第八部 〈道化王子の仮面〉
黒羽は今、茶髪の双剣使い日向白夜と、黒髪の大剣使い日向極夜の二人と相対していた。
黒羽の傍らには、鎌を装備した彩芽も居る。
現在決闘直前。
少し視線を上げると、そこには大勢のギャラリー。
彼女ら全員が日向兄弟に付いてきた、所謂追っかけだ。彼女たちは日向兄弟の勝利を信じているだろう。
——しかし、これは出来レース。勝敗は最初から決まっている。
その事を、ギャラリーの人々はもちろん、黒羽や彩芽でさえ、知る由は無い。
もちろん、彩芽は決闘の申し込みを断った。通常、こんなことにはならないだろう。そして、決闘の申し込みは、黒羽に向けられたものだったため、彩芽がこの場に立つことも無い。その筈だ。
しかし、確かに彩芽はこの場に居るし、決闘は始まる直前だ。
なぜこんなことになったのか。
「ということで、決闘の申し込みは受けません」
時を遡ること、僅か数十分。返事を聞くぞと現れた白夜に、昨日の彩芽の言葉を伝える。
「何でそんな甘ッ甘の話を平然とできるの!? キョクッ! これ全力で叩きたいんだけど!」
「やめろ馬鹿。本末転倒って言葉知ってるか?」
今にも暴走しそうな白夜を諫めるのは、極夜のいつもの仕事だ。
「北条、ちょっと来てくれ」
極夜は手招きすると、廊下に黒羽を呼び出す。
「ネタバラシしても良いか?」
「ネタバラシ?」
「ああ、今回の決闘についての話だ」
ネタバラシというと、何かのドッキリだろうか。まさか日向兄弟と彩芽がグルになって、今回の騒動を起こしたとか……。
「決闘の話な、受けてくれないか? こっちとしても、受けてもらわないといけない事情がある。お前の母親、千春さんと、音葉司令官に頼まれたんだ。お前たちを鍛えてやってくれって」
千春も永久も、位の高い役職に就いている。この程度の事は軽々とやってのけるだろう。
「なるほど。そういう事ですか。道理で白夜さんの印象が、聞いてた情報と違うと思いましたよ」
「その通りだ。迷惑をかけてすまなかったな。俺たちの頭じゃ、道化を演じて勝負に持ち込ませるしかなかったんだ。もちろん、ハクは本気で大神さんを狙ってるわけじゃない」
「それを聞いて安心しました。その勝負、受けます。うちの母は厳しいですから、もし、今回の事が失敗すると、何をするか分かりませんし」
オンとオフが明確な母親だ。しかもその相手は息子ではない。あまりにも危険だ。
「分かってくれたか。なら良い。俺もこの勝負、参加するから、大神さんとタッグを組んでくれ」
「え、それは厳しいんじゃないですか? 俺たちほとんど連携訓練なんてしてないんですよ?」
双子ということは、それだけ行動を共にしているということだ。しかも、相当な実力もあるらしい。勝てるビジョンが見えない。
「俺もハクも適度に加減する。俺の場合は早々にリタイアするさ。二人で強敵に挑んでこい」
なるほど。
「分かりました。頑張ります」
「それで良い」
黒羽は、白夜の元に戻ると勝負を受けると伝える。
「キョク、何吹き込んだの?」
「お前は知らなくて良い。予定通りやれ」
「……まあ良いけど。じゃあ、早速向かおうか。実は予約しておいたんだ。無駄にならなくて良かったよ」
途中、日向兄弟の取り巻きをぞろぞろ引き連れながら彩芽の教室に寄り、極夜から聞いた話をそっくりそのまま伝えると、彼女は渋々ながらも同意した。
「そういうことならやるー」
安心したとばかりに、黒羽の腕へ己の腕を巻き付ける。
「うーん、やっぱり全力でやっちゃダメ?」
「加減はしろ」
日向兄弟は、そのルックスが故に、浮いた話が作りづらいのだが、それはまた別のお話。
「やっぱり勝てる気がしねえ」
ここで冒頭に戻るのだが、明らかに白夜が本気の目をしている。
それに何より、
——ギャラリーの目が怖いよー。
王子が遂に動いたと思ったら、ターゲットになったのは全く知らない美少女だったギャラリーが、相対するその白髪の美少女を、形容できないような目で見ている。
「これ、勝てるの?」
彩芽が吐いた言葉には二つの意味がある。
まず、実力として勝てるか。そして、そもそも勝って良いものかどうか。
「大丈夫だ。俺が守る。そうだろ?」
「そ、そうだよね。あはは……」
不意打ちを受けた彩芽は、思わず赤面する。
『ああ、ホントに爆発してほしい……』
ギャラリーに紛れてその様子を見ていたケイは、思わず独り言ちる。会話の内容は聞こえてこないものの、淫魔である彼の特性上、何を話しているはある程度分かってしまう。
『羨ましい……』
もちろん、志音もその場に居た。
ケイとは違い、魔族ですらない彼女も、変化した雰囲気で、なんとなくの会話の内容を察したらしい。思わず爪を噛む。
『では、そろそろ始めます。ルールは三回攻撃を当てられた者から退場。先に、相手チーム二人を撃退したチームの勝ちです。開始は今から三分後。では……散開ッ!』
アナウンスを任された少女の言葉に従い、各々、スタート地点を決める。
勝敗が元から決まりながらも、その気配を誰にも悟らせることなく、戦いの火蓋は落とされた。
また一日空いてしまい、申し訳ありません、夏樹です。
なぜ、更新が空くのか。その最たる理由はモチベーションです。読んでくださってる方がいらっしゃるのか。そもそもこの話は面白いのか。書かなくてもバレないんじゃないか。そんなことを考えると、モチベーションがダダ下がりしまして、遅筆の二乗です。
ではでは、私のモチベーションアップに貢献してくれる方は、感想、評価、レビュー、ブクマをよろしくお願いいたします!
また次回、お会いしましょう。




