第七部 〈昔からの想いは〉
「やらない?」
白夜から決闘の申し込みがあった同日。下校中に、黒羽はその決闘についての概要を彩芽に話していた。
「雫ちゃんが強いって言ってるときは、本当に強い時だと思うんだよねー」
いつも通り、緊張感のない声でその申し込みを断る。
「それにー」
彩芽は、一歩先行すると振り返って、
「そんなことしなくても、くろにぃが守ってくれるでしょ?」
にぱっと満面の笑みを浮かべる。
「……そうだな」
幼い頃、人と違うだけでイジメられていた彼女を助けたのは、黒羽だった。
家も近く、親も知り合いだったから、というのもあるが、それ以上に黒羽は、彼女を一人の人間として見ていたのだ。髪の色が違うくらい何だ。目の色が違うくらいで何がおかしい。黒羽は人にあまり興味を持たない。だからこそ、彼女を見た目で判断するようなことはしなかった。
そして、何度か彩芽を助けているうちに、彼女は黒羽に懐いた。妹のような存在になった。だから、彼女の望まない結果を出すわけにはいかない。
彩芽が転校したことで長らく忘れていたことだ。
「髪の色が違うってだけでイジメられて、それをくろにぃが止めてくれて、それでも無くならなかったから転校して、ここに帰って来る時も大変だったんだよ? お父さんもお母さんも、心配だって聞かなくて。でも、くろにぃが居るって言ったら、渋々許可をくれたんだ。だから——」
冷たい風が、彼女の髪を揺らす。
「——くろにぃは私をお嫁さんにする義務があります!」
「……なあ、一つ聞くが、シリアスな雰囲気はどこ行った?」
「いひひ、引っ掛かった? 私はシリアスな話なんて嫌いなの。あ、でもお嫁にしてっていうのはホントだよ?」
悪戯に笑う。
「そうか、考えるだけ考えとくよ」
「あ、本気にしてないでしょー」
「そんなことはない。元からお前が俺を好きなのは気付いてたぞ」
「えっ?」
さらっと重大発言をする黒羽。
「ちょ、ちょっと待ってね! ……あれー、おかしいな。こういうのは普通気付いてないはずじゃ……」
お約束を無視してないかなー……。何事かをブツブツと呟く彩芽。
「おい、どうした。もしかして実は嘘で、俺が自意識過剰のやばい奴みたいな感じか? もしそうなら悪かった。だけどな、もしそうなら気軽にベッドに乗るなよ? 勘違いされるのは仕方ないからな」
なぜか責任転嫁からの逆説教を始める黒羽。
「そもそも男の家に居候ってのが良くない。何が起こるか分からないだろ? ……って聞いてるのか?」
「う、嘘じゃないけど……嘘じゃないけど、嘘にしてほしいよっ!」
涙目で意味不明なことを口走りながら去っていく彩芽。その背中は、追って来るなと切に語っていた。
「結局何だったんだ……」
彼女の好意は嘘ではない、本人がそう言っていた。
これに関しては、気付くな、という方が難しいだろう。普通の女の子が、好きでもない男のベッドに入り込んだり、好きでもない男と同居したりなどするわけがない。
「何か返し方間違ったか……?」
世に言う、バッドエンドルートだろうか。とは言え黒羽はその手のゲームをやったことが無いため、よく分からないが。
まあ、何が変わるわけでもないよな。
彼女の好意に気付いていたからといって、劇的な変化が起こるなんてことは無い。現に、黒羽は彼女の気持ちを知った上で、あの生活を送っていたのだ。今更どうという事は無い。
しかし、
「何かモヤッとするんだよなぁ……」
本人でも理解できない感情を抱きながら、帰路に着く。
更新が空いてしまった上に、短くなってしまい申し訳ありません、夏樹です。
今回の黒羽君にはお約束を無視してもらいました。なぜかというと、勝手に動いたからです。
ではでは、読んでくださってる方がいらっしゃれば、短くならないように気を付けますので、今後ともよろしくお願いいたします。
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