第五部 〈イケメンの執念〉
「やあ、彩芽ちゃん、奇遇だね」
休日、家にやってきた雫と、珍しく家から出る準備をしていた彩芽に連れられ、黒羽は近くのショッピングモールに来ていた。役割は主に荷物持ち。黒羽には到底理解できない量の商品を持たされている。
そんな中、現れたのは先日彩芽をナンパした、日向白夜その人だった。
彩芽はその姿を見つけるや、黒羽の背中に隠れて白夜の視線を切ろうとする。
「くろにぃ、私、名前教えてないんだけど……」
彩芽がその怯えを、より濃いものにする。
「調べさせてもらったよ。俺のファンにかかれば一発で分かるのさ。……滅茶苦茶説得に時間かかったけどね……」
極夜に見咎められたばかりだというのに、執念がすごい。
「お兄さん、この人誰ですか?」
「ああ、雫は知らないのか? 演劇に出てた人だ。王子って呼ばれてたやつ」
「あー、あの人ですか。道理でなんか光ってるなって」
その表現はどうなのだろうか。いや、実際本当にカッコいいオーラ的なもので、光ってるようには見える。というか眩しい。性格さえ直せば、どこ行っても恥ずかしくないレベルで。
「そんな偶然を祝して、連絡先を交換——いってぇ!?」
突如飛んできた手刀に悲鳴を上げる白夜。
「何すんだよキョク!」
手刀の主は、白夜の双子の弟、日向極夜だ。
「男が居る前でナンパするなって前も言ったろうが。少しは自重しろ」
「だって、この娘一人にならないんだよ? 常にこの男子と一緒なんだよ?」
「ならそういう事だろうが。察しろ」
「察する? 何を?」
「お前馬鹿じゃねえのか?」
呆れて言葉も出ねえよ、と極夜。
「だって付き合ってるなら最初からそう言うでしょ? なら違うじゃん」
その言葉を聞いて、彩芽は素早く黒羽の腕に手を回す。
「じゃあ私たち付き合ってます」
「じゃあ!? じゃあって言われたんだけど!」
「じゃあ、希望は無い、諦めろ」
「じゃあ、じゃないよっ!」
ショッピングモールだという事を、完全に忘れて叫ぶ白夜。無論、周りの客からは白い目で見られている。
「俺は諦めないからなっ!」
黒羽達を指差して、涙目で去っていく白夜。残された黒羽達は、どうしていいやら分からなかった。
「すまん。なんかまた面倒なことになったな。ああ見えて諦めが悪いから、もうしばらく我慢してくれ。峠を越えたら大人しくなるはずだ」
双子だからこそ分かることだろうか。
「お兄さん、あの人強いですけど、大丈夫ですか?」
「何で戦うことになってるんだよ」
「え? 女を取り合うと言ったら決闘じゃないですか」
「俺が彩芽を巡って戦うのか?」
「くろにぃ、頑張って」
胸の前で握りこぶしを二つ作る彩芽。正直言って愛らしい。
「頑張って、じゃねえ。俺は戦わんぞ」
『えー』
「えー、じゃない」
「楽しそうなとこ悪いが、俺はもう行くからな。前も言ったが、白夜がなんかやったら言ってくれ」
そう言って去っていく極夜。
「どうします?」
「何をだ」
「どうやって勝ちましょうか」
「戦う事前提で話すの止めてもらっていいか?」
白夜の登場でそれなりの時間を使ってしまった彼らは、足早に買い物を再開する。
「なあ、本当にこんなに使うのか?」
尚も、ショッピングの荷物持ちをさせられている黒羽が持つ袋には、大量のアクセサリーが入っていた。とは言え貴金属ではなく、プラスチック等の安物だが。
「そもそもうちの学校、武器以外のアクセサリーは禁止だろうが」
「くろにぃ、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ?」
「そうです。バレなきゃ犯罪じゃないんです」
「いや、そもそも法律じゃないからな。バレても犯罪じゃねよ」
どうしてこうも、考え方がおかしい女子しか居ないのか。黒羽は己の運の無さを呪う。
「まあ、それは冗談です。普通に休日にしかつけませんよ」
「そうか、それなら……良いのか?」
あまり校則を意識したことは無かったが、休日のアクセサリー着用までは何も言われないような気もする。
「それにほら、あたしの場合はピアスなんて付けられませんし」
自分の耳を見せて言う。そこには彼女の武器である双剣、〈平和の雨〉の待機形態が、イヤリングとしてついている。己の武器を外すわけにもいかない。
「彩芽も意外だよな。お前、アクセリーなんてつけるやつだったか?」
少なくとも、黒羽の知ってる彩芽は、自分を着飾ったりするような娘ではなかった。
「んー、意識の変化、かなー」
「よく分からん」
この場では、当人と雫にしか分からない言葉で茶を濁す。
「そのうち分かるようになると良いんだけど……」
「何か言ったか?」
「いいやー何にもー。雫ちゃん、もう行こー」
「そうだね」
「あ、おい」
大量の荷物を持たされたまま、黒羽は立ち尽くす。正直重すぎて少し休みたい。
彼女らの姿が人ごみに紛れて見えなくなってから、黒羽は大きな溜息をつく。
「あー……めんどくせえなぁ……」
今回は、舞台がいつもと少し違います、夏樹です。え? 前回も少し違かっただろ? そ、そうですね(汗
何はともあれ、今回のイケメン、執念深いですね。彼は書いているうちに勝手に執念深くなりました。私のせいではありません。
ではでは、感想、評価、レビュー、ブクマお待ちしております! この作品を読んでくださってる方がいましたら、感謝の意を示すとともに、次回もお会いしましょう!




