腕は、更に黒刃の刀を作り出す。
「——っ、これほどまでに大きな力だとは思わなかったよ。まずいな。これは本気でやっても負けそうだ」
極大の威圧感。溢れ出す濃密な魔力に押され、足が竦む。
「この力は長く持たないので、早いうちに決めさせてもらいますよっ!」
背中の翼が大きくはためく。
それは脚力強化が足元にも及ばないような速度で加速する。
「——早いっ!?」
大振りの刀と、魔力の巨腕の一撃で、じりじりと押されていく白夜。
「ふんっ!」
渾身の力で振りぬく。
『日向白夜、一ポイント!』
双剣を交差させて防いだが、それを上回るパワーで切り開く黒羽。
「クッソ強いなっ……!」
双剣を構え直した白夜が呟く。
「まだ終わってないっ!」
後退した白夜を追うように飛ぶ。
ほとんど大上段の構えから、大きく刀を振りぬく。それは躱され、虚しく地面を叩いて、コンクリート片をまき散らす。
「そこだっ!」
横に飛び、家屋の屋根を伝って移動する白夜は、大振りな攻撃を躱された後の、大きな隙を突いて、背中に刃を突き立てる。
『北条黒羽、二ポイント!』
「なら……!」
背中に生えた翼。それを即座に変換させる。
形を変えた影が、作り出したのは腕。
後方にいる白夜を、そのまま叩き落す。
『日向白夜、二ポイント!』
技の応酬。その速度に一体、眺めるギャラリーはどれだけ付いて来れているのだろうか。
「おかしいな。手加減してないんだけど……」
汗を垂らして次なる攻撃に備える白夜。攻めるより、迎撃した方が容易いと考えたのだ。
黒羽は背中の腕を、翼に戻す。
「ラストだ」
そう言った黒羽はおもむろに、白夜の足元に手をかざす。
「捕らえろ!」
足元に現れた魔方陣から、黒い腕が伸びる。それはすぐに白夜を捕らえんと、その指を伸ばす。
「そんなことも出来るのかっ!」
腕の迎撃にまわる白夜は、隙だらけだ。
「これで終わりだっ!」
距離を詰めた黒羽は、必中を確信した一撃を放つ。
「悪あがきさせてもらうよ!」
持っていた剣の一本を、黒羽へ飛ばす。
「——っ!」
刀が白夜に当たるその瞬間、見事に黒羽の眉間に当たる刃。
『日向白夜、北条黒羽、共に三ポイント……っ! 残ったのは大神彩芽! 勝者は北条、大神ペアです!』
どよめきは最大限に達した。
黒髪の少年が、いきなり魔力を使いだしたと思ったら、今まで劣勢だった状況を、一人で覆したのだ。
「クッソー。本気でやって負けたのは悔しいなー」
その場に寝そべって、天井を見上げる白夜。
「話は極夜先輩に聞いてます。本当に彩芽を狙っていたわけじゃないって」
「ん? ……ああ、そっか。そうなるよね。うん」
歯切れの悪い言葉を吐く白夜。
「どうしたんですか?」
「ああ、いや、ね。彩芽ちゃんともっと仲良くできたらなって」
「そうですか。それは本人次第ですね」
「だよねぇ……」
自嘲気味の笑みを浮かべて、
「北条君は良いね。周りに美少女がたくさんだ」
「先輩だって、追っかけって言うんですか? たくさん居るじゃないですか」
「アハハ、そうだよね。でも、彼女たちは僕の外見を見てるんだ。だから王子じゃなきゃいけない。北条君はそうじゃないだろう? ちゃんと中身を見てくれている」
「苦労してるんですね」
「ああ、そうさ。結構大変だよ。変わってみるかい?」
「お断りします」
「アハハ、だよねー」
その笑い声は、一際大きく響いた。
本気で二日に一話更新にしようか悩んでます、夏樹です。
これにて第三章完結です。長いような気もしますし、短いような気もします。ですが、この作品はまだ続きます。今後ともよろしくお願いします!
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ではでは、第四章でお会いしましょう!




