第六部 〈決闘の申し込み〉
「様子はどうだ?」
同ショッピングモール内。とある場所で、男が二人、女が一人。
「問題ないです。女の子を追い詰めるのは心苦しいですけど、一応、仕事ですから」
「お前には、あまり暴走しないでほしいがな。諫める俺の身にもなれ」
女の問いに、それぞれ応える。
「まあ、アイツはそんなことで折れる程ヤワじゃない。勝たなくて良い、それなりに相手をしてやってくれ」
『了解です』
「頼んだぞ。アイツのためだ」
女はその場から去っていく。
「勝ったら俺の物にして良い、ってのは本当なのかな?」
「あの人が言ったことを俺に聞くな。分かるわけがないだろう」
「それもそっか。じゃあ、行こう」
二人の男は歩き出す。その姿は、すぐに人ごみに紛れて消えた。
「……寒い」
「そう? じゃあ私がくっついてあげるー」
「やめろ、変な目で見られてるだろうが」
十一月も終わるという頃、寒さは日増しに厳しくなり、初雪も近く思えた。
そんな冷え冷えとした朝。どこかの本なら、地球をアイスピックでつついたら、ちょうど良い感じにカチ割れそうだ、と書かれていそうな日。
もちろん平日、登校日の今日。コートを着てても、寒さを完全には防げず、思わず口をから出たのは、今の状況を完璧に表現する一言だった。
「でも暖かいでしょ?」
人肌は、人を温めるのに一番効果的だという。確かに暖かい。
しかし黒羽としては、腕に柔らかいものを感じるので、気まずい事この上ない。
「いいから離れろ。凍死するわけじゃない」
密着する彩芽を無理やり引き剥がして、普通に歩かせる。
「おーおー、朝からイチャついてんなぁ。爆発しとけ」
学校が近づいてきたからか、家の方向が違うケイと合流した。
「どこがイチャついてるように見える」
「イチャついてるようにしか見えねえよ」
本人に自覚は無いのだろうか。そう考えかけて、諦める。自覚があったらここまで彼女たちは苦労していないだろう。
「あら、今日は早いのね」
なぜか志音とも合流する。
「お前が遅いんじゃねえか?」
「え、嘘!?」
なぜいつもより遅いのに気が付かないのだろうか。
「あ、あれね。寒いから歩みが遅くなったのよ」
誰への言い訳なのか。
「別に間に合うから良いだろ」
遅いとはいえ、遅刻したこと自体は無い。
「そうね。特に急ぐ用事も無いし」
その日、もちろん、遅刻はしなかった。が、志音は急ぎの用事があったらしい。担任の説教を聞かされていた。
「ひどい目にあったわ……」
「遅くなったお前が悪い」
バッサリと切り捨てる黒羽。
「し、知らなかったのよ!」
「忘れてただけじゃねえのか?」
「かも、しれないけどさ」
どちらにしろ志音が悪いことに変わりはないらしい。
「腹いせに飲み物買ってきて」
「馬鹿なのか?」
どこの誰が腹いせの命令に従うというのか。
「冗談よ。飲み物はさっき自分で買ってきたし」
「馬鹿なのか?」
「二回言った!?」
自覚してるけどさぁ……。気分が目に見えて沈んでいく志音。
「おいおい黒羽。なに志音イジメて楽しんでんだよ」
人聞きの悪いことを言いながら現れるケイ。
「残念だが、俺に人をイジメて楽しむ趣味は無い」
「そうか、そいつは残念だ」
いったい何が残念なのか分からないが、とりあえず、当人の中では残念なことなのだろう。
「何の話してるの?」
そんな時、現れたのは、相変わらず小柄な男子、一之瀬ナナトだ。
「志音が己の失態を棚に上げて、俺に八つ当たりの命令をしてきたって話だ」
「ええっ!? そんな酷いことを……」
「ちょっと! 変な情報植えつけないでくれる!?」
志音が憤慨しながら割って入る。
「そうか……橘さん、そんな人だったんだね……」
「いやいやいや、嘘だから! 黒羽の言ったこと嘘だから!」
いや、間違ってないぞ。その言葉は志音の叫びにかき消される。
『やあ、北条君、居るかい?』
そこへ、廊下から嫌な声が聞こえてきた。極力関わりたくない。
「居ません」
「何で本人が否定して誤魔化せると思ったんだい!?」
声の主は、先日の演劇で一躍有名になった日向白夜だった。
その登場の噂は、一気に伝播していき、一瞬で廊下には人だかりが出来上がっていた。
「まあ、そんなことはどうでも良いんだよ。今日は君に、決闘の申し込みをしに来たのさ」
「決闘?」
「そう、決闘。君が勝てば、僕は今後、君たちに関わらない。そんな感じでどうかな?」
「俺のデメリットは」
「負けること。それだけ」
一見、デメリットが無いように思えるこの提案。しかし、本当は違う。彼は確実にその場に彩芽を呼ぶだろう。そして黒羽の負けた姿を見せて、気を逸らそうとしているのだ。
「なるほど。俺だけじゃ決められないことですね。あとで彩芽に聞いておきます」
「うん、そうしてくれると助かるよ。返事は後日、聞かせてくれ。じゃあ」
廊下に出来上がった人ごみを、今度は引き連れて去っていく白夜。
「ねえ黒羽、どこで知り合ったの?」
王子と呼ばれる有名人と、接点は無い。その事を分かってか、志音が質問する。
「彩芽がナンパされた」
「ええっ!?」
驚き方がうるさい。
「へえ、あんなイケメンでもナンパなんてするんだな」
意外そうな顔で聞くケイ。黒羽の感覚では、イケメンほどナンパするように思えるのだが、違うのだろうか。
「何か大変そうだね」
「まあ、面倒だな。執念深い」
「面白そうだけどね」
「本当にそう思ってるのか」
「うん」
彼の考えることはよく分からない。しかし黒羽としては、分からなくても構わない。
先日、とある方に、文章に余計な情報が多すぎると言われました、夏樹です。
今回はどうでしょうか? 上手くできたでしょうか?
もし、何かあれば、感想やレビューで言っていただければと思います。もちろん、評価やブクマもお待ちしております。ではでは、また今度お会いしましょう。




